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吹奏楽コンクール

「もうこの部ともお別れですね」

「みゆきー。そんな寂しい事言わないでよー」

「……寂しい…」

「今年こそ上に行きましょう」

 今年ももう明日、吹奏楽コンクールの日がやってくる。今年は三年生が多いからみんな地域コンクールの上の支部コンクールに行けることを期待してる。

「私たちが抜けたあとは…相田さん、しっかりと頑張って下さいね」

「そんな…。河本先輩、もう終わりなんて言い方しないで下さいよ。…寂しいです」

 先輩たちと部活が出来るのもコンクールまで。去年もだったけど、やっぱり寂しい。別れが来るってわかってるの、心苦しいよね…。

「今日はここまでです。あとは明日に備えて休みましょう。みなさん、お疲れ様でした。明日、頑張りましょう」

 明日に備えて今日はいつもより少し早く部活は終わったんだ。

 そしていつものように誠二くんがバス停まで送ってくれる。

「明日だね」

「うん…。今年こそ…だな」

「うん!でもあんまり気負い過ぎても良い演奏出来ないから、力抜いてね。めぐ大先輩からのアドバイスだよ!」

「ははっ、頼りにしてるよ、めぐ」

「てへっ。…でも、先輩たち抜けちゃったら寂しいね」

「居たら居たでうるさいけどな。特に理恵先輩は」

「あはっ!そうだね」

 ムードメーカーだったもんな。理恵先輩。

「だぁれがうるさいってー?」

 え?

「えっ!?うわっ!?理恵先輩!何でこっちに!?」

「バスを使う用事があるんですぅ。誠二くん、よくも言ってくれたねー」

 び、びっくりしたなぁ。いつからいたんだろう。

「り、理恵先輩がいなくなったら寂しいって話しですよ」

「じゃあ証明してみせて。あー!先輩寂しい!って私の胸に飛び込んで来て。さぁ!」

 理恵先輩が両手を広げて構えてる。

「理恵先輩!寂しい!」

 ガバッ!

「……私の中で恵ちゃんのキャラが変わってきてるんだよね」

 理恵先輩の胸に飛び込んだのは私。誠二くんにそんなことさせないんだから!

「この前も部室でいかがわしい事してたみたいだし…」

 ドキッ!

「やっぱり部長として黙ってるわけには…」

 ドキドキドキドキッ!

 ひ、冷や汗が…。理恵先輩の胸の中で顔を上げれない…。

「舞ちゃんとの一件は聞いてるからね」

 え?そっち?

「あ…はは…」

 いいのか悪いのか…。

「私にはそんな気はないからね」

「かっ、勘違いしないで下さいね!私は誠二くんだけを愛してますから!」

「あーやだやだ!ちょっとくらい誠二くんのぬくもりを分けてよー!」

 またそういう事を…。

「そ、そんな事より、明日頑張りましょうね」

「…………」

 あ、あれ?

「そうだね。私たち三年生にとって最後の演奏になるかもしれないから…しっかりしなくちゃね」

 理恵先輩…。

「誠二くんも、恵ちゃんも…こんな部長でゴメンね?でも、楽しかったなぁ」

 ものすごく寂しい顔で今にも泣きそうだ!

「さ、寂しいこと言わないで下さい。理恵先輩が部長でよかったって思ってますよ?」

 うん、楽しかった。だから私の本心。

「あ、ありがとう!誠二くーん!」

 え?

「うわっ!オレ何も言ってないでしょ!」

 誠二くんに抱きついた…。

 もうーーーーー!!

「離れて下さい!」

「あーん!私はあなたのそばでずっとー!」

 そのセリフ言っちゃダメ!

