初デート
翌日の日曜日に吹奏楽部だけの卒業式が行われたんだ。
卒業証書の代わりに今まで演奏してきた曲のMDが渡される。良い思い出の物になるんだろうな。
卒業生から一言ずつ挨拶があって、感謝の言葉を言ったりしてた。
そして卒業式が終わってからの帰り際。
「誠二ー!私と帰ろうよー!」
これは村田先輩。
「だ、だめですよ!誠二くんを返して下さい!」
「最後くらいいいじゃなーい」
村田先輩が誠二くんの腕を引っ張って連れて行こうとする。
「だーめーでーすー!」
私も負けじと誠二くんの腕を掴んで引っ張る。
「痛い痛い痛い痛い!」
あっ…。
誠二くんが痛がってたから離したんだけど…。
「うわっ!」
「やんっ!」
…二人とも倒れて誠二くんが村田先輩の上に…。
「あーん!誠二ったら大胆ー!」
「もがっ!千秋っ、先輩!はな…してっ!」
あ……あ……あ……。
誠二くんが…誠二くんが…。
「うわーーーーーーん!」
「あっ!めぐぅーーーーー!」
結局ハチャメチャな卒業式だったんだ。
―――
卒業式のあとの部活もない初めての休日。
今日は誠二くんと付き合うようになってからの初デート!また街デートなんだけど今度は彼氏彼女として歩けるんだ!
待ち合わせはこの前の噴水で朝の従事。また少し早目に到着!したんだけど…。
誠二くんはもう噴水のとこに居たんだ。でも何か噴水の周りをぐるぐる回ってる。何してるんだろう。
しばらく眺めてようかな。
・・・・・・
五分経った。
もういいかな。ぐるぐる回ってるだけだし。
「誠二くん」
「うわっ!」
「おはよう。さっきから何してたの?」
「さっきからって…どれくらい前?」
「五分くらいかな。何か観察してたの?」
「観察?いや、少し緊張…。何でもないよ!」
変なのー。
「それにしても…。めぐ、かわいいよ」
えっ…。いきなりそんな…。
「せ、誠二くんも、か、かっこいいよ!」
黒いジャケットが良く似合ってる。
「照れるな…。少し早いけど行こうか」
「うん」
そう言って誠二くんは先に歩き出した。
「あっ、あの…誠二くん…」
「ん?」
モジモジ…。
「手…繋ぎたいな…」
「え?あ、ああ」
そうやって左手を差し出してくれた。恐る恐るも私は誠二くんの手を握る。誠二くんも照れくさそう。だけど…。
「えへへ…」
嬉しいな。
この前とは違う。誠二くん彼女として隣に立ってる。ホントにこのまま手を繋いで歩いてるだけでいいな。
誠二くんもまんざらじゃなさそう。同じ気持ちでいてくれたらいいな。
そのまましばらく歩いていたら、この前寄った雑貨屋が見えてきた。
「誠二くん、あそこまた寄らない?」
「あぁいいよ」
そして雑貨屋の中に。
しばらく一緒に中を眺めてたら…。
「あっ…」
この前見た占いの本だ。
「オレたち相性良かったんだよね」
確かに。でもとっちのこと言ってるの?恋愛?か、身体?
「ど、どっちの?」
誠二くんエッチだからな。
「え?どっちって何が?」
「えっ!いや…その…」
「もちろん恋人としてだけど、他になにが?」
う、うそ…!
「えっと…その…」
「めぐー、よくわかるように教えてよー」
意地悪そうな顔!絶対わかってて言ってる!
「もう!知らない!」
誠二くんの意地悪!ふんっ!私だって怒っちゃうんだからね!
私は誠二くんを残して一人で店内を眺めに行った。
誠二くんのバカ…。
でも…もし誠二くんが探しに来てくれなかったらどうしよう。
………
やっぱり私から謝りに…。ううん!私は悪くないもん!
…でもなぁ。最初のデートだし…。
「めぐ!」
ひゃっ!
後ろから声掛けないでよぉ。でもよかったぁ。来たくれた。
はっ……ダメ。私は今怒ってるんだから!
「怒ってる?」
「…………」
怒ってるもん!
