椿誠二くん
「あ、相田さん。おはよ」
え?誰?
教室で名前を呼ばれて振り返ると男の子がいた。誰だろう?
なんか挙動不審だな…。かっこいいけど…。
「…誰ですか?」
クラスメートかな?そうだよね、まだ朝だし。
「つ、椿誠二だよ。クラスメートの。この前吹奏楽部見学してたんだけどわからないかな?」
椿くんか。こんな人いたっけ?
「いつですか?私は毎日行っているので…」
「い、いや、相田さん入部したんだよね?
何?
「入部はしましたけど…どうかしましたか?」
「いや、このクラスでオレと相田さんだけみたいだから」
そうなんだ。だから?
「それがどうかしましたか?」
「い、いや、ははは…。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
それで行っちゃった。何だったんだろう。
でも、あんまり関わらない方がいいよね。
―――――
お昼休み。
一人でご飯を食べる。いつもは紗耶香ちゃんがいるけど今日は用事があるみたいで。一人でいいんだ。
「相田さん」
え?あっ…。朝の…。
「えーと…た…さきくん?」
じゃなかったのかな?そんな感じだったよね。
「つ、椿だよ。相田さん」
椿くんだったっけ。
「椿くんでしたね。はい、なんでしょう」
「相田さんはフルートなんだ――――」
「めぐー!」
「あっ、紗耶香ちゃん」
「もうご飯食べた?って誰?」
椿くんが何か言いかけたところに紗耶香ちゃんが来た。もう用事終わったのかな?
「た…椿くん。クラスメートで同じ吹奏楽部だよ」
また言い間違えるところっだった。
「えー…こんな人いたっけ?」
「正式な入部は今日からだから」
「そっか!私は三組の春日紗耶香!めぐの親友よ!そして吹奏楽部!よろしく!」
「オレは椿誠二。よろしく」
いいなぁ紗耶香ちゃんは。普通に話せて。
私は…無理。
「で、椿くんパートは?」
「パート?」
パートの事わからないってことは未経験者なんだ。
「楽器だよ、楽器!私はちなみにパーカツ!」
わからないと思うよ。
「パーカツ?」
ほら。
「うーん、ドラムとか鍵盤の打楽器とか!」
「ふーん、それいいかも…。相田さんはフルートなんだよね?」
「あ…は――」
「めぐはすっごくフルートうまいんだよ!」
そんなこと言わなくていいのに…。
あっ!そういえば…。
「紗耶香ちゃん。私、職員室に用事があるら行ってくるね」
忘れるところだった。
「えー!わかったぁ。また放課後にね」
急がないと!昼休み終わっちゃう。
―――――
――放課後。
今日は部活の初日で先輩たちの演奏とパート決めがあるみたい。
経験者は私と紗耶香ちゃんと、後は川口美香さん。それに何故か椿くんも経験者として呼ばれてた。そういう風には見えなかったけどな。
川口さんはヘアピンが特徴のかわいい人。そういえばよく椿くんと歩いてる姿を見た気がする。付き合ってるのかな?
先輩たちの演奏を聞き終わって、これからパート別に分かれて練習。
紗耶香ちゃんはもちろんパーカッション。あれ?椿くんもなんだ。川口さんは…トランペットの経験者なんだな。
「相田さん」
え?
