表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切りの代償  作者: 瑠依
7/10

第七話 覚悟

「はぁ。」

「何、溜息吐いてんの。」

 午前中の講義が終わり、食堂へとやって来た俺。隣には大学で知り合った、友人の川崎健太がおり、俺の溜息を不思議そうな顔で見つめていた。

「何でもない。」

「そうか?

 あ、そういえば、最近おまえ佐藤と仲いいよな。」

「ぶっ。」

 飲んでいたコーヒーを勢い良く噴き出す俺。勿体無い!

「仲良くない、仲良くない。」

「そうか?」

 そう言って、何事もなかったかのように、カレーライスを食べ始める健太。

(まずいな。)

 噴き出したコーヒーを拭い、学食の中で一番安いうどんを食べながら、そのような事を考える。俺と佐藤は昨日知り合ったばかりだ。しかしそれを、たった一日で、周りの奴等が気づき始めている。

(健太は俺と仲がいいから、気づくのは当たり前としても、麻実ちゃんにも気づかれちゃったしなぁ。)

 それもこれも、佐藤が目立ち過ぎる所為だ。こんな事では、すぐにでも高田さんの耳に入ってしまうだろう。どうしたものだろうか。

(これからは極力、人前で佐藤と関わるのは止めよう。)

 一人そう決意し、残りのうどんを流し込むように食べた。

 まぁ、問題は奴なんだけどな。



「近藤くん!」

 そう呼ばれ振り返ると、高田さんが笑顔でこちらに駆け寄って来た。いつも下ろしているサラサラの長い髪の毛は、頭の高い位置で結えられている。紺色のジャージを着て、手にはテニスラケットを持っていた。おそらく、これからテニスサークルがあるのだろう。

「これから活動?」

「うん、そうなんだ。」

 いつもと大分イメージが違っており、俺は少しドキドキする。可愛いな、おい。

「そうだ!近藤君、これから暇?何か予定ある?」

「え、いや、七時からバイト入ってるけど、それまでなら暇かな。」

 今日は四限目の講義が休講だった為、まだ時間に余裕がある。現在の時刻は三時。俺のマンション、大学、バイト先、この三つは大分近い位置に立っており、移動時間もそんなに掛からない。あと三時間ちょっとは大丈夫であろう。

「じゃあ、これからテニスサークルに来ない?」

「へ?あ、いや、でも・・・」

「いいから、いいから。」

 そう言って、俺の手を引っ張りながら、歩き出す高田さん。ちょっと待って、高田さん。周りからの視線が痛いんですけど。心なしか、殺気の混ざった熱烈な視線を感じるんですけども。

 そんな視線に冷や汗を流しながら、俺は前を歩く高田さんを見て、こう思った。

 高田さんて、案外強引なんですね。



 高田さんに連れて来られた場所は、校舎から少し離れたテニスコートだった。きちんと整備されており、俺の想像以上に綺麗だった。今日はそんなに暑くもなく、きっと絶好のテニス日和なのだろう。

「あれ、マッチじゃん。どしたの。」

「あ、鈴木。」

 コートの中でラリーをしていた同じ学科の鈴木が声を掛けてきた。マッチというのは、俺のあだ名で、こう呼んでくる奴は多い。近藤という苗字から、皆マッチと名付けたのであろう。安直な考えである。

「鈴木もテニスサークルに入ってたんだな。」

「おう。マッチは何、テニスサークルに入りたいの?」

「いや、俺は「私が連れて来たの。」

 鈴木の問いに答えようとした俺を遮って、高田さんが俺に代わって答えた。高田さんはいつの間にか、上のジャージを脱いで、Tシャツ姿になっていた。その白くて細い腕に、ラケットを二本抱え込んでいる。

「今日は人も少ないし、別にいいでしょ?」

「まぁ、いいんじゃね。」

 当事者の俺を差し置いて、何やら二人でどんどんと話が進んでいっている。何かもう俺、参加決定になっていませんか。何も言い出せない自分が悲しい。この草食系男子!

「近藤君、私の相手してくれない?」

「いやいやいや、ちょっと待って高田さん。俺、テニス経験あんまりないよ?高校の授業で、ちょこっとやった事あるくらいで。」

 いきなり何を仰います、高田さん。週に三回、テニスサークルでテニスをしている高田さんからしてみれば、俺なんか蟻んこ同然。当然、話にもなりませんってば。

「いいの、いいの。私すっごく下手で、皆の相手にならないの。だから、初心者の近藤君くらいが、調度いいかなぁと思って。あ、ラケットは私の予備のやつ、貸してあげるから。」

「・・・さいですか。」

 少し複雑な感じがしないでもないが、高田さんと仲良くなる為には、調度いい機会なのかもしれない。これを機会に、もう少し高田さんと仲良くなってみよう。

 高田さんは笑顔で俺にラケットを渡すと、腕を回しながらコートの中へと入って行った。

「鈴木、部外者の俺が参加してもいいの?」

「まぁ、真面目な部活動な訳でもないし、全然構わんよ。皆、たびたび友達連れて来るしな。

 ただ・・・」

「ただ?」

 少しだけ神妙な顔をして、鈴木がこちらを見てくる。その哀れむような目に、俺はとても嫌な予感がした。

「高田が男を連れて来たとなれば、サークル内、いや大学内が大騒ぎになるだろうなぁと思って。

 分かる?」

「・・・分かる。」

 学科内で一番の美少女と謳われる高田さん。テニスサークルに入っている事により、他の学科とも繋がりを持っている。当然、他の学科でも綺麗だと有名なのだろう。もしかしたら、高田さんは学科内で一番ではなく、大学内で一番の美少女なのかもしれない。そんな高田さんが、サークルに男を連れて来た。しかも、今高田さんは彼氏がいない。連れて来た男は、高田さんの何?もしかして彼氏なのか?そのような噂が、大学中を飛び交うであろう。そして、いずれバレるであろうその噂の原因の俺は、またあの殺気の混ざった熱烈な視線を頂戴する事になる。

(俺、こんなに波乱の人生送るような、人間だったっけ?)

 平凡な男だと思っていたのに、平凡からどんどんと遠ざかっているような気がする。これから起こり得るかもしれない想像に、勝手に冷や汗を流す俺。もう駄目だ、俺のキャパ超えてます。

「近藤くん、早くー!」

 先にコートに入っていた高田さんが、待ちきれないかのように手を振って呼んでくる。

「大丈夫か?」

「・・・おう。」

 心配そうに覗き込んでくる鈴木の気持ちをありがたく思いながら、俺は覚悟を決めた。ここまで来てしまったら、もう仕方がないだろう。行くしかないでしょう。その決意を胸に、俺はコートの中へと入って行った。


 ・・・なんて、少し大袈裟ですか、俺。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