婚約破棄の後~境遇を甘んじて受ける令嬢の話
「エスメラルダ!我は真実の愛に目覚めた。異界から来られた聖女、キララと婚約をする!」
「アゲアゲ~」
・・・アワワワワ、大変なのです。寄親の公爵令嬢エスメラルダ様が婚約破棄をされました。
不幸です。
変な話し方をする聖女様です。許せません。
私はエミリー・マン
男爵家です。
案の上、大勢のご学友がエスメラルダ様の元に集まり慰めます。
「エスメラルダ様、大丈夫ですわ」
「気をしっかりお持ちになって」
「「「私達が付いていますから!」」」
「グスン・・・皆様」
私はその輪の外縁に立ち尽くしていました。
一応、派閥に所属していますが、私の役割は・・・
「エミリー!エスメラルダ様のカバンお持ちになって」
「全く気が利かないわね」
「わ、分かりました」
派閥の皆様の荷物持ちです。
一番、序列が低いので仕方ありません。同学年、いえ、中等部の子もいます。
この騒動はどうなるのでしょうか?
エスメラルダ様の高位貴族用の広い寮に着いても、私の席はありません。
ずっとご学友達がエスメラルダ様を慰めるのを立って見ていることしかできないのです。
「ちょっと、エミリー先輩もエスメラルダ様に慰めの言葉をかけないの!」
「ヒィ・・・」
年下の子に叱責されました。
だから・・・
「グスン、エスメラルダ様、エミリーは見ていることしかできないのです」
「まあ」
「本当に気が利かない子ね」
「先輩・・・ダサッ」
エスメラルダ様は泣いておられます。6歳から婚約者として愛を育んでいたのです。
私はエスメラルダ様の努力を知っています。グスン。
それから、王家と公爵家の調停となるはずですが・・・
「聖女だ・・・一筋縄ではいかない」
「宰相のご子息。近衛騎士団のご子息も聖女キララに夢中だ」
中々決定されないのです。
でも、もう婚約は続けられないでしょう。
となると、
「オホホホホ、エスメラルダ様、お父様の言いつけで派閥が変わります。いままで有難うございました」
「マルガリッタ・・・グスン」
ご学友達は1人去り。また1人去り・・・
ついには、私一人になったのです。
「グスン、グスン・・・」
私はお嬢様の近くで立っています。
何故なら、お父様からは・・・
『いいか?学園に行ったらホルン公爵令嬢エスメラルダ様をお支えしろ』
『はい、お父様』
とあったからです。
「・・グスン、貴女、何故、そこにいるの?」
「はい・・・プリントを持って参りました・・後、ノートも取っております。カバンも直しておきました」
「置いて行きなさい!貴女の黒髪、キララ様に似て思い出すのよ!」
「ヒィ、申訳ありません!」
低位貴族用の寮に戻ったのです。明日からどうやってお支えしていこうか考えるのです。
いくら考えても良いアイデアは浮かんで来ないのです。
いつのまにか寝てしまったのです。
☆☆☆夢
『何でただのバックがこの値段なのだ。100万円超えている・・質屋だぜ・・』
『お父さん。こんなのいらないよ。動画の隙間に出てくる広告の倒産間際の職人のバックでいいよ』
『それは・・・中国産だからやめなさい。デパートに行こうか』
『うん・・・』
『絵美は本当に良い子に育って嬉しいよ。グスン』
あれは、大学卒業間近で父がお祝いでバックを買う話だったのです。そこできらびやかに並んでいるブランド物のバックの値札を見て断念したのです。
・・・・・・・・・・・
チュン♪チュン♪
「ウミャ!」
「クロちゃん・・・」
黒猫のクロちゃんが窓にいたのです。
不思議な夢だったのです。あのバックを作ってみるのです。
形は変だったのです・・・・
図面を描いて、こう・・・
「ミャア!」
「ごめんなさい。今、お水と干し魚持ってくるのです」
バックの材料を買いに行ったのです。私は派閥のカバン係として補修ぐらいはできるようになったのです。
「皮を欲しいのです。バックを作ります」
「あいよ」
お小遣いを大分使ったのです。
朝は無駄と分かっていてもエスメラルダ様の寮までお迎えに行くのです。
「エスメラルダ様、学園に参りましょう!」
メイドさんが顔を出して手を振るのです。無理とのジェスチャーです。そのままスゴスゴと学園に行くのです。
そして、夕方はノートを渡しに行くのです。
ある日、キララ様一向に出会いました。
殿下の隣にキララ様、大勢の貴公子、令嬢たちがいました。
グスン、エスメラルダ様の元派閥の方々もいました。
