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修学旅行

「誠二くん、お菓子」

「サンキュー、めぐ」

 今日から二年生での一番のイベント、修学旅行なんだ。

 予定はスキーと観光。

 新幹線で移動してバスでスキー場まで移動する。今はそのバスの中。

 隣はもちろん誠二くん。

 この修学旅行では忘れられないような思い出を作りたいと思ってるんだ。

「めぐ、最近どうしたの?なんか…今まで以上に寂しがりっていうか…」

 …………。

 出来るだけ誠二くんのそばを離れたくなかったから、いつでもくっついてた。

「それだけ誠二くんのことが好きなんだよ。一緒に居たいの」

「めぐ…?」

 表情を隠しきれない時がある。つい表情を曇らせてします時があるんだ。

 誠二くんは不思議そうに私の顔を覗いてくる。言葉とは逆の表情が出てしまってるんだから。

「相変わらず仲の良い事この上ないわね」

 そう嫌味ったらしく誠二くんに言う紗耶香ちゃんにもまだ話してない。誰にも。いけないことだとわかってるんだけど、話して必要以上に優しくされたりしたら余計寂しくなるから。

 悲劇のヒロイン気取りで私のわがまま。

 しばらくバスが走るとスキー場に着いた。

 今日はそのままスキー場に併設されているホテルに泊まる。スキーは明日の午前中からなんだ。

 男子と女子の部屋はそれぞれ別館になる。寂しいけど仕方ないかな。

 食事はみんな同じ時間にとるからその時はみんなと顔を合わせる。大浴場も一つだからその時にも。後は寝る前の時間。

 今日は移動で大半の時間を使ったからもうすぐ夕食なんだ。

 誠二くん大丈夫かな?好き嫌い多いからこういう時の食事って苦手なのかも。

 クラス別で食事するんだけど、私の場所は誠二くんから遠い。美香ちゃんが近くにいるからお世話をしてくれるみたい。

 ちょっとヤキモチ。

 食事が終わると入浴時間。クラス別に時間が決められている。

「あっ、誠二くん」

 ちょうど大浴場に向かう時に一緒になった。

「誠二くん、後で少し会おうよ」

「うん、どこかいい場所あるかな?」

「エントランスの方は自由に行き来出来るみたいだよ」

「わかった。じゃあ後でね」

 よかった。少しだけだけど嬉しいな。

 ポチャン…。

 ふぅ~、いいお湯。温泉だったよね。

「め~ぐ~」

「さ、紗耶香ちゃん?なに?」

「また胸おっきくなったんじゃないのー?」

 えっ、ま、待って。その手つきは…。

「えいっ!」

「きゃっ!やんっ!さ、紗耶香ちゃん、やめて!」

「うわー!ほわほわふわふわ!羨ましいー!えいっ!」

「あんっ、くっ、くすぐったいよ」

 も、もうこれ以上は!

「ダメー!これは誠二くんのなんだから!」

「えっ?」

 あっ!し、しまった!

「胸が大きくなったのはまさか…」

 あう~…。ぶくぶく…。恥ずかしい…。

「めぐが誠二の毒牙に…」

「も、もう出るね!」

 逃げろーっ!

 もうっ!紗耶香ちゃんったら!

