新入部員
部活の見学期間が終わって、正式入部した後輩たちが今日から本格的な部活動に入る。
誠二くんのことが好きっていう亜美ちゃんはパーカッションになってた。
フルートには二人。
一人は川添舞ちゃん。
私よりも小さくて百五十センチも身長はないかも。気が弱そうな話し方でいつも少しオドオドしてる。真っ黒い髪を目の上と方できれいに揃えてた。
二人目は吉田梓ちゃん。
私と同じくらいの身長で茶色いミディアムヘアー。人懐っこい性格で舞ちゃんとは対照的。どうやら亜美ちゃんと仲が良いみたい。
二人ともフルートは未経験。頑張って教えなきゃ。
「相田さんに一任しますから」
河本先輩がそんなことを言ってた。あれだよね、一種の職務放棄だよね。
「二人とも恵ちゃんに憧れてるみたいだから、しっかり先輩として頑張ってね!」
大野先輩は他人事のように言ってた。
「光の…教徒が…また二人…」
田代先輩はわけわかんない。
「めぐ先輩!」
今、私を呼んだのが梓ちゃん。亜美ちゃんが私のことをそう呼んでるみたいで真似してるらしい。
「今日もよろしくお願いします!」
「う、うん」
ちょっとこの勢いに気おされ気味な私。
「ここ、こんにちは。相田先輩…」
今のが舞ちゃん。
「こんにちは。今日も練習頑張ろうね」
「はっ、はい」
私は舞ちゃんとの方が気が合いそうだなぁ。
「あ、相田先輩…た、高い音が出ません」
「息のはやさを早くしてみて」
♪ーーーーーー…
「そうそう、そんな感じだよ」
「は、はい!」
かわいい!なんて素敵な笑顔。赤面しちゃいそうなくらい。
「めぐ先輩、家でも出来る練習ってあります?」
二人ともやる気ばっちり!
「大事に扱うんなら学校の楽器持って帰ってもいいけど、ペットボトルで練習も出来るよ。中に水を入れて飲み口から吹いて、うまく音が出るように練習するの」
「楽器壊しちゃったら困るからそうしようかな。ありがとうございます!」
「うん」
二人ともいい子だなぁ。
「あ、相田先輩…」
「うんうん…」
・・・・・・
「めぐ先輩!これは?」
「えっとねー…」
・・・・・・
「相田先輩」
「めぐ先輩」
「は、はいはい…」
・・・
「相田先輩こっちに…」
「めぐ先輩!こっち!」
「ち、ちょっと休憩しようか」
つ、疲れる…。自分の練習出来ないや。
「早くめぐ先輩みたいになりたいです!」
「わ、私も…相田先輩みたいに…」
「あ、あはは…」
尊敬してくれるのは嬉しいんだけど急いでもね…。
「頑張ってるかなー?二人ともー!」
大野先輩だ。様子でも見に来たのかな?
「はい!」
「は、はい…」
うーん、やっぱり二人は対照的。
「二人とも恋はしてるかなー?」
大野先輩…何をいきなり…。
「してないですよ?」
「わ、私は相田先輩が…」
えっ…えっ!?
「そっかぁ」
大野先輩、舞ちゃんのはスルーでいいんですか?
「恵ちゃんみたくなりたかったらまず恋をすることだねー」
「お、大野先輩、何を…?」
「恋、ですか?」
「わ、私は相田先輩が…」
二人とも乗ってきた!?
「そう!恵ちゃんの音色は恋の音色なんだよ」
大野先輩は両手を胸の前に組んでうっとりしながら話してる。
「誠二先輩と付き合ってるんですよね?」
えっ…?
「亜美から聞いてますよ。めぐ先輩はライバルだって」
「うふふ…。じゃあねー!恵ちゃん!」
「えっ!ちょっと大野先輩!」
大野先輩はニヤリと笑みを浮かべて戻って行った。
…狙いは恋話か。
「いつから付き合ってるんですか?」
「あ、相田先輩…聞きたいです…」
大野先輩の思惑通り…。
「さ、三月からだよ」
「告白はどっちからですか?」
「わ、私から…」
「ききっ…キスは…し、しましたか?」
「…うん」
何を素直に答えてるんだろ。
「じゃあ…初…」
―――!
「そ、それはまだ!」
まだ初体験は…。
「え?初デートまだなんですか?」
「は、初デート?」
や、やだっ…!
「あ、相田先輩…ま、まさか…」
―――!
「は、初デートだよね!初デートは街デートだったよ!」
ご、誤魔化さないと。
「むぅ…」
な、何をそんなに悔しがってるのかな?舞ちゃん。
「誠二先輩のどこが好きなんですか?」
どこ?
かっこいいし、かわいいし。優しいし。いつも私のこと考えてくれるし。
「全部かな。やさしい声も好き。笑顔も好き。性格も好き。私のヒーローなんだよ。一緒にいると自然に笑えるんだ」
あ、あれ?
