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一人

「めぐ、ごめん。オレ、美香と付き合い始めたんだ」

「えっ!?う、嘘だよね!?嘘って言ってよ!誠二くんっ!」

「やっぱり近くに居る人がいいからさ。ごめん、さよなら」

「まっ、待って!行かないでっ!いつまでも隣に居てくれるって言ったじゃない!」

「……離れて行ったのはどっちだよ」

 !!!


 ガバッ!

「誠二くんっ!……はぁ……ゆ、夢か……よかった……」

 あぁ…なんて夢見ちゃったんだろ。

 …リアル。

 実際にありそうな夢なんだもん。

 あ~~……汗ぐっしょり。最悪な目覚めだなぁ。

 今何時……まだまだ早いよ。シャワーでも浴びようかな。汗流さないと。

 ……あれ?

「お父さん、早いね。どうしたの?」

 いつもはまだ寝てる時間なのにバタバタと家の中を駆け回っていた。

「忘れてたっ!」

「え?」

「来週に予定されていた公演が今週に変更だったんだ!リハーサルもしなきゃならんのに!ああああっ!」

 しばらく家に居たものだから日付や曜日感覚がなくなってるんだ。でも、お仕事なんだから忘れてちゃダメだよ、お父さん。

「というわけで、一週間くらい家を留守にするから、めぐちゃんよろしくね。何も公演の話しを聞いてなかったお母さんでした」

 あっ、お母さん…怒ってる。絶対ものすごく怒ってる。…お父さん、後でひどいんだろうな。

「行ってらっしゃい」

 私はにこやかにお父さんとお母さんを見送った。お父さんは半べそだったけど「自業自得だよ」って言ってあげたんだ。

 ……もう少し寝よう。

 さっきのような夢だけは勘弁して欲しいよ。

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

 ガバッ!

 い、今…何時?

 ………マズイ。

 次に目が覚めた時にはもうお昼過ぎ。

 ジャンは?もう来てるはずなんだけど…玄関のカギは閉めたもんな。

 ん?

 着信あり…。

 これだけ言えば怖い映画思い出すよね。あの時だけは携帯捨てようと思ったよ。

 いやいやそれより……ジャンから?

 プルルル……。

『あ、もしもし。メグミかい?ちょっと三日ほど遠出しなくちゃならなくなってしまったんだ。いやぁ、急な話しで本当にすまない。自分で練習しておいておくれよ』

「あっ…うん。行ってらっしゃい」

 プツッ…。

 ……一人だ。

 うーん……一人だな。

 何しよう。

 もちろん練習はするけど。この前お母さんに怒られたばっかりだし。

 外に出るのも一人じゃ怖いしな。でもご飯の材料くらいは買いに行かなくちゃ。

 ……掃除しよう。

 とりあえず何もすることがなかったから家の掃除をすることにした。

 ・・ 

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

 …終わった。

 うん、完璧。ピカピカ。誰も非の打ちどころがないはず。

 次は…。

 お買い物、食材買いに行こう!

 そして近くのスーパーにお買い物に行くことにしたんだけど、その道中…。

「(お嬢さん。一人?一緒に遊ぼう!)」

 急にナイスガイな男の人から声を掛けられた。もちろん流暢なフランス語で言ってる意味が聞き取れない。

「ボ、ボンジュール?」

「(ボンジュール!いいんだね。さぁ、行こう)」

「えっ?えっ!?」

 急に腕を掴まれて連れて行かれようとしたもんだから私はびっくりしたよ。

「(誰か!助けて!)」

「(えっ!何言ってるの!?)」

「―――!――!」

「――!―!―――!」

 ざわざわ…。

 大声で叫んだから人が周りに集まって来た。

 た、助かった~。

「………!」

 さっき声を掛けて来た男の人は半泣きで逃げて行った。よかったぁ。襲われた時のフランス語テキスト読んでおいて。

「―――!―――?」

「――――?」

「えっ、えーと、わっ、わからない!ノー!ノー!」

 周りに集まって来た人たちが何か話しかけてるけどわからない。きっと、大丈夫?とか聞いてるんだと思うんだけど…。

「ご、ごめんなさーい!!」

 どんどん波のように話しかけてくるから少しパニックになって逃げちゃった。助けてくれたのに、ごめんなさい。

 なんとなく言葉は聞き取れるようにはなってきてるんだけど、はっきりとはわからないし、口に出して話せないんだよね。

 とにかく危機を脱した私は買い物を済ませて家に帰ってきた。

 今日は買ってきたパン。それにパスタとスープを作るつもりなんだ。

「あっ……」

 家に着いてポストを見ると一通の封書が入っていた。

 これ……国際郵便だ。じゃあまさか…。

 差し出し人を見るとやっぱり誠二くんからの郵便だった!

