第三話 接触
俺はトボトボと、次の講義がある教室へと向かっていた。高田さんの件を引き受けてしまった事に、少し、いやかなり後悔し始めていた。
やばい、気が重た過ぎる。もしかして俺がこれからしようとしている事は、とてつもなく酷い事なのでは?いや、もしかしなくてもそうだ。あー、でも三万は欲しい、欲しい、欲しい・・・
(・・・ん、でも待てよ。)
俺は教室に向かう足を止めた。その時丁度、俺の後ろを歩いていた女の子がいたらしく、俺が急に足を止めたことに、とても驚いていた。すんません。
(普通に考えよう。いくら俺が高田さんの気を引こうと頑張っても、高田さんが俺の事を好きになるとは限らない。そうだよ!佐藤の話を聞く限りでは、いきなり現れて「ヘイ!ベイビー、俺と一緒にお茶でもしなぁい?」なんて言うような(言うのか?)軽く振舞う俺の事を、高田さんが好きになる可能性なんて、万に一つありえねーって。ということは、こんな馬鹿みたいな茶番は、しなくてもすむ。)
俺は止めていた足を、再び教室へと動かし始めた。
(そしたら佐藤に、頑張ったんだから少しくらいカンパしろよ、と迫ればいい。丁度、俺の両親の事で勘違いしてるみたいだし。少しくらい、お金をくれるのではないだろうか。え?プライドや羞恥心はないのかって??そんなものより、今はお金の方が大切なのだ。
フフフ、高田さんを傷つけずに、お金も手に入れる。よし、その手でいこう。)
何やら少々犯罪ちっくな事を考えながら歩いていると、もう教室の前に着いてしまった。中からは、生徒の話し声が聞こえてくる。ドアを少し開け、佐藤に借りた高田さんの写真を見ながら、その本人を探す。なぜ高田さんの写真を、佐藤が持っていたのかは、あえて聞かなかった。ストーカーみたいだぞ、佐藤。ていうか今の俺の行動も、ストーカーそのものだな、おい。
そんな考えを押し殺して、静かに高田さんを探すことにした。
(あ、いた。)
高田さんは後ろの方の席に座って、携帯をいじっていた。本人を目の前にすると、また一段と気が重くなる。大丈夫かな、俺。
(・・・でもまぁ、仕方がない。行くか。)
俺は意を決して、高田さんに近づいて行った。彼女に近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなる。落ち着くのだ、俺。しっかりしろ。
大事な第一声だ。
「隣座ってもいい?」
そう言うと、彼女はゆっくりと顔を上げた。長い黒髪に、気の強そうな瞳。第一印象は、すごく美人だと思った。こんな綺麗な子、俺には無理だろ、佐藤。
不思議そうにこちらを見上げてくる女の子、高田美香。何やら変な事に巻き込まれてしまった金
無し苦学生、近藤拓也。
はたして彼は、彼女を傷つける事なく、お金を手にする事ができるのだろうか。
彼の挑戦が、今始まる。