 着替えて誠二くんに会いに行こう。寝間着は学校のジャージ。少し恥ずかしいね。

 もう誠二くん来てるかな。いつも待ち合わせは私より早いもんね。

 部屋に荷物を置いてエントランスに向かう。

 誠二くんいるかな~?あっ、いた!…あれ?紗耶香ちゃんも。いつの間に…。

「あっ!めぐー!私にもかまってよー!」

 あはは…。

 紗耶香ちゃんには悪いけど二人っきりになりたいな。

「部屋は一緒なんだろ?いいじゃないか」

「うるさいわね!あんたばっかりズルイのよ!」

「オレだって一緒の部屋に泊まりたいよ」

「スケベ!黙りなさい!」

「なんだとー!」

 …………。

「紗耶香ちゃん、ちょっといいかな?」

「えっ、何ー?」

「向こうで、いい?」

「うん!いいよー!」

 …話そう。紗耶香ちゃんにだけは。

「どうしたの?めぐ。誠二に聞かれたくない話し?」

「うん…あの…あのね…」

「なーにー?」

「私…フランスに行くんだ」

「フランス?へー、いーなー。冬休みに旅行?」

「…………」

「めぐ?」

「学校…辞めるの…。春からフランスで音楽の勉強するんだ…」

「………え?な、何て?」

「私は…春までしか日本にいないの…」

「………えーーーーーーっ!?」

「さっ、紗耶香ちゃん!」

「ご、ごめん。めぐ、何?わけ分からないよ」

「お父さんとお母さんからフランスで勉強するように言われたんだ。学校は二年生までで…辞めて…」

「…そ、そんな…どうして…」

「…だから、誠二くんと少しでも長く一緒に居たいんだ。紗耶香ちゃんとは部屋でお話し出来るから…だからお願い」

「誠二…。わかった。部屋で待ってるね。もう少し聞かせ…て……グスン…」

「紗耶香ちゃん…。ごめんね、ありがとう」

 そして紗耶香ちゃんは部屋に戻って行った。

 ごめんね、紗耶香ちゃん。でも誠二くんと一緒に居たい。

「ごめんね、誠二くん」

「ど、どうしたの?紗耶香泣いてなかった?」

 うっ…。

「き、気のせいだよ。泣いてないよ?」

「うーん…」

「あっ、明日からのスキー、楽しみだね!」

「えっ、あぁそうだね。めぐはちゃんと滑れるのかなぁ?」

 よかった…。話題変わってくれた。

「私は滑ったことあるもん!中学の時も修学旅行スキーだったからね。誠二くんこそどうかなー?」

「むっ、すぐに滑れるようになるさ!」

 そんな他愛のない話しをしてた。それが今の私にとっては最高の幸せなんだ。

 ・・・・・・

「もうそろそろ消灯時間だね」

 もう…。もっと…もっと時間が欲しい。

「めぐ?」

「キスして?」

 誠二くんは周りをキョロキョロ見渡してキスしてくれた。

「えへへ…。おやすみ!誠二くん」

「おやすみ。めぐ」

 ………。

 部屋に戻ると…。

「めぐ…おかえり」

「紗耶香ちゃん…」

「誠二には話してるの?」

「まだ…。私から話すから黙っててくれる?」

「うん…。でも…」

「怖いの…。今までの事が壊れちゃうのが」

「でも誠二はああしてるけど優しいから、きっと分かってくれると思うよ?」

「そう、誠二くんは優しいの。だからこそ。優しいからきっと笑顔を見せてくれると思うんだけど、それは気を使ってしまう本当の笑顔じゃないと思うんだ…。私は今が幸せなんだ」