私は隅に隠れます。でも見つかりました。
「あら、貴女、黒髪だわ。この世界では少ないのね。ちょっと、来なさい」
「いえ、大丈夫なのです」
「そんなこと言わずに」
「そうだ。そこの令嬢、キララ様が気に入ったのだ」
「もったいないお言葉だぞ」
「エミリー様、さっさと来なさい」
「いえ、私はエスラメラダ様の派閥です!」
断りました。
それから、元エスメラルダ様の派閥から虐められました。
「全く、もったいないわ」
「あら、ごめんなさい」
「ヒャア!」
足をかけられて転ばされたのです。
それからも毎日ノートを取ってエスメラルダ様の寮にノートやプリントを届ける日々を送ったのです。
唯一の楽しみはクロちゃんと遊んだり。
「ニャア!」
「クロちゃん。新しいオモチャ買ったのです」
カバンやヌイグルミを作ったりしました。
何故、女神様はキララ様のような聖女をこの世界に送ったのか意味が分かりません。
時々、考えたりします。
それから半年経ちました。
イジメは続きましたが良い事もありました。
エスメラルダ様のメイド、マリーさんと仲良しになったのです。初めての友人です。三歳上のお姉さんです。
今日は何とか完成させたカバンをエスメラルダ様にプレゼントです。
「マリーさん。プレゼントです。お渡し下さい」
「まあ、ヌイグルミじゃなくて今度はバック?時間かかるでしょう。貴女寝ているの?渡しておくわ・・でも、お嬢様は貴女の事を全然気にしていないわ。無理してはいけませんわ」
「いいのです・・」
それから半年後・・・・キララ様は失脚されました。
あまりにも男遊びが過ぎて、誰の子か分からない子を身ごもりました。陛下が激怒。
女神教会に追放です。
質素な生活を送るそうです。
殿下と貴公子達も失脚です。
エスメラルダ様は正式に名誉を回復しました。
良かったのです。
エスメラルダ様は登校されるようになりました・・・
もう、マリーさんと話せなくなります。
だけど、学園に行ったらエスメラルダ様は大勢の学友に囲まれていました。
元派閥の方々もおられました・・・
「皆様、心配をかけましたわ。今までノートとプレゼント有難うございました」
「いいえ。些細な事ですわ。派閥はお父様の命令で仕方なく離れましたが、エスメラルダ様の事を気にかけていましたわ。ささやかながらノートを取らせて頂きました」
「そのヌイグルミは私です」
「そのカバンは私が贈らせてもらいました」
「まあ、皆様」
・・・私は輪の外です。でも、エスメラルダ様が元気ならそれで良いのです。
それからです。お嬢様、復帰のパーティーが開かれる事になりました。
私の招待状はいつまで経っても届きません。
使者が来ました。招待状かと思ったら・・・絶縁状でした。
「この忘恩の徒め!」
「え?」
使者さんはそう言って手紙を投げつけました。
「お嬢様が苦しんでいるときに何もしなかった。他のご学友たちは一生懸命に励ましていたのに!」
「そ、そんな」
「シャアアアーーー」
「学園にいられると思うな。旦那様が退学処分を勧告している」
それだけ言って去りました。
私はショックで・・・
「目眩が・・・するのです」
ドタンと倒れました。
「ニャア!ニャア!」
クロちゃんの声だけが聞こえました。クロちゃんの声が遠ざかると、膨大な記録が流れ込んで来たのです。黒髪だらけの魔道国、もしかして、キララ様のいた異世界・・・・
☆☆☆3週間後、公爵邸タウンハウス
「「「「エスメラルダ様、復帰おめでとう!」」」
「皆様の支えがあってこそですわ」
1年間も部屋に籠もっていたけど、学習が遅れなかったのは学友の皆様のおかげだわ。
それに、このバック気に入っているわ。
「ねえ。マルガリッタ、このバック素晴らしいわ。意匠が心をくすぐるわ」
「有難うございます」
「それでね。王妃殿下も気に入っているの。どこの商会で買ったか教えて下さらない。ヌイグルミも素敵だわ。王女殿下が欲しがっているの」
「え、それは・・・・どこか忘れてしまいました」
その時、メイドのマリーが私に話しかけて来たわ。
「・・・お嬢様、目がお悪くなりましたか?」
「マリー、どうしたの。厳しい顔をして・・」
「そのカバンには制作者の名が記されていると思いますが、職人は責任を持つために名を記しておきますわ」
「まあ・・・」
M・・・・これはマン男爵家の家紋だわ・・・
「お嬢様に意見を申し上げました。どうか、処罰を」
「いいえ。マリー、良く言ってくれました」