二人とも呆けてる。
「めぐ先輩、眩し過ぎます」
「す、好きです」
「でも、亜美が誠二先輩を振り向かせるって躍起になってますよ?」
うっ…。
「だ、大丈夫だよ!誠二くんと私は切っても切れない仲だから!信じ合ってるんだから!」
「今も亜美はきっと猛アプローチを…」
うぅっ…。
「だっ、大丈夫ったら大丈夫!」
「あ、梓ちゃん。あ、相田先輩をいじめないで」
あぁー、舞ちゃん!何て良い子なんだろう!
「あっ、噂をすれば…」
亜美ちゃんがやってきた。亜美ちゃんは小柄で茶色いウェーブがかかったセミロングの髪。梓ちゃんと似て元気な子。かわいくて大きな目をしてる。
「めーぐせーんぱーい!」
わ、私に用事?
「亜美ちゃん、何か用事?」
「今度の休みに誠二先輩を貸してもらえませんか?」
「………はい?」
な、何言ってるの?
「誠二先輩を休みに貸してください!」
「えーと……ダメ」
普通そうだよね。一応恋敵だよ!
「えーっ!いいじゃないですかー!亜美と誠二先輩を共有しましょうよー!」
誠二くんを共有って…。
「亜美ちゃん。誠二くんは私の彼氏なんだよ?」
「知ってます」
うん、知ってるよね。
「めぐ先輩だけズルイですぅ!」
「いやいや、ズルイも何もないでしょ?」
「ズルイったらズルイですぅ!一日くらいいいじゃないですか!」
「ダメ」
「お願いします!」
頭まで下げて頼まれてるけど…。
「絶対ダメ」
「う~、めぐ先輩のけち!うわぁん!梓ー!めぐ先輩がいじめるよぉ!」
えっ!?私が悪者!?
「亜美、かわいそうに…。めぐ先輩、一日くらいどうですか?」
え?え?話しが見えないんですけど…。私が悪いの?
「あ、相田先輩が、な、泣かせた…」
がーん…。舞ちゃんまで。
「あ、あのね…」
とりあえず話しを…。
「うわあぁぁぁぁぁぁん!」
聞いてももらえないの?
だんだん訳わからなくなってきたよー!
えっと、泣いてるのが亜美ちゃんで私が泣かせて…。誠二くんを一日貸すと泣き止んでくれるわけで…。
「あ、亜美ちゃん!じゃあ一日…」
ニヤリ…。
亜美ちゃんの口元がそう微笑んだのを私は見逃さなかった。
「…だけでもダメ!」
「ひっ、ひどぉい!めぐ先輩フェイントですよ!大人なかけ引きするんですね!?」
あー、もう面倒くさいや。
「ダメったらダメーーーーーーーーー!!!」
もうこれ以上いろいろ言うと怒っちゃうんだからね!
「め、めぐ。どうした?」
ふ!?せ、誠二くん!?
誠二くんまで来ちゃった。
「な、何でもないよ…」
「そ、そっか。亜美!いつまでサボってんだ!戻るぞ!」
どうやら亜美ちゃんを連れ戻しに来たみたいだ。
「誠二先輩ー。めぐ先輩がケチなんですよー」
「一体何の話だ。めぐはケチじゃないぞ」
「だって誠二先輩は自分の彼氏だから一日でも貸せないってー」
うんうん、当たり前!
「そりゃそうだろ」
だよね!私間違ってないよね!
「ぶぅー、たった一日なのに…」
亜美ちゃんはそっぽ向いて拗ねてしまった。
「めぐがイヤがることはしないって言っただろ?」
「だからこうやってめぐ先輩の許可をもらいに来たんじゃないですかー!」
そういうことだったんだ。
「そういう問題じゃないだろ。オレだってめぐが誰かからそんなこと言われたらイヤだし、絶対許さないね」
誠二くん…。
「誠二くん。私は誠二くんしか見えないよ!」
「オレもだよ。めぐだけしか見えない」
誠二くん…好き。
「けっ!こんなとこでラブラブするなです!」
ふふふ…ちょっと意地悪しちゃおうかな。
「ねぇ誠二く~ん。二人で休憩しない?」
誠二くんの胸元で甘えて…。首に腕回して…。
「ななっ!はっ、離れてください!」
ふふふ…。
「め、めぐ。どうしたんだ?」
「わたしぃ、誠二くんとちゅーしたいなー」
なんて…。
「こ、ここで?」
「そうだよぉ」
見せ付けてあげる。私って悪い子だな。
「み、みんな見てるしさ…」
そう、みんな見てるから…こ……そ…?
……あっ…。
「め、恵ちゃん。早くしちゃいなよ」
「相田さん。練習中には感心出来ませんが…どうぞ…」
「…さぁ……さぁ…!」
………
「せ、先輩!ち、違うんです!」
ひえぇぇ。梓ちゃんと舞ちゃんは顔真っ赤で呆けてるし。先輩たちは興味津々だし。
「誠二くん!亜美ちゃん!いつまでサボってんの!」
り、理恵先輩ー!
「「「「「ちっ!」」」」」
えぇー…みんな舌打ち?
「じ、じゃあまた後でな。めぐ」
「う、うん。あはは…」
「めぐ先輩…勝負はお預けです」
いや、意味わかんないから。
二人が連れ戻されたあとも…。
いろいろ大変でした。