「めぐ…。私、イヤだよ。めぐと離れたくない」

「私もイヤだよ。でも、お父さんとお母さんは厳しいから…。どうにもならないんだ」

「…ひっ……えぐっ………めぐぅ~…」

 紗耶香ちゃん…。

「ゴメンね…」

「…うっ…ひぐっ…めっ……めぐは…グスッ……悪く…ないよ…」

 でも、私は少し気が楽になった。やっぱり話しを聞いてくれる人って大事なんだな。

 泣かせちゃって辛い思いさせちゃったけど、ありがとう。紗耶香ちゃん。

 なるべく楽しい話しをって思って、明日の話しをしながら夜は更けていった。


 修学旅行二日目。

 朝からキレイな真っ白な雪が…降ってない…。

 天候は晴れ。スキー場は人工の雪で覆いつくされていたんだ。

 スキーウェアを来て靴を履いて滑る準備を整える。

「みんなインストラクターさんの言う事をよく聞いて!勝手な行動は慎むように!」

 忘れてなければ滑れるけどおとなしくしとかないとね。

 う~、でも早く滑りたいよー。

 気持ちいいんだよなぁ。

「めぐ!行こう!呼んでるよ!」

「あっ、ごめん!紗耶香ちゃん!」

 紗耶香ちゃんが待っててくれた。

「中学の時にも一緒に滑ったよね!懐かしいなー。めぐったら全然滑れなかったよねー」

「さ、最後はちゃんと滑れたもん!」

「あははっ!そうだったかなぁ?」

「そうだったもん!」

「そこ!早く!みんな待ってるよ!」

 あっ、怒られちゃった。

「あちゃー、行こう!」

「うん!中学の時も怒られたよね」

「あはっ、そうだったっけ?」

 …楽しいな。いつまでもこんな時間が続けばいいのに…。

「止まれなぁぁぁぁぁぁ…!」

 堀川くん!?

 流星の如く流れて行く堀川くんが見えた。

 ひ、久しぶりの登場だけど見なかったことにしよう。

「どんなとこでもバカやってるわね。あのバカは。どうせ誠二の仕業でしょ」

 誠二くん…うまくやれてるかな。

 今すぐ近くに行きたいよ。

 それからグループでしばらく基本的な練習をしてた。

「君たち二人は経験者みたいだね。少しだけなら滑って来ていいよ。中級コースまでだけどね」

 えっ、いいの?

「やったね!めぐ!行こう!」

「うん!」

 他のグループの人は何人か滑ってる人がいた。同じ経験者なのかな。

 紗耶香ちゃんとリフトで上まで上る。

「よーし!行くぞー!きゃっほー!」

 ふふっ、紗耶香ちゃんは元気いいなぁ。

 さっ!私も滑ろう。

 山の斜面を滑り始める。

 あっ!あれ誠二くんだ!

 みんな背中にゼッケンを貼ってあるからそれでわかる。帽子とゴーグルつけてるから顔はわからないけど。

 一緒にいるのは…美香ちゃんだ。

 むむむ…。

 私が誠二くんのところまで来るという時に美香ちゃんは滑りだした。経験者みたい。

 誠二くんは美香ちゃんが滑って行く様子をずっと眺めてた。

「誠二くん、美香ちゃんに見とれてる」

「めぐ!?ち、違うよ!かっこいいなぁって思ってただけで」

 それを見とれてるって言うんじゃないの?