 私は今まであった騒動や料理の支度の手際を考えていた事全てを忘れて、郵便を握りしめて部屋に急いだ。

 急いで、でも丁寧に封筒を開ける。その時に少しだけ指先が震えていた事を覚えている。

 …………。

 中を開けると一枚のプリクラ。それと手紙。

 クスッ…頑張ったね。

 プリクラは誠二くんが一人で写ってた。あれだけ苦手だったプリクラを一人でなんて、誠二くんなりの気持ちかな。

 手紙を開くと、今はもう少し懐かしい誠二くんの字が散りばめられていた。ゆっくりとそれを呼んでいく。

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

「あぁ……誠二くん…」

 自然について出た名前。

 内容は空港で別れた後の事や私が手紙で聞いたことの答え。それに近況報告。

 誠二くんも最初は何にも手付かずの状態だったらしい。でも、みんなのおかげで立ち直れたって。

 よかったな…。でも少し羨ましい。

 部活のみんなは元気らしい。パーカツには二人、フルートにも二人入部したみたい。梓ちゃんと舞ちゃんも立派にやってるようだね。亜美ちゃんは相変わらず、か。紗耶香ちゃんも元気みたいでよかった。私の写真を一枚取られちゃったんだって。まだまだ送るから心配しなくてもいいよ。

 そして、最後に”会いたい”の言葉。

 たったそれだけの言葉でも二人は繋がってるんだって思えた。

 私は、久しぶりに…泣いた。

 今は一人だ…。声を出して泣いた。手紙を握りしめて、プリクラを見て、泣いた。ただただ泣き崩れた。


 涙も枯れて落ち着いた頃、外はもう夕焼け空で夕陽が街と家の中を赤く染めていた。

「…何してるかなぁ?」

 思い描いてみる。誠二くんの笑顔。私に見せてくれる照れくさそうな顔。少しだけ怒った顔。前はあんなに近くにいたのに今じゃ遠い。

 一人ぼっちだ…。

 私は弱くなったのかな。こんなに寂しさを感じることなんてなかったのに。

「ご飯の準備しなくちゃ」

 このままだと動きたくなくなると思って声に出して言ってみる。

 今日は一人分のご飯だけ。誰かのために作るのだったら楽しいのに、自分の分だけだとどうでもよくなってきちゃうな。

 …イヤになっちゃう。

 久しぶりに一人になって、自分の周りの人にどれだけ助けられてるのかって実感出来る。

 ただ居てくれるだけでもいいんだ。それだけで支えられてる。人は一人じゃ生きられない、なんてよく言うけど、それは至極当然のことなんだな。

 ご飯を作って一人で食べる。

「んっ、我ながらうまく出来た!」

 これはぜひ誠二くんにも味わってもらわないとな。

 バスタブにもお湯は貯めないでシャワーだけで済ませる。

 テレビ見ても内容わからないから早々に自分の部屋へ。

「つまんないな…」

 日本で一人で居た時は何をしてたんだろう。家のことやって、宿題やって勉強して…。勉強!?

 まさか誠二くんに学力追い抜かれるなんて…ないよね。結構差はあったし…。でも少なくとも高校一年間の内容が…。いや、それはそれで誠二くんが頑張ったことで嬉しいんだけど、何か悔しくもあったりして…。

 フランス語の勉強でもしようかな。今度会った時にはフランスの待ちをエスコート出来るくらいにはなっておきたいし。

 …なんて、先の事考えてることが少し楽しい。少しだけでも日本に帰りたいな。でも自分のお金なんてないし…。

 会えないことを考えるとまた余計に会いたくなる。ないものねだり。

 えーい!こんな時は寝るんだ!そうだ!寝ちゃおうっ!よーし!寝るぞー!

 メグミー、ダイブ・イン・ベーッド!

 ・ 

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

 小鳥のさえずりが聞こえる…。

「もう朝か……いいかげんに寝よう……」

 やっぱりね、あれこれ考えちゃって。楽しい事もそうでないことも。

 眠れなかった…。

 でもね、もう明るいし今から寝たら昼夜逆転しちゃう。徹夜かなぁ…。

 うん…そうしよう。

 とりあえず顔を洗って、朝ごはんの準備して…っと。

「う゛あ~…きついなぁ。頭ぼーっとする…」

 いざベッドから出ようとしたらフラフラした。

 ダメだ、食欲ないや。

 …誠二くんにまた手紙書かなきゃ。


 誠二くんへ…。

 手紙ありがとう――




「………はっ!」

 ね、寝ちゃってた、いけないいけない。

 昨日は寝ようと一生懸命だったのに今度は起きてようと一生懸命だ。

 あっ、手紙…。

 なんだこれ?

「昨日の?デート楽しかったよ?野菜食べれるようになっててびっくり……?」

 私はいったい何を書いたの?

 これ…夢の話しかな、多分。字が歪んでるし。

 重症だなー、私。

 気を取り直して書かなきゃ。

 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

 ――よし!書いた!

 あとは封筒に写真と一緒に入れて…。

 …ね、寝間着姿の写真とか喜ぶかな…。

 寝る前にお風呂済ませた後に撮ろう。

 えへへ…。

 さーて!フルート練習しよう!

 

 その後、ジャンが帰って来るまで一人の時間を過ごした。ジャンが帰って来てから昼間は寂しくなかったけど、夜が来るとどっと疲れと寂しさが押し寄せて来た。

 誠二くんからの手紙を何度も読み返す夜だった。消えた思い出なんて何一つなかった。一人の夜には誠二くんを思い浮かべて過ごす。

 お父さんとお母さんが帰って来て、久しぶりの外食だった。仕事の話しを聞かされていた。私がそれに携わることになるのもそう遠くないだろう。

 フランスに来て初めて一人で過ごした数日は寂しくて…でも思い出に浸れる時間でもあったんだ。


 そして、季節は流れた。


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