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裏切りの代償  作者: 瑠依
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第二話 回想

「はぁ?おまえ本当に高田実香を知らねーの??」

「知らん。」

 驚きを隠さずに、少し馬鹿にしたように言う佐藤。知らないもんは知らないんだから、しょうがないだろう。

「高田実香って言ったら、俺らの学科内で一番の美少女って評判じゃねーか。」

 あー、そういえば隣で友達が、そんな事言ってたような気がする。ちゃんと聞いてなかったからなー、俺。

「おまえ、何でそんな良い顔してんのに彼女とか作らねーの?あ!もしかして、そっちの趣味があるとか?」

「あほか。」

 少し冗談気味に、自らの体を抱きしめる佐藤。きもいぞ、おまえ。

「俺は誰かさんと違って金がねーんだよ。生活資金稼ぐだけで精一杯。彼女なんか作ったら、金が必要になってくるだろ。」

「何で?親は??」

「・・・あー、親はちょっとな。」

 うちの母は、ちょっと、いやかなり変わっている。そんな母に対して、父は良識のある、まともな人なのだが。

 大学入学が決まり高校を卒業して、中休みを満喫していた俺に、母はこんなことを言ったのだ。



「ねぇ、拓也。一人暮らし、してみない?」

「一人暮らし?」

 ニコニコと笑いながら、楽しそうに話す母さん。自分の母親のことをこう言うのもなんだが、子どもが二人もいるとはとても思えないほど、可愛らしい容姿をしている。しかし外見に騙されてはいけない。彼女は二重人格者だ。俺と妹の香奈に対しては、扱いが酷過ぎる。人様には天使の様な笑顔を振り撒く癖に、俺等には悪魔の様な笑顔を振り撒く。特に父に対してのぶりっ子ぶりは凄まじいものである。たまに気味が悪くなるほどだ。

 皆からも若いだの可愛いだの言われているが、本当のところ、俺は母さんの年齢を知らない。絶対に教えてくれないのだ。一体何歳なのだろう。若くて可愛いなどと言われているが、きっとすごく年をとっているに違いない。

「そう!なんと浩二兄さんが、管理しているマンションの一室を、あなたにタダで貸してくださるんですって!!」

 浩二兄さんとは、俺の伯父に当たる人だ。金持ちで気前がよく、太っ腹な人なのである。

「まじで?そりゃ、してみたいけど・・・」

 炊事、洗濯、掃除を一人でするのは面倒だが、キャンパスライフに一人暮らしとは、非常においしい話である。何にも気がねすることなく、過ごせるであろうし。家に居たら、なにかと妹が絡んでくるしな。

「でも俺、ずっと部活しててバイトする時間なかったから、金がないよ。生活費とかは仕送りしてくれんの?」

「それに関しては大丈夫よ・・・

 さぁ、どうする拓也?」

 どうするもなにも、生活費を仕送りしてくれるのならば、拒否する理由なんてどこにもない。心の中で小さくガッツポーズした俺。なんか楽しそうな大学生活を、送れるんじゃないの?小悪魔な母さんからも、なにかと絡んでくる妹かも解放される。自由だ!

「いいよ。じゃあ、一人暮らしする。」

「本当に?(やったわ!これで邪魔者が一人減って、拓海さんとラブラブし放題。あ、まだ香奈が残ってるわね。チッ。)ウフフ、じゃあ浩二兄さんに連絡しとくわねー。」

「・・・うい。」

 妙な寒気を感じたが、あまり気にしないようにした。

 余談ではあるが、この時部活で、バレーボールの試合の真っ只中であった妹の香奈も、試合中寒気が止まらなかったという。

 ていうか、今になって思うが、その時の俺を全身全霊で止めたい。


 そして引っ越し当日。ワンルームマンションではあるが、別に俺にとっては丁度いい広さ。一人分で荷物も少ないので、家族に作業を手伝ってもらい、引っ越しを終えた。

 ひと段落つき、皆で茶を飲んでいた俺達に、母さんの爆弾発言が一つ。

「引っ越しが無事に終わってよかったわ。お母さん安心しちゃった。これからがんばって、餓死しないように生活資金を稼がなくちゃね。」

「「「・・・・・・・・・」」」

 一瞬何を言われたのか理解できなかった。父さんも香奈も同じようである。

「え?利奈。生活資金って?」

 さすが年を重ねているだけの事はあり、父が一番初めに立ち直った。ていうかそれよりも、俺も断固として父さんと同じ質問がしたい。

「え?何言ってるの拓海さん。お金を稼がなくちゃ、生活していけないでしょう?」

「いや、それはそうだけど・・・仕送りするんじゃなかったの?」

 父さんの横で、人形のように何度も頷く俺。嫌な空気が流れ出している。やべぇ!なんかまじで嫌な予感がしてきた。

「やだー!拓海さん。しないわよ。」

「え!でもそういう約束だったんじゃないの?拓也からは、そう聞いてるけど。それに大学入ったばかりでしんどいだろうし、きちんと就職が決まるまでは援助したりさ。」

 そうだそうだ!流石父さん。心の中で、精一杯声援を送る俺。ていうか母さん、仕送りしてくれるって言ってたじゃないか!嘘吐いたのか!?