「もう!油断も隙もない!真面目な話しだったのに!」

「私はいつだって真面目だよ?」

 そ、そう真剣に言われても…。

「あっ、私わのバスに乗るからまた明日ねー!」

 したいことして行っちゃった。

「ははっ、やっぱり騒がしいな。理恵先輩は」

「もうー、私にとっては天敵だよー」

「ああしてるけど冗談さ。明日は理恵先輩たちのためにも頑張ろう。何かあの人に泣き顔は似合わない気がするしさ」

「そうだね。私もフルートの先輩たちのためにも」

 それからバスが来て誠二くんと別れた。


 翌日。

「紗耶香ちゃん。おはよう」

「お、おお、おはよ!めぐ!」

 紗耶香ちゃん、かなり緊張してるな。

「リラックスリラックスー♪」

「う、うん!」

 朝、同じバスで学校に向かってる。

「な、なんかさ、去年と違って先輩たちと一年間やってきたから、今年こそやらなきゃって思っちゃうんだ」

「確かに、三年生の人数多くて期待されてるし…。プレッシャーは去年よりも大きいよね」

「め、めぐはさすがにソロコンにも出てただけあって落ち着いてるよね」

「そんなことないよ。緊張はいくらステージに立っても消えるものじゃないし。それに、私一人のステージじゃないから。迷惑かけられないと思うし」

「課題曲でめぐは大事なとこあるもんね」

「うん…。でも、先輩たちが私に任せてくれたところだから。一番いい演奏してみせるよ!」

「強いなぁ、めぐは」

 それから学校に着いて楽器をトラックに積み込んで会場へ向かう。

 行きのバスの中では誠二くんの隣。

 この、どこかに行くって雰囲気は好きだな。でも、今日は決戦の地に向かってるんだ。

 誠二くんも緊張で震えてる。

「大丈夫だよ。誠二くん」

 私はそっと誠二くんの膝に手を置いた。

「あ、ありがとう。めぐ」

「ううん、いつも通りにいいんだよ」

「めぐが言うなら心強いな」

「私だって、誠二くんがそばにいるから心強いよ」

「めーぐー!誠二とばっかり話してないで私にもかまってよー!」

 紗耶香ちゃん、もうあんまり緊張してないみたいだね。

「紗耶香、オレとめぐの邪魔をしないでくれ」

「それならあんたを黙らせるだけよ」

「め、めぐ。紗耶香が呼んでるぞ」

 ふふっ、いい感じになってきたかな。

「めぐ先輩!私と舞もいますからね!」

 あはは…。遠足じゃないんだから。

 みんな良い感じに緊張がほぐれてきて会場に着いた。

 今回のプログラムでは私たちの演奏順は早目にある。午前中にはもう終わる。すぐに準備をしないといけない。

「あ、相田先輩…!き、緊張してきました…!」

「め、めめめ、めぐ先輩!が、頑張って下さい!」

 私より今回は出ない後輩二人が緊張してるみたい。

「ありがとう。二人ともしっかり会場で見守っててね」

「「は、はい!!」」

 さーて、気合い入れないとな。

 みんなの期待に答えるんだ!

「相田さん。珍しいですね。力が入り過ぎてますよ」

 あっ…。

「す、すいません。河本先輩」

「いいえ。私たちは最後になるかもしれませんけど、気にしないでいつものように演奏して下さいね。あなたは最高の奏者ですから」

「まっ、気楽にいこうよ!」

「…愛理はもっと…緊張する…べき…」

「あははー…」

 …最後なんてイヤだ。もう少しだけでも、この先輩たちと吹奏楽部で過ごしたい。

 すぅ~~…はぁ~~…。

 …よし!

「めぐ、いよいよだな」

 誠二くん…。なにより誠二くんと一緒なら、何でも出来る。近くにいるだけで力になる。

「うん。きっと大丈夫。私たちなら」

「そうだな。オレたちならいけるよ」

「みんな!そろそろよ!いつも通りに!みんなの音を響かせて!きっとそれは審査員の心に届くから!」

「「「はい!」」」

『次のプログラムは柳ヶ浦高校です』

 行こうっ!

