新学年
四月。
桜が見事に咲き乱れて、見てるだけでも幸せな気持ちになる。
そんな春。
私たちは二年生になった。
クラスは誠二くんと紗耶香ちゃんと同じ。誠二くんと同じだっていうだけでも嬉しかったのに、紗耶香ちゃんまで一緒なんだ。この一年間、楽しくなりそうだな。
「めぐ、おはよう」
「あっ、誠二くん。おはよう」
「また同じクラスでよかったよ」
「私も!それだけが心配だったんだぁ」
「ちょっと二人とも。今年は私もいるんだからね」
「わかってるよ、紗耶香。一年間よろしくな」
「うん。紗耶香ちゃん、よろしくね」
「な、なんか私が入り込めない空気があるわ…」
今年、私たちは先輩になるんだ。どんな新入生が入学して来るんだろう。
入学式が終わって、初々しい顔立ちの新入生が校内に見られるようになった。
ふふふ、まだ一年前のことなのに懐かしいな。
知りありは紗耶香ちゃんしかいなくて不安だったなぁ。
「めぐ、部活行こうか」
誠二くん。
「うん!」
今日から一週間は新入生の部活動見学期間なんだ。
「どんな新入生が来るんだろうな」
「後輩に手出したらダメだよ?誠二くん」
「そんなことするわけないじゃないか。オレが好きなのは後にも先にもめぐだけさ」
「や、やだぁ。誠二くんったら」
嬉しいこと言ってくれるなー。
「いつでもどこでもイチャイチャするのはどうかと思うけど?」
さ、紗耶香ちゃん…!
「あ、あはは…」
「めぐが全然かまってくれなくなっちゃったー!誠二のせいだからね!」
「ごめんね。紗耶香ちゃん」
「めぐは悪くないんだよ。悪いのは全部誠二なんだから」
でも私が誠二くんにべったりだから…。
「でもな紗耶香。オレとめぐは愛し合ってるんだ」
や、やだっ!
「誠二くーん!」
「それを止めろって言ってんの!あーあ…私も誰かいい人いないかなぁ」
えっ、紗耶香ちゃんがそんなこと言うなんて…。
「いい奴を紹介するぞ?」
え?誠二くん誰か知ってるのかな?
「勇介とか言ったらぶっとばすわよ?」
「…………」
そうなんだ。
「誠二、覚悟はいいわね?」
「め、めぐぅ!」
あはっ!誠二くんが甘えて助けを求めてる!
「誠二くんかわいい!紗耶香ちゃん、止めてあげて?」
「あー、もう。付き合ってらんないわよ」
紗耶香ちゃんはそう言って先に部室に行っちゃった。
私と誠二くんもあとを追うように部室に向かったんだ。そして誠二くんと別れてフルートの練習場所へ。
「相田さん、今日は新入生のために一曲演奏するみたいですよ」
「あっ、はい」
去年、私たちも先輩の演奏聞いたもんな。
「新入生を恵ちゃんの音色で虜にしちゃいなよ!」
そんな…。どこまでは無理だよ。
「魅了…する…」
「相田さんの音色は恋をしてさらに豊かになりましたからね」
「そ、そんな…」
「みゆきの言う通りだよ。恵ちゃんの気持ちが伝わって来るみたいな」
「私には…ツラい…」
田代先輩…あはは…。
「そろそろですね。行きましょうか」
河本先輩がそう言って練習場へ。新入生がちらほら集まっていた。
「さあ!今日は見学に来てる子たちにいい演奏聞かせてあげてね!」
そして去年のコンクールの曲を演奏した。演奏が終わると新入生の拍手が響き渡った。
ふぅっ…。
興味持ってくれたかな?
「このあと各パートに分かれて練習するから、新入生は興味があるパートがあるならどんどん見に行ってね!」
さーて、フルートには来るかな?
それからまたフルートの練習場所に戻ったんだけど…。
………
え?
「先輩!感動しました!」
「フルート教えて下さい!」
「すっごく素敵でした!」
「先輩かわいいー!」
何これ?私に向けて言ってるの?新入生が続々と詰め寄ってくる。
「あらあら、もう相田さんのファンがたくさんですね」
「順番だよー!押さないでねー!」
「大野先輩、ち、ちょっと待って下さい」
「なーに言ってるの!恵ちゃん!みんな恵ちゃんに憧れてるんだよ!ほらほらー!」
ひ、ひえ~。
それから新入生に質問責めにあったり、フルートの吹き方を教えたり大変だった。握手とか求められたけどどうしたらいいかわかんなかったし。
とにかく休む暇がないくらい引っ張りダコだったんだ。
嬉しいけど恥ずかしかった。
・・・・・・
つ、疲れたー…。
今日の部活はこれで終わり。
「ふふふ、お疲れ様でした。相田さん」
「あ、お疲れさまでした」
「恵ちゃんすごいね!これなら私たちが抜けても安心だね!」
「こ、困りますよー。私には後輩を教えることなんて…」
無理だよー。恥ずかしかったし。引っ張っていけそうにないし。
「自然に向こうがついてきますよ。自信持って下さい」
「はぁ…」
私、やれるのかなー。
とりあえず、今日は帰ろう。
誠二くんはまだ練習場かな?行ってみよう。
「誠二くん…」
私は練習場のドアを開ける。
「あ、めぐー!今日ね、誠二のこと大好きっていう子が来たんだよ!」
「紗耶香!何でわざわざ…」
「えっ、そうなの…?」
誠二くんを大好きな子って…。
「め、めぐ?中学の時に告白されただけだからさ。心配しなくても大丈夫だから」
でも…。ううん、誠二くんが大丈夫って言ったら大丈夫!
「私は誠二くんを信じてるよ!」
「めぐ…。オレはめぐが大好きだよ」
「うん!さ、帰ろう。誠二くん」
・・・・・・
「ちょっとぉ!私もいるんだからねーーー!!」
・・・・・・
ん?何か聞こえたような…。
さっきはああ言ったけど、やっぱり気になるな。
「誠二くん。さっき言ってた子って…」
「ああ…。亜美っていって、元気で明るくて良い子だよ」
「そっか…」
やっぱり聞くんじゃなかったな…。良い子なんて…誠二くんが言わないなら別に気にならないのに。
「めぐ!」
「え?……んっ!?」
せ、誠二くんがいきなりキスしてきた!
「不安にならなくてもいいから」
私を安心させるためのキスなんだね。でも…。
「いきなりだからびっくりしちゃうよ」
「こんな事だって、好きって言うのだってめぐにだけだから」
ふふ…。
「ありがとう。でも、今度は私がいきなりしちゃうからね。覚悟するんだよー」
やっぱり誠二くん大好き!
いつも気を使ってくれて、優しくて…。いつも見てくれてる。
「ははっ、覚悟じゃなくていつでも待ってるよ」
また一年間よろしくね。誠二くん。
これからもっとお互いのことわかっていくんだろうな。
「誠二くん、手、繋ごう」
イヤなとことかも見えてくるかもしれないけど、誠二くんとならいつまででも一緒にいたいよ。