「仕送りするだなんて、一度も言ってないわよ。「それに関しては大丈夫」と、言ったの。あなたが働いて、生活費を稼げばいいだけのことじゃないの。」

 いや稼ぐ以前に一人暮らしをする始めには、やっぱりまとまった金が必要になってくるでしょ?俺、金ないって言ったじゃん!母さん。

「でも、利奈・・・」

「いーい?拓海さん、よく考えて。大学の授業料は、ちゃんと私達が支払うんだから。せっかく家賃がタダなんだし、生活資金くらいこの子に払って貰わなくちゃ。生活資金まで面倒見ろだなんて図々しいわよ。」

 ちょっと待て。俺だって大学生活になれて金が少し貯まったら、仕送りだって断るつもりだったんだ。図々しいだなんて、酷いんですけど!

「うーん・・・そうなのかなぁ?」

「そうよ。」

 母のキツイ一言。ていうか、ぅおいっ!父さんまで何言っちゃってんの!?母さんの口車に、まんまと乗せられてない?

 普通は、ちょっとくらい仕送りしてくれるだろ。親としてどうよ。これから新しい生活に飛び込もうとしていて、ちょっぴり不安気味の可愛い息子に対して、何とも思わないのか?それに仕送りはしないって事を、引っ越し前にもっとちゃんと俺に説明すべきでしょ。俺はてっきり、仕送りあると思ってたよ。早く俺を追い出したくて、わざと言わなかったんだな。なんて女だ。

「じゃあ、私達は帰るから。がんばってね。」

 え、もう帰るんスか?このまま帰られるのは少し、いやかなりやばい。父さんに助けて!と視線を送る。いや、ほんと助けてください。

「・・・利奈は一度言い出したら聞かないから・・・あきらめな。」

 え、まじっスか?まじっスか??本当に、親としてそんなんでいいの?

「拓海さーん、早くーぅ。(フフッ、これで浮いたお金で拓海さんと旅行に行けるわぁ。)」

 父の腕に自分の腕を絡ませながら、黒いオーラを放つ母。見える、見えるよあんた。悪魔のような触覚としっぽ、それに翼が。黒過ぎる!

「まぁ、がんばってね。お兄ちゃん。」

 呆然としている俺の横を通り過ぎながら、面白そうに笑う妹。その笑顔が非常にムカついた。

「・・・おまえも大学行くんだろ?だったら高校卒業したら、きっと俺と同じ運命だな。」

 咄嗟に脅してしまった俺。その言葉を聞いた途端に、青ざめる妹。ああ、俺ってば、なんて大人気ないんだ。

 その後、どうしようお兄ちゃん!と泣きついてくる妹を、なんとか慰めて一日が終了。泣きたいのはこっちなんですけど。



 思わず昔(?)の思い出に、一人浸ってしまった。あれからすぐにバイトを始めたが、給料が入るまでの一ヶ月間、無一文に近かった俺にとっては、地獄のようだったな。え?どう過ごしていたのかって??それは言えないな。自分でも今、よく生きていると思う。今考えると、日払いのバイトを、先にすればよかったのだ。若かったんだな、俺。おかげでバイト三昧のキャンパスライフ。

 そんな俺を、佐藤が気まずそうな様子で、こちらを見ていた。

「あ、その、なんだ・・・変な事聞いて悪かったな。元気出せよ?俺なら、いつでも相談に乗ってやるからな!」

 あれ、何だこの気まずい空気は。もしかして佐藤の奴、俺に親がいないのではないかと、勘違いしているんじゃないか?うーん。ちょっと一人、感傷に浸り過ぎたかなー。どうするか。

 そんな俺の考えを知る由も無く、なにやら温かい目でこちらを見てくる。なんか気持ち悪い。

(・・・まぁ、いっか。)

 そんなに影響はないだろう。

「あ、高田実香のことは頼むぜ。それとこれとは別だ。」

「・・・うい。」

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