 コンクールはステージへの楽器搬入から時間がスタートする。制限時間が十二分間。けっこうバタバタなんだ。

 みんな急いで席に着いて演奏の準備をする。もう緊張する暇もない。

 会場の視線がステージに集まる。

 でも、それも分からないこらいに集中する。

 目線は本田先生の右手が掲げた指揮棒に。

 そして、指揮棒が振り下ろされた。

 課題曲―

 静かで時に盛大で華やかな、私の技術を生かす選曲。頑張るんだ。自信はある。

 ―――

 自由曲―

 軽快なリズムを誠二くんたちパーカッションが刻む。そして美香ちゃんのトランペットのリード。

 ―――

 どちらの曲も問題なく演奏出来た。そしろいつも以上に素晴らしい演奏だったはず。

 ステージから降りると梓ちゃんと舞ちゃんが駆け寄ってきた。

「め、めぐ先輩!感動しました!なんか…思いが伝わってきて…グスンッ…」

「か、感動でした」

「ふふ、ありがとう。いい演奏だったかな?来年は梓ちゃんと舞ちゃんもステージに上がるんだから。来年は一緒に頑張ろうね」

「「は、はい!」」

 よかった…。やっぱりすごくいい演奏だったんだ。

「相田さん。お疲れ様でした。素晴らしい演奏でした」

「さっすが恵ちゃんだったねー!」

「…ありがとう……」

 先輩たち…。

「お疲れ様でした!」

 きっと大丈夫!もう少しだけど、一緒にいれる!

「めぐ」

 あっ…。

「誠二くん、お疲れ様。よかったよ」

「ははっ、さすがめぐだな。オレは自分のパートだけで精一杯だったのに」

「他の人の音を聞くのも大事だぞ!誠二くんっ」

「はいっ!以後気をつけます!……ははっ!」

「ふふ…誠二くん。時間あるみたいだし少し外に出ない?」

 お昼をはさんでもまだ表彰式までは時間があるんだ。ご飯一緒に食べたいな。

「ああ、もちろん。ご飯でも食べようか」

「うん!」

 それから近くのレストランに食事に来た。

「ボロネーゼ二つ」

 誠二くんが注文する。

「支部コンクール、行けるといいな」

「うん。みんなの思いが音になってた。きっと大丈夫だよ」

 ところで、今日は一つの計画を話そうと思ってるんだ。

 誠二くんと…うふふ…。

「ね、ねぇ誠二くん。こんな時に不謹慎なんだけど…」

「ん?」

「コンクール終わったらさ、う、家にお泊まりに来ない?」

「え……えぇっ!めぐの家にお泊まり!?」

 お、驚いてるなぁー。

「う、うん。せっかくの夏休みなんだし。ほら、私の家って親いないからさ」

「めぐの家にお泊まり…」

「む、無理ならいいんだよ?」

「い、いや、行く!絶対行くよ!」

 ん…その顔…。やらしいこと考えてるな…。ニヤニヤしちゃって。

「今エッチなこと考えてたでしょ」

「そ、そんなことないよ!ただ、めぐと長い時間一緒に居れるのが嬉しいなって!」

「ホントに?」

「そ、そう。ホント」

 嘘。顔に書いてあるよ、誠二くん。でも、私も想像しちゃうと……ぷくくっ…!

 おやすみのチュウとおはようのチュウなんかしちゃったりして…。

 変な意じゃなくてすごく幸せだろうなぁ。

 そしそんなのが毎日…一緒に暮らせたら…。きっと毎日が楽しくて、きっと毎日が幸せで。

 あんなことや…こんなことも…ケンカだってするかもしれないけど、仲直りする度に絆を深め合って…。

「めぐー。めーぐー」

 えっ!?あっ…また妄想してた。

「そろそろ行こうか?」

 い、いつの間にかご飯食べてしまってるし…。私ってすごいのかも。

「あっ、うん」

 へへへ…楽しみだなぁ。お泊まり。

 それよりも今はコンクールの結果だよね。

 それから会場に戻って誠二くんと私はそれぞれのパートの人たちと合流した。

「めぐ先輩。おかえりなさい。あと少しで表彰みたいですよ」

 戻って来ると、あと三校の演奏を残すだけだった。

「ど、どうなんでしょう?」

 舞ちゃんが心配そうに聞いてくる。やっぱり一年生でも結果は気になるよね。間違いなく全員が力を一つにしてるんだ。ライバルの亜美ちゃんだって。

「わからないよ。でも、きっと…」

 後は待つしかないから。

 そして残り三校の演奏が終わった。

『ただいまより、表彰にうつらせていただきます』

 き、来た!