あの子は・・エミリーだったかしら。
急いで寮に出向く。
「エミリー、エミリー、私よ。エスメラルダよ」
しかし、寮は空っぽだった。
管理人からは・・・
「一週間前に出て行ったよ。退学だ。熱病でうなされていたな」
「何故、退学・・・」
「そりゃ、ホルン公爵家が敵対派閥を粛清で、学生は退学処分にしたのではないですか?」
「・・・そう・・」
そう言えば・・・そうだったわ。
お父様に抗議をしたわ。
「仕方ないのだ。マルガリッタ嬢や他の令嬢方の家門は力がある。見せしめが必要だったのだ」
「そ、そんな!」
「エスメラルダよ。大局を見誤るな」
エミリーの事、調べれば調べるほど、すごい子だと分かる。
自分が履修しない科目も出席して私のためにノートを取って注釈も書いてくれていた。
バックもヌイグルミも見習いよりも上、職人未満だと鑑定されたわ。
何よりも・・・実は成績が良い。
「教授、エミリーは成績が良かったのですか?」
「ああ、派閥の者達に抑えるように言われていたみたいだな。君を追い抜かさないようにとな」
「教授・・・私は言っていません」
「そうだろうな。だけど、誰に当たればいいのだ!」
私はどうしたら良いのだろう。
手紙を書いたが返事が来ない。
「お嬢様、領地に行かれては如何ですか?」
「そうね・・・」
しかし、第二王子のエドガー殿下とのお茶会が入っている・・・
今後の序列は王子達の横並び。誰が王太子に付くかは実績次第だわ。
「お嬢様、お暇を取らせて下さい」
「マリー、どうして?貴女の助けが必要なのよ」
「いいえ、私などいなくても・・・助けを必要とする友がおりますの」
それだけ言って去ったわ。
それから、三年経過した。あの子の行方は分からない。マン男爵家は領地を返上し他国へ移住したわ。
私は第二王子妃になったが、パッとしない。
ある日、陛下に呼び出された。今後の事だ。
☆☆☆王宮
「見よ。大国ザルツ帝国の新流行のバックにドレスだ。女神圏で流行りつつある。どれも見ない物だ。噂では転生者が出現したとある。これが帝国で入手したドレスとバックだ」
「父上、たかがドレスとバックではないですか?」
「エドガー、認識が甘いぞ。人口の半分は女だ。良い物は国境を越える。経済規模を考えてみよ!」
「はい、父上・・・」
私の夫エドガーはこれで終わりだ。だが、第三王子妃のマリーローズはすかさずに見解を述べる。
「陛下、所見を申し上げます。コルセットの必要のないドレスに、装飾がゴチャゴチャついていないバック、シンプルで品がございます。それ故に、女心をくすぐります。これからスタンダートになるでしょう」
「父上、我が王都に直営店をつくってもらいたい?ですね」
「さすがだ。リヒターに、マリーローズ」
第三王子とその妃に抜かされつつ。いえ、抜かされているわね。
「実は陛下、帝国の第三皇子殿下とエミリー様が我国に来て頂けると返事を頂きました」
「何、マリーローズよ。手柄だ」
私は分かる。このドレスを作ったのはあのエミリー・・・そして、マリーが手助けをしているわね。ブランドのロゴは黒猫・・・エミリーの愛猫だわ。
私も手紙を送っているが返事は来なかった。商談だが謝罪を込めている内容、中途半端だったと後悔しているがもう遅い。
「エドガーとエスメラルダは饗宴の指揮を執れ。リヒターとローズマリーが商談をせよ」
「はい、父上」
「喜んで!」
私はエミリーをもてなす側になった。
「何だよ!」
夫は文句だけを言う・・・婚約中には見抜けなかったわ。だけど私には暴言を吐かない。
それは良い事なのかしら?
饗宴の当日、確かにエミリーだったわ。一度だけ顔合わせをしたわ。リヒター殿下に紹介をしてもらった。
「ワルデマール殿下とエミリー様、こちらが本日の饗宴の準備をしてもらったエドガーとエスメラルダです」
「やあ、素晴らしい饗宴だ。な、エミリー?」
エミリー、いえ、エミリー様は私を一瞥して言ったわ。
「有難うございます。おかげで有意義な商談が出来ました」
エドガーはムスッと黙っているわ。
「とんでもございません」
「手紙の返事・・・時間をもう少し頂きたいです」
「はい・・?」
「私は貴国出身ですわ。あの頃は懐かしくありますが、今は大商会の長・・・戻れないのです」
「左様ですね・・・」
許して頂けるにはまだ時間がかかると言う事かしら・・・
私はこの境遇を甘んじて受けて償いをすると決意をした。
最後までお読み頂き有難うございました。