「悪かったよ。どうしたら許してくれる?」
えー…どうしようかな。怒ってるって言っても怒ってるわけでもなくて…。
…そうだ。
「私のお願い聞いてくれたら許したげる!」
「お願い?いいよ。だから許してくれよ」
「じゃあいいよ!」
えへへ…。
「よかったー。でもめぐが怒った顔初めて見たけど可愛かったなぁ」
む……。
「そ、そんな事言っても誤魔化されないからね!」
可愛いだって。まいちゃうなぁ。
「それで、お願いって?」
「またプリクラ撮ろう」
「うっ…。プリクラか…。うん、じゃあまたあとでゲーセン行こうな」
えへへ…お願いなんかじゃなくても撮るつもりだったけどね。
それに今日のために持って来たものがあるんだ。あとで誠二くんに見せてあげないと。
あっ…。
かわいいストラップ発見!誠二くんとお揃いのもの欲しいと思ってたんだよね…。これなんかぴったりだよね。
「誠二くん見て。このストラップかわいいと思わない?」
「ん?あぁ、かわいいね」
「ねぇ、このストラップお揃いでつけようよ」
「もちろんいい……あっ…」
誠二くんが何かに気付いたように声を上げた。そして携帯を取り出した。
「このストラップさ、クリスマスに美香からもらったもので、大切にしたいんだよね。だから…」
美香ちゃんからもらったものなんだ…。
「いいよ…。美香ちゃんは私にとっても大切なお友達だもん。お揃いは別のものでいいや」
「めぐ。ごめんな…」
「ううん。大切にしないとね」
ホントはイヤなんだけど。そこまでわがままは言えないかな。
「何か別のものでも探そうか?」
「うん!」
それからしばらく店に並べてあるものを見ていたけれど、これといって何もなかったんだ。
「めぐは漫画とか見るの?」
それから近くの本屋さんに来た。
「私はあんまり見ないかな」
あっ、お料理の本見たいな…。
「誠二くん、ちょっとあっち見てきてもいい?」
「いいよ。オレはもう少しここ見てるね」
誠二くんはゲームの本を眺めてた。
今度誠二くんにお料理作ってあげたいからな。
そして誠二くんが嫌いなものでも食べれるように工夫して…少しでも健康に過ごせるように……って何考えてるんだろ。
気が早いでしょ、私。そんなのって、も、もし、け、結婚…した時の話しでしょ。
「めぐ」
「ひゃっ!」
バンッ!
思わず見ていた本を勢いよく閉じてしまった。
「そ、そんなに慌てて。何の本ー?」
「た、ただのお料理の本だよ」
「ふーん」
疑いの目で見てる。
「お料理の本見てたらお腹空いてきちゃった。ご飯食べに行かない?」
「そうだね、そろそろいいかな」
け、結婚のこと考えてたなんて…バカにされちゃうよ。
そして近くのパスタ屋さんに。
私はシーフードパスタ。誠二くんはぺペロンチーノ。誠二くんは好き嫌いが多いから食べれるものが少ないんだ。
「こんなにおいしいもの食べれないなんて人生の半分は損してるよ」
「今まで何度も聞いたよ…そのセリフ。でも、めぐと出会えたことでそんな問題帳消しだな」
え?そんな…。
「何かうまいこと言ってない?」
「だってそうじゃないか」
「うーん…そうだね」
無理に納得させられたみたいだけど…。
そしてパスタを食べ終えて店を出た。食事代は誠二くんが出してくれたんだ。私も払うつもりだったんだけど、こういうのって男の子のプライドがあるんだよね。…って聞いた。
「誠二くんデザートは?」
「デザート?うーん…結構有名なケーキ屋があるんだけど行く?行った事ないんだけど」
「うん!ケーキ!!…でも誠二くん甘いものとか大丈夫なの?男の人って甘いもの苦手なイメージがあるんだけど」
「甘いものは好きだよ。コーヒーも甘いのじゃないと飲めないし」
よかったー。
「じゃあ行こう!」
また誠二くんと手を繋いでケーキ屋さんに。
うわぁ。
さすがに有名なだけあって人が多いなー。
でも席は空いてたみたいですぐに案内された。
メニューを広げる。
ショートケーキにモンブラン、チーズケーキ。どれもこれもおいしそう…。これはオリジナルケーキかー。うーん……ん?
パフェだ…。巨大パフェ…。二十分以内に食べれたらタダ…。これだ!
「誠二くん決まった?」
「うん。めぐは?」
「私も決まったよ!すいませーん!」
店員さんを呼ぶ。
「えーと、ティラミスとコーヒーを」
「私は…これをお願いします」
私はメニューを差して言う。
「えっ、こちらの巨大パフェですか?」
聞き直してる。珍しいのかな?