 部長の理恵先輩が他の高校の代表の人とステージに立ってる。理恵先輩の表情は固い。あそこに立つのってすごく緊張するんだろうな。

『○○高校、金賞』

「きゃあああああああ!!」

 金賞を取った高校の会場で見ていた生徒は歓喜の声を上げる。

「めぐ先輩、あれって代表なんですか?」

「ううん。金賞を取った高校の中から四校が代表になれるんだよ」

『○○高校、銀賞』

「きゃあああああああ!!」

「じゃあ、結構厳しいんじゃ…」

「…そうだね。だからこそ一生懸命頑張ってきたんだよ」

「…………」

 数多くの中から四校だけ。それがどんなに厳しいことか…。

『柳ヶ浦高校。金賞』

「きゃあああああああ!!」

 やった!とりあえずはクリア!

「きゃー!やった!やりましたね!めぐ先輩!」

「うん!」

「す、すごいです!」

 ここまでは…。でもまだ。

『豊ヶ峰高校、金賞』

「きゃあああああああ!!」

 さすが代表常連校だな。

 それからもどんどん表彰が続けられていく。

 ・・・・・・

『○○高校、金賞』

「きゃあああああああ!!」

 これで全部の高校の表彰が終わったな。

『続きまして、支部コンクールへの代表校の発表に移らせていただきます』

 いよいよだ…。今回は演奏順が早かったから呼ばれるなら最初の方…。

 もし、私たちの後から演奏した高校が呼ばれたら、そこで今年の夏は終わりなんだ。

 理恵先輩、不安そう…。

 ドキドキ…。

『柳ヶ浦高校、代表です。おめでとうございます』

 ―――!!

 やっ…!

「やったぁーーーーー!!」

 へ?

 ガヤガヤ…クスクス…。

 理恵先輩がステージの上で万歳しながら叫んでた。

 そして理恵先輩は恥ずかしそうに表彰状を受け取りに行ってた。

「めぐ先輩!私たちの学校ですよね!?すごいんですよね!?」

「クスッ…そうだよ!すごいことだよ!」

「か、感動です…」

 よかった…ホントによかった…!

「相田さん。もうしばらく私たちにお付き合い下さいね」

 河本先輩…。

「…はい!」

 もう少し一緒に続けられるんだ!

「……うっ……うっ…」

 大野先輩…。普段はおちゃらけて元気いっぱいなのに、やっぱり思い入れが強かったんだな。

「……うれしい…」

 た、田代先輩がうれしいなんて…。ちょっとびっくり。

「ホントに…よかったな…」

「めぐ先輩…」

「え?」

 梓ちゃんがハンカチを渡してくれた。

 …泣いてたんだ、私。

『豊ヶ峰高校、代表です。おめでとうございます』

 これで四校全ての代表校が決まった。

 ・・・・・・

「みんな!おめでとう!支部コンクールは二週間後よ!それまでまた一緒に頑張りましょうね!」

 二週間後か…。あと最低二週間は一緒に頑張れるんだ。

「めぐ、よかったな。代表なれて」「

「うん!でもお泊まりが先に延びちゃったね」

「ははっ…お楽しみは後にとっておけってことかな」

 ふふ…。

 …それから二週間後、支部コンクールに臨んだ。結果は金賞だったけど、全国には行けなかった。でも、みんな満足そうだった。

 それからまた三年生の吹奏楽部送別会がハチャメチャに行われたんだ。

「理恵先輩!誠二くんを返して下さい!」

「ダーメ!!」

 


 

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