表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/43

ワガママ

「めぐ、昨日なんだったの?」

 フランスへ行くことを告げられた翌日、部活で誠二くんに会った。メールが来たけど…返事出来なかった。

「男の子を連れ込んで!…って怒られちゃった!ゴメンね、お父さんが追い返しちゃって」

「そ、そうなんだ。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ!お母さんは誠二くんのこと気に入ってるんだよ!」

「そっか。それなたいいんだけど」

 …何で嘘ついちゃうんだろ。

 言えない…。来年の春にはもう日本にいないのに。

 言っちゃったら…。

(…そうなんだ。じゃあ、一緒にいれないんだね。サヨナラ)

 …怖い。

 もしそんなことになったらなんて思うと。

 誠二くんに限ってそんな事ないと思うけど…。わからない。

 行かないで…誠二くん…。私を一人にしないで?

「いけねっ!亜美を待たせてるんだった!じゃあね、めぐ」

(じゃあね)

 ―――!

「せ、誠二くん!」

 ガシッ!

「ど、どうしたの?」

「あっ、ご、ごめんなさい」

 ”じゃあね”って言葉が頭に響いて、思わず誠二くんの腕を掴んでしまっていた。

「どうしたの?なんか変だよ?」

「誠二くん、どこにも行かないでね?」

「何言ってるの?どこにも行かないよ。ホントにどうした?」

「ううん。何か急に不安になって…」

「変なの。オレはめぐから離れたりしないさ。じゃあまた後でね」

 どこかに行っちゃうのは私の方なんだよな…。

 ・・・・・・

「めぐ先輩元気ないですね。どうしたんですか?」

「ど、どうもしてないよ!」

 分かっちゃうんだな。気をつけないと。

「ケ、ケンカですか?」

「違うよ。大丈夫!元気元気ー!」

 先輩たちが抜けて私がこの二人の唯一の頼れる人になるんだから。しっかりしないと。

 部活は先輩たちが抜けて新体制になってからもちろん私がパートリーダー。部長は美香ちゃん。

 私が抜けたらフルートは梓ちゃんと舞ちゃんの二人だけになる。来年の春までに全部教えておかないと。

「さっ!練習練習!今日からは厳しくいくからねー!来年は二人が教える立場になるんだから」

「えー…ケンカの話し聞きたいのにー」

「だからケンカじゃないって!」

「い、いつも以上に、へ、変です」

 い、いつも変なのかな?

「とにかく!練習あるのみ!」

「はーい」

 私がいなくなっても…頑張ってね。二人とも。

 ・・・・・・

「めぐ、帰ろうか」

「うん」

 誠二くんにバス停まで送ってもらう毎日。当たり前な日常。

「夏休みの宿題が提出忘れで大変だよー」

「ちゃんとしとかないとダメだよー」

 それが私の幸せなんだ。

 そうだよ。それが幸せ。

 そう少しの間だけでもこのまま普通に過ごしたい。

 ブオォォォ…。

「めぐ、バス来たよ」

「……あっ…」

 やっぱりダメだ…。もっと一緒に居たい。…こんなに時間が惜しいなんて。

「めぐ?」

「…次のバスで帰るからもう少しお話ししよう?」

「え?まぁいいけど」

 残された時間を少しでも長く一緒に過ごしたい。

 それからは帰り際、誠二くんと別れようとするといつも泣きそうになった。

 二学期始まってすぐにあった体育祭でもずっと誠二くんの後を追ってた。みんなが楽しそうだったのが少しだけ恨めしく思えちゃったんだ。私にとっては最後の体育祭だったんだけど…。みんなはまた来年もある。そう考えたら何か悔しかった。

 私って悪い子だな。

 誠二くんに会う度にフランスに行くって言わなきゃと思う。

 だけど怖い。

 言っちゃったら終わっちゃう気がする。言っちゃったら誠二くんが変わっちゃう気がする。

 だけど辛い、

 言っちゃったら楽になるような気がする。言っちゃったらふきれるような気がする。

 …けれど変わらないんだ。

 私が言わなかったら…。

 誠二くん、ごめんなさい。

 私の一番のワガママを許して下さい。

 誠二くんの笑顔が幸せなの。

 その時が来るまで…。

 変わらない二人でいさせて。

 私のワガママなの…。

「めぐー」

「なーに?誠二くん」

「今日の宿題さ、少し手伝ってくれない?あれって難しいよな」

「もうー、仕方ないなぁ。ちゃーんと授業聞いてたらわかるものだよー?」

「めぐと一緒に居たいってことをわかってくれよー」

「そ、そんな事言っても誤魔化されないからね!」

 何気ないことでも一つ一つの全てが愛おしい。

 少しでも多くの思い出を…。

「今度はちょっと遠出したいね」

「たまにはいいかもな」

 楽しい、幸せな時間を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