 まぁいいけどー。

「もう滑れるようになった?」

「まだ腰が引けちゃうんだよな」

「後ろに重心置いたら逆に転んじゃうからね。怖がらないでやれば大丈夫だよ」

「分かってるんだけどなー」

「練習して早く一緒に滑ろう!ほらっ、誠二くん、ハの字」

 それから少し練習してグループに戻った。元々運動神経が良かった誠二くんは、今日一日が終わる頃にはもう滑れるようになってたんだ。

 スキーが終わって、昨日と同じように夕食を済ませてお風呂に入って、また誠二くんとエントランスでお話ししたんだ。

 分かれ際にはまたキスをした。一緒に寝れたら最高なのにな。


 修学旅行三日目。

 この日は雪が降ってて一面をキレイな銀世界に染めていた。

 午前中はグループで滑って、午後からは自由に滑れる。

「誠二くん!上に行こう!」

 誠二くんを誘ってリフトに乗る。

「うわぁー。今日は景色がすごくキレイだねー」

「オレたちが住んでるとこじゃまず見れない景色だしね」

「そうだね。ね、誠二くんはスキー楽しい?」

「ああ!すっごく楽しいよ!また来年の冬とかまためぐとスキーしたいな」

 あっ…。ヤブヘビだったかな。私は来年いないのに。知ったらどんな顔するんだろう。

「ねぇ誠二くん。私が…その…ど、どこか…」

「ん?何?」

 言えば楽になるかも知れないのに…。

「う、ううん!あっ!もう着くよ!私の滑りについて来れるかなー?」

「ふふふ…。オレの練習の成果を見せる時が来たみたいだな」

 せっかくの修学旅行なんだし。今は楽しもう。

「じゃあ行こう!」

 誠二くんと並んで滑る。

 あっ、誠二くん速い!すごいな、もう追い抜かれちゃったんだな。

「ま、待って!」

「ははっ、気持ちいいー!ついておいでー!」

 誠二くんが行っちゃう…。行かないで…私を置いて行かないで!

 どこか…誠二くんが遠くに行ってしまうような感覚に襲われた。

 せ、誠二くん!

 あっ、止まった。

 ズササッ。

「誠二くん!」

「なっ!おいおい、めぐ。どうしたんだよ。…泣いてるの?」

 私は誠二くんの元にたどり着くと思いっきり抱きしめた。

「グスンッ…置いて行かないでよ…」

 誠二くんがここにいることを確かめるように抱きしめていた。

「ご、ごめん、めぐ。今度はゆっくり滑るからさ。泣かないでくれよ」

「うん……。えへっ、ゴメンね。誠二くんが早く行っちゃうから困らせたくなって」

「な、なんだよー。悪い冗談よしてくれよー」

「あはははっ!行こっ!」

 それから二人でずっと滑ってた。こんなこと…もう二度とないのかな…。そんなのイヤだよ。

 誠二くんは…行かないでって言ってくれるかな…。

 夜は前日と同じよに過ごした。明日にはこのホテルを出るから少し早めに部屋に戻って荷物の整理をした。


 修学旅行四日目。

 この日は午前中にスキーをして午後からは次の観光場所に移動した。

 観光は一応レポートの提出があるからきちんとしないといけない。みんな早々と済ませてお土産とかの買い物が目的みたいだけどね。

 午後一杯を移動に費やしてそのままホテルへ。今度はエントランスに行けなかった代わりに宿舎は男女同じ。だから階段の踊り場で誠二くんと話してたんだ。

「午前中はこことこことここを回ってお昼からはデートだよ!」

「結構急がないとね。確か夕方にはホテルに戻らないとダメみたいだから」

 えへへ…。

 見知らぬ土地でのデートなんて楽しみだなぁ。

 明日のことを計画して部屋に二人とも戻った。もちろんおやすみのちゅーはしたよ!


 修学旅行五日目。

「うぅ~、寒い!さっ、誠二くん!行こう!」

「気合い入ってるなぁ。めぐ」

「時間は限られてるんだから!早く早く~」

 見る場所は三か所!

 まずはバスで移動して…。

 有名な金色で彩られたお寺!

「うわぁ。すごーい!」

「ホントだよな。写真なんかで見るのとは全然違うよ」

 誠二くんの言う通りだなー。歴史背景知ってたらもっと感動するんだろうなぁ。

 ぐるっとそのお寺を見て回る…と、何かこの場所に似合わない物が。

「誠二くん!これやろう!」

「んー?”よく当たる恋愛おみくじ”?」

 ちょっと胡散臭いけご面白そうだしね!

 それはお金を入れて名前を入力すると、機械からおみくじが出てくるようになってたんだ。

 誠二くんが取って広げ、中身を読む。

「んー、なになにー」

『二人は今が幸せ絶頂期!周りからも羨ましがられるほど仲が良いでしょう。しかし、この先に大きな大きな困難が待ち構えています。この困難を、二人がお互いを信用、信頼して乗り越えることが出来ればさらなる幸せが訪れることでしょう』

 す、すごい!当たってる!