「はい。お願いします」
「か、かいこまりました」
そんなに慌てなくても…。
「ケーキが食べたいんじゃなかったの?」
「気になっちゃって。だってほら…」
「ん?二十分以内に食べたらタダ…?じゃなかったら四千円!?だ、大丈夫なの?」
大丈夫だと思うけどなぁ。
少し待ってたら誠二くんのティラミスとコーヒーが先にきた。
「お先にどうぞ。誠二くん」
「じゃあ、お先にいただきます」
誠二くんが食べ始めた。おいしそうだなぁ。私のも早く来ないかなぁ。
「どう?誠二くん」
「うん、さすがに有名なだけあっておいしいよ」
そうなんだぁ。ますます早く食べたい!
パフェを待っている間に誠二くんはティラミスを食べ終わってしまった。早くパフェ来ないかなぁ。
あっ!あれかな?店員さんが必死で持って来てる。
「お、お待たせいたしました」
わあ!確かにおっきい!向かいに座ってる誠二くんが見えなくなっちゃった。
「めぐ、こ、これどうするの?」
「え?食べるよ?」
誠二くんはパフェの横に身を乗り出して聞いてきた。何言ってるんだろう。普通のパフェの十倍くらいはあるけど大丈夫だよ。
「それではただ今より二十分です。よーい…スタート!」
よーし、まざ一口。パクッ。
うーん!美味しい!どんどんいけそう!すごい!メニューのほとんどのケーキが乗ってる!
パクパク…モグモグ…。
「ご、五分経過です」
え?まだ五分?もう半分なくなっちゃったけど…。
パクパク…モグモグ…。ん…ちょっと食べにくいかも…。
「十分経過です」
あと時間半分か…。パフェはもう少しだし…、ゆっくり食べよう。ちょっと味に飽きてきたし。
ん?
誠二くんが頑張れみたいな顔で見てる。ふふふ…大丈夫だよ。
さーて、最後の方食べよう。…んもう、フレークばっかり。
サクサク…バリバリ・・。うー、アイス欲しいなー。喉乾いてきちゃうし。
でももうちょっと!頑張って食べて誠二くんを安心させないと。
サクサク……サクサク……。
「ふあー!美味しかったー!満足!」
食べたー!
「じゅ、十五分で完食です…!」
「やったぁ!」
誠二くん!私やったよー!
「す、すごいね、めぐ。その小さい体のどこに入るの?」
「甘いものは胃袋と別腹なんだよー?誠二くん知らないの?」
「いやー、実際には…。いや、めぐにつき別なのかもね」
「何それー」
「そんなに食べてよく太らないなぁ」
「いつもこんなに食べてるわけじゃないよぉ」
「あの…」
え?店員さんが何かあるみたい。
「見事完食なのでパフェ代はもちろん頂かないんですけど、よろしかったら空の器と一緒に記念写真をお願い出来ませんか?」
「おー、いいじゃん。撮ってもらいなよ」
い、いやだ。恥ずかしいよ。いっぱい食べる子なんて思われたくないもん。
「は、恥ずかしいから…。ごめんなさい」
「そうですか…」
店員さんは残念そうに奥に戻って行った。
「めぐ、今さら恥ずかしがってもさ。ほら…」
誠二くんがそう言って周りを見てみろと目で訴える。
「あっ…」
みんな…私の方を見てる…。
「せ、誠二くん、早く出よ!」
うぅ~、恥ずかしい!
誠二くんのケーキ代をレジで支払う時もみんなが私とパフェの器を交互に見ていた。
そ、そんなに珍しいの?
「あーーーー……」
「ははっ、みんなの注目の的だったなぁ」
むぅ……。
「誠二くん、プリクラ行くよ!」
「うっ…。ついに…。この前のゲームセンターでいいよね?」
「うん!」
気を取り直して、いってみよう!
そしてこの前のゲームセンターのプリクラブースに。
「やっぱりこの閉鎖的空間がなぁ」
まだ言ってる。二人っきりの空間を楽しまなきゃ!
お金入れて…。背景は…もう恋人だからこれでいいよね。明るさは普通で。
「撮るよ、誠二くん。ポーズは…もう恋人同士なんだから…」
私は誠二くんの後ろに立って両肩から腕を回して抱き締めた。
これで一枚。
パシャッ!
「今度は誠二くんがして?」
「え、えっと…こう?」
誠二くんが恥ずかしがりながらも同じようにしてくれる。
誠二くん…すごくドキドキしてる…。
ドキドキドキドキ…。
や、やだ…私も…。
「誠二くん、すごくドキドキしてるね…」
「だ、だってさ…」
「でも…私もおんなじなんだよ?…誠二くん」
私は振り返って誠二くんを見た…。こんなに…誠二くんの顔が近い。向かい合って抱き合ってるみたい…。
「誠二くん…」
自然だったんだ。私は自然に目を瞑ってた。
「めぐ…」
「んっ…」
そっと…誠二くんの唇が私の唇に触れた…。
私の…ファーストキス…。
パシャッ!