あ…部長。
部長は村田千秋先輩。三年生。ちょっとかわいらしい。
「相田さんのこと、先生も期待してるから。頑張ってね!」
「…はい」
期待されたって…私は譜面通りにやるだけ。他の人と一緒。特別に見ないで。
「相田さん、こっちよ」
パートリーダーの日高先輩が呼んでる。
今年の一年生でフルートは私だけなんだ。あとは三年生が日高先輩とあと一人。二年生が大野先輩とあと二人。
多いな…。
「早くおいで。緊張しなくていいから。今日は基礎練習だけよ」
日高先輩が手招きして私を呼んでいた。
今日は天気もいいから外で練習するみたいだった。
吹奏楽部の練習場は木造の旧校舎にあって直接外から入れるようになっていた。部室は旧校舎内にあってそことは別に練習場がある。紗耶香ちゃんたちパーカッションはいつも練習場で練習していた。他の楽器は晴れてたら外で。雨の日は校舎のどこかで練習をする。
「みんな、改めて自己紹介しましょう。私はパートリーダー、日高希よ」
日高先輩。
「私は濱田翔子。三年だ」
濱田先輩。黒髪のストレートで美人。厳格な感じで話し方もクールなんだよね。
「大野愛理。一緒に頑張ろうね!」
大野先輩。
「河本みゆき(かわもとみゆき)です。よろしくお願いいたしますね」
河本先輩。前髪をキレイに揃えててすごく優しそうな顔。後輩にも敬語で丁寧に話すんだ。
「田代有紀。…よろしく」
田代先輩。私が言うのもなんだけど近寄り難いな。長い黒髪で目が隠れてて…ちょっと怖い…。
「相田さん」
あっ、私の番か。
「相田恵です。よろしくお願いします」
「期待してるわ。相田さん」
また…。
「出来る限り…頑張ります」
出来る限り…そうなんだ。
自己紹介が終わって基礎練習。基礎は大事。全ての土台だから。
「やっぱり、良い音ね」
えっ…。
途中で日高先輩がそう言った。
「そ、そんな事ないです。私なんかまだまだです」
「十分よ、コンクールも期待出来るわ」
「わ、私はコンクールとか…」
「何?」
「い、いえ…」
出たくないなんて…言えないよね。みんなそのために頑張ってるんだし。でも、私が出たら人数あぶれちゃうってことにも…。
そしてらまた…。
「日高先輩!相田さんをコンクールに!?」
ビクッ…!
大野先輩…。
「考えてるだけよ」
怖い…。
「そうですか…」
わ…私……イヤッ…!
「どうしたの?相田さん。具合でも悪いの?」
「い、いえっ。大丈夫です」
「相田。気になることがあれば何でも言うんだぞ?」
濱田先輩が気にしてくれてる。
「はい。ありがとうございます」
「何でも相談していただいて結構ですよ?」
「相談…する…」
河本先輩に田代先輩も…。
これから…大丈夫…だよね。
練習頑張ろう。
―――――
「めぐ!ごめん、今日ちょっと用事があるから先に帰るね!」
「うん…また明日ね」
今日の部活が終わって、紗耶香ちゃんは用事で先に帰るみたい。
もう少し、練習しようかな。
「部長、少し練習して帰りたいんですけど…」
「さすが相田さんは練習熱心だね!部室の鍵は明日職員室に返せばいいから。預けておくね!」
そして部長から部室の鍵を預かった。
みんな、早く帰らないかな。
私はみんな帰るまで基礎練習をしてた。
…………
誰もいないかな?
のびのびやろう。
私は誰もいなくなったのを確認してのびのびと練習したんだ。
♪♪~♪~…
気持ちいい…。
やっぱり家でやるのとは違うなぁ。誰もいないけど、こうやって自分の席で演奏してたらみんなと演奏してる気分になる。本当はみんなと一緒に演奏したいんだ、私も。
へへへ…去年のコンクールの曲やっちゃおうかな。
♪♪~♪♪~…
―――!
誰!?
人の気配を感じて入口の方を振り返った。
あっ…椿くん。
振り返ると椿くんがぼ~っと立ってこっちを見ていた。
見られてた…のかな?いつから…?
「ご、ごめん、邪魔しちゃったかな」
「…いえ。椿くん、まだいらっしゃったんですね」
「あ…いや…その…基礎練習の道具…。家でやろうと思って…忘れちゃって…」
そうなんだ。なんか…気まずいな。帰ろうかな。
「私はもうそろそろ帰りますけど、部室の鍵は私が預かってますので…」
「あ、す、すぐ帰るから」
そっか。よかった。
「練習、頑張って下さいね」
「う、うん。じゃあね」
「はい」
私も帰ろう。
「あ、あの…相田さん」
え?まだ何かあるの?
「何ですか?」
「その…同級生なんだしさ、敬語とかいらないからさ」
私はあんまり関わり合いになりたくないから…。
「誰とでもこんな感じなので…」
「そ、そっか!じゃあまたね!」
椿くんは帰って行った。
ふぅ…。
なんか慌ててたな…。
椿誠二くんか。
紗耶香ちゃんと同じパートなんだよね。
私も同じクラスか。
仲良く…しないとかな…。