「ははっ!当たってるかもね。大きな困難だって。なんだろうな」

「…お互いを…信用…」

「めぐ?」

「えっ?あぁ、誠二くんが浮気でもするんじゃないのー?」

「そっ、そんなことするわけないじゃん!」

「どうかなぁー?」

「めぐっ!怒るぞ?」

「あははっ!ゴメンね。次行こう!」

 お互いを信用して乗り越える…か。その後に待ってる幸せ?私たちの未来は明るいのかな?

 その後はお城と街を一望出来るタワーに行ったんだ。

 そのタワーの中で…。

「誠二くん。見つけちゃった。んふふ…」

「な、何を?」

 私があまりに素敵な笑顔で言うから誠二くんが構えてた。

「ご当地プリクラ!ここでしか撮れない背景なんだよ!思い出&記念だね」

「あっ、プリクラね。だいぶオレのプリクラ経験値も上がって来たからね」

「じゃあ撮ろうね」

 そしてプリクラ撮影!寄り添って撮ったり、ちゅープリも!一生の思い出だね!

 らくがきも。”めぐ&誠二参上!”なんてありがちかな?

 ホントにまた来れたらいいのにな。

 それから観光名所巡りを終えて街に遊びに行った。

「うわぁ。へーっ!…うわぁ」

 人が多いなー。私たち制服だから目立っちゃうな。誠二くんは少し恥ずかしそう。

 あっ!

「誠二くーん。これ買おうー」

「何を?あー、ご当地キーホルダーか」

「ここでしか売ってないんだよ!記念だよー。買おうよー。お揃いだよー」

 誠二くんは興味なさそうだったけどお揃いで買ったんだ。

 昼食も地元料理!誠二くんは苦手みたいだったけど、私が食べてあげた。デザートだって地元で評判のとこに行ったんだ。

 なかなか満喫してた。

 とにかくアーケードが大きくていろんな物に目移りしちゃってたな。誠二くんも制服で歩くのに慣れてきたみたいで楽しんでるようだった。

「またプリクラあるよ!最新だよ!私たちのところにはないよ!」

「うんうん。撮ろうね」

 そして二回目のプリクラ撮影ー!内容は変わらないんだけどね。

「はいっ。誠二くんの分。今まで撮ったのちゃんと持ってる?」

「ちゃんと大事に持ってるよ。めぐのやつを粗末にするわけないし」

「ふふ、ありがとう」

「それはそうと、そろそろホテルに向かわないとヤバい時間だよ」

 もうそんな時間か…。この修学旅行ももう終わりなんだな…。寂しい…。

「ちょっと急ごう!」

「あっ!ちょっと…!」

 誠二くんが私の手を取って走り出した。

 タッタッタッタッ…。

「はぁっ…はぁっ…せい…じくん!…待って!」

「あっ」

 よ、よかった。止まってくれた。

「ごめん、めぐ」

「…はぁっ…はぁっ…う、ううん…」

「だいぶ走ったから…少しゆっくり行こう。バス停は近くみたいだし」

 急いだおかげでバス停に着いても時間は余ってた。

「近くに寄っていい?」

 バス停で誠二くんの隣に座ってる。

「あ、いや、制服だし。みんな見てるよ?」

 …もう二人の時間は終わりなんだよ?