「誠二くん…!…好き…!」
「めぐ…」
抱きしめ合った。
ただただ抱きしめ合った。
そして二回目のキス…。
………
誠二くん…。あなたが大好き…。
「めぐの唇、柔らかい…」
え……。
「な、なんかエッチだよ?誠二くん」
カアッ…!
あはっ!真っ赤になってる。
「そ、そうだ!プリクラは?」
『らくがきコーナーに移動してね!らくがきコーナーに…』
「終わっちゃったね。また私がらくがきするね!」
誠二くんはベンチで休んで私がらくがき。
あっ…。
撮れてた二つはキスしてるやつだ。てへへ…。
今日の日付…初デート…。相合い傘の絵には…合わないな。は、初キス!書いちゃえ!今度は誠二くんにも見せられるから。
私のファーストキスはプリクラにも思い出にも残ったんだ。
うーん、出来上がりっ♪
誠二くんに渡そう。
「誠二くん、お待たせ」
「あ、うん」
「はい。これ誠二くんの分だよ!」
「あぁ、ありがとう。……って、うわ!」
うふふ…びっくりしてる。私も少しびっくりしたもんな。
でも、もう一つ…。
私はこの時のために持ってきたものを渡した。
「あっ…これって…」
まだ片思いの時にらくがきに書いてしまった、あの時に見せられなかったプリクラ。
「今なら見せられるから」
うん。今なら…。
「ふふ…めぐはかわいいな」
えへへ…。
それからまた誠二くんといろんなゲームをして遊んだ。
今度は一緒に太鼓のゲームもした。クイズゲームは私の圧勝!クレーンゲームでは取れなくて誠二くんがムキになってたな…。
・・・・・・
もう外が暗い…。アーケードのイルミネーションの光がきれいにわかる時間。
「めぐ…もう…」
ダメ!言わないで!
「誠二くん!……少し歩こうか」
「あ…うん…」
誠二くんもこの空気を感じてるみたいだった。
寂しい…。今日のデートも終わりを迎えようとしてる…。
誠二くんと手を繋いで…。会話はあんまりなかった。今までの時間があまりにも素敵過ぎたから…。余計に…。
いつの間にか最初の待ち合わせ場所の公演まで来てた。もう、バス停は近い。
離れたくないよ…誠二くん…。いつまでも一緒に居たい。
公演のベンチに腰かける。
「少し…寒いな」
「じゃあ…」
誠二くんはそう言うと、私の肩に腕を回して抱き寄せてくれた。
「えへへ…あったかい…」
帰りたくないよ…。
「めぐ…親が心配するんじゃないの?」
誠二くん…。
「私…親いないんだ…」
「えっ…。ご、ごめん…」
「正確に言うと、家に居ないの。両親は二人とも結構有名な音楽家だから、あちこち飛び回ってて」
そう、家には私一人…。
「めぐ、寂しかったんだな」
えっ…そんな顔してたかな…。
「これからはオレがいるから」
「誠二くん…!…うん!えへへ…」
そうなんだ。誠二くんがいるから寂しくない。誠二くんは、私の全て。
「誠二くんの親は心配しないの?」
「うちはあんまり…」
「じゃあ…もう少しこうしてていい?」
「うん」
あんまり会話はなかったけれど、こうしてるだけでもいい。
あっ…。
「誠二くん。プリクラ携帯に貼って?それでお揃いにしようよ」
「ああ、いいよ」
「あはっ、嬉しいな」
お揃いだ。誠二くんと同じ。
「そろそろ送るよ。めぐがバス降りてからが心配になるからさ」
「…うん…」
ついに終わりか…。最後に…。
「誠二くん!」
「ん?」
うー…モジモジ…。
「キス…して?」
「ぐっはぁ!」
え?
「じ、じゃあ目を瞑って」
ん……。
「んっ……。えへへ…」
今日はこのくらいで勘弁しといてあげよう!
「誠二くん、今日は楽しかった!またね!大好きだよ!」
「オレも。楽しかった!オレもめぐが大好きだよ!」
誠二くん…。また好きになった。
どんどん膨らむこの気持ち。
出来れば…誠二くんとずっと一緒に過ごしたかった。
もうすぐ二年生。