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お父さん お母さん

「あ~~~~~…」

「めぐのせいじゃないよ。私が話し聞かなかったから」

 学校から帰宅中のバスの中。私も紗耶香ちゃんも隣町の緑ヶ丘町から柳ヶ浦高校に通ってるからバス通学。

「でも…」

 椿くんは笑って許してくれたけど、あの後倒れてしまった。

「でもさ、めぐも全校生徒の前で下着姿さらしたわけじゃないんだから、ちょっと大げさだったね」

 だって…。

「だって椿くんに見られたんだよ!…椿くんに…」

「え…めぐ…?まさか…」

『次は緑ヶ丘団地前~、緑ヶ丘団地前~』

 あっ…。

「またね、紗耶香ちゃん」

「あっ…。うん、また明日ね、めぐ」

 緑ヶ丘団地。

 私の家があるところ。

 バス停から少し歩いたところに私の家がある。

 帰りにスーパーに寄って…っと。今日の晩御飯のお買い物しなきゃ。

「あら恵ちゃん。今日も暑いねぇ。いいお肉が入ってるよ?」

 柳ヶ浦高校に通い出して、バス停からの帰り道にいつも寄ってるからもう顔馴染み。

 中学の時にいじめられてた私を誰も知らない。高校入学当初、私が私でいれる場所でもあった。

「じゃあそのお肉もらおうかな」

「はいよ」

 おばさんに袋に詰めてもらう。

「恵ちゃん、最近生き生きしてるねぇ」

 え?

「そ、そうかな?……ね、おばさん、私、変わった?」

「恵ちゃんは、自分でそう思うのかい?」

 私は…。

「私は…変わってない。昔のまんまだよ!」

 いじめられる前に戻っただけなんだ。

「良い顔だね。変わったよ、恵ちゃん。きっと学校に信頼出来る人がいるんだろうねぇ」

 信頼出来る…人…。

「…うん!」

 それは…きっと椿くんなんだろうな。

「ありがとう!おばさん!」

「またおいでね~」

 信頼か…。

 私は信頼されてるのかな?

 紗耶香ちゃんに。椿くんに。みんなに。

 ……そんなのわかんないや。

 椿くんはいつか私に頼ってくれるかな?

 …あれ?

 誰かいる…?

 考え事して歩いていたらいつの間にか家の前だった。

 うそ…空き巣?

 玄関のドアが開いていた。今年の夏は私以外には誰もいないはず…。

 そっと…玄関のドアを開ける…。

 キィ…カチャ…。

「恵!おかえり!」

「ひゃあっ!」

 ドアをそろ~っと閉めようとしてたらいきなり声を掛けられてびっくりした!

「すまない、驚かすつもりはなかったんだが」

 え?

「お父さん!今年の夏は帰って来れないんじゃなかったの!?」

 お父さんとお母さんはいつも国内、海外を飛び回る有名な音楽家。だからいつも家にいない。

「急に時間が空いたんだ。お母さんもいるぞ」

 お母さん…。

「お母さん!」

 バタバタ…。

「めぐちゃん!おかえりなさい」

「えへへ、ただいま」

 お父さんとお母さん。会うの久しぶりなんだ。嬉しいな。

「いつまでいるの?」

「ごめんなさい、二日だけなの」

 なんだ…。

「そっか…」

「学校はどう?」

「…楽しいよ!」

 お母さんは少し驚いた顔をした。

「そう…。よかったわ」

 そして安心したような優しい顔をしてくれた。

「恵。その…なんだ…彼氏とかいるのか?」

 彼氏?

「いないよ、そんなの」

「そ、そうか!ならいいんだ!」

 ほっとしてる。心配してるのかな?

「あなた、めぐちゃんももう子供じゃないんだから」

「いや、しかしだな…うん…まぁそうなんだが…」

「めぐちゃん、心配してたのよ。高校でうまくやれてるかなって」

 お母さん…。中学生のときのことがあるから…。

「大丈夫だよ!椿くんがいるし!」

「椿くん?め、恵!男か!?」

 あっ…。

「あなた!…めぐちゃん、いいお友達に出会えたみたいね」

 お友達…。お友達かぁ…。

「うん…すごく優しくてね、助けてくれたの」

 お友達…。なんだろう、モヤモヤする。

「そう…。会ってみたいわ、お母さんも」

「いつか紹介するね!」

「ふふふ…楽しみだわ」

「うぅ~…めぐみぃ~…」

「お父さんには紹介してあげない!」

 絶対変なこと言いそうだもん!

「なっ…!め、恵、そういうのはまずお父さんにだな…」

「あなた!!」

「…はい…」

 ふふふ…。

「そうだ!今日いいお肉買って来たから今から晩御飯の支度するね!」

「一緒にやりましょうね」

「うん!」

「お、お父さんも一緒に…」

「あなたはいいわ」

「お父さんはいいよ」

「そ、そうか…」

 そう言ってリビングに戻っていくお父さんの背中が寂しそうだったな。

 トントントン…。

「久しぶりね、こうやってめぐちゃんとお料理するのも」

「うん!私また上手になったんだよ!」

「あらあら、めぐちゃんに追い越されちゃうわね」

「お母さんみたいになりたいの!」

「うふふ…めぐちゃんならすぐよ」

「えへへ…」

 頭撫でてもらちゃった。

 大好きなお母さん。

 またすぐに行ってしまうなんて、寂しいな。

「お鍋、噴きこぼれちゃうわよ」

 あっ!

 慌てて火を弱める。

「ふふ…まだまだね、めぐちゃん」

「う~~…」

「ふふふ…」

「…えへへ」

 お母さん…一緒に暮らしたいな…。

 


 それが、思わぬかたちで叶うことになるなんて…。

 私が前から望んでたこと。

 でも、望まなかったかたち。

 ずっとそばにいれると思ってた。

 私はあの時、選べたのかもしれない。

 …ううん、最後は自分で決めたんだ…。

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