 こうなったら…。

「ダメ?誠二くん」

 必殺の上目使い。誠二くんがこれに弱いのは実証済みなんだ。

「うっ…」

 ほらほら、誠二くん。

「制服だし…」

 ダメなのかな…。

 泣きそう…。

 スッ…。

 誠二くんは私の肩に腕を回して抱き寄せてくれた。

「…ありがと」

「え?」

 素直に感謝。私のわがまま聞いてくれたんだよね。

 そして少し待ってたらバスが来てホテルに戻った。

 荷物を部屋に置いてからみんな集まって夕食。それから入浴を済ませてまた階段の踊り場に。明日は帰るだけで荷物の整理があるから早目に部屋に戻る予定なんだ。

「もう終わっちゃうね。修学旅行」

「そうだなー。でも楽しかった」

「私も楽しかったなぁ」

「また帰ったらいつもの毎日なんだな」

「いつもの…」

 毎日か。この修学旅行の間、少しだけフランスに行く事を忘れられてた。帰ったら…またいつも考えちゃうんだろうな。

「めぐ、どうしたの?最近さ。悩み事?オレには言えないようなことなの?」

 あっ…まただ…。

「修学旅行終わりって思ってたら寂しくなっちゃって…」

「そうだね。寂しいな。でも今回めぐも居てすごく楽しかったしさ、また一緒に旅行しようよ」

 一緒に…旅行…。楽しかった…すごく楽しかった…。私との先のこと考えてくれてる。

 だけど…言わないで…誠二くん。

 じゃないと私…。

「…………」

「めぐ?」

 私…ダメだ…。

「…うっ…ひぐっ……せ…誠二くん…!」

「え?ど、どうしたの?めぐ」

 泣いちゃったらダメだよ…私…。

 でも堪え切れなかった。

「ご、ごめんね。今日はもう部屋に戻るね。おやすみなさい」

「ちょっ…めぐ!」

 ゴメンね、誠二くん。

 もう我慢出来なかった。

 私は誠二くんから逃げるように部屋に戻って来た。部屋には誰もいなかった。

「はぁー…」

 やっちゃったな…。誠二くんいろいろ聞いてくるかな。もう少し普通にしてたかったんだけどな。

 誠二くん…。

 今日撮ったプリクラを眺める。

 もう何回も撮ったね。初めはあんなに照れくさそうだったのに、今はすっかり慣れちゃったね。前のと見比べればすぐわかるよ。

「めーぐー。何してるの?ん?プリクラ?今日撮ったの?げっ、キスしてるし…」

 紗耶香ちゃんが部屋に戻ってきた。

「紗耶香ちゃん…。そうだよ。今日撮ったの。まだまだあるよ」

 私は今まで撮ってきたプリクラを見せる。

「これは初デートの時のやつでね。あっ、これはまだ付き合う前のやつで…」

 いろんなことがあったな…。最初は見せられなかったプリクラ。ファーストキスが残ったプリクラ…他にも…いろんな…。

「…そして…これは…繁華街…で…うっ……撮った…えぐっ……グスンッ…やつ…で…」

「めぐ…」

「紗耶香ちゃん!私…!私やっぱりイヤだ…!離れたくない!離れたく…ないよ…」

「……誠二には?」

「…まだ…。わがままだと分かってるけど、普通に過ごしたいの。誠二くんの自然な笑顔が見ていたいの…」

「めぐ…。めぐも誠二も可愛そうだよ…」

 また一日が終わっちゃう。少しずつでも、確実に日本を離れる日が近づいてるんだ…。


 修学旅行最終日。

「昨日見たわよ。二人のプリクラ」

「なっ…!」

「えへへ…。ゴメンね、誠二くん」

「う~…めぐぅ…」

 今はもう帰りのバスの中。

 朝からは気まずかったけど誠二くんも昨日の事は聞かずに、紗耶香ちゃんが話しに入って来た事もあっていつも通りに戻ったんだ。

「まぁ、あれね。いつでもお似合いのカップルでいることね」

 紗耶香ちゃん…。

「な、何だよ紗耶香?昨日の夕食には頭のおかしくなるような物は入ってなかったぞ?」

 あちゃー…。

「あんた一遍本気で思いっっっっきりぶん殴るわよ!?」

「あは…ははは…」

「あははっ!誠二くん腰引けてるよ?」

「いや、だって見た?今の顔」

「顔がどうかした?」

「い、いえ!紗耶香様は本日も見目麗しゅうございます」

「バカにしてるわね!あんた絶対バカにしてるわね!バスを降りたら覚悟しなさいよ!」

 ふふふ…。

 こんなのでいいんだ。

 もう少しだけでいいからこのまま過ごしたいな。


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