誠二くんと私と美香ちゃん
誠二くんに告白の返事をもらって付き合うようになった翌日。今日は土曜日。
昨日は自分でもびっくりするくらい安らかに眠れたんだ。
土曜日だから午前中だけ部活があるんだ。部活が終わってから美香ちゃんと話したいと思ってる。だから誠二くんにその事を伝えなくちゃ。
ガララ…。
練習場のドアを開ける。
あっ、いた。紗耶香ちゃんも先輩たちもいるけど。
「誠二くん」
「きゃーーー!恵ちゃん!」
な、なに?
「ちょっとおいでよー!」
「な、なんですか!?」
「いいからいいから」
「一緒に~来る~」
私は半ば強引に、理恵先輩とアリサ先輩に別室に連れて行かれた。誠二くんがきっと話したんだろうな。
「ねぇねぇ、もうキスした?」
キッ…キス!?
「そ、そんな…!まだ昨日のことですよ!?」
「そんなの関係ないってぇ」
「そうだ~関係~ない~」
そ、そうなのかな?
「時には女の子の方からでも積極的に行かなくちゃ」
「でも~つじくん~えっちぃだから~めぐめぐ~危険~」
「た、確かにエッチですね」
「えっ!?なになに?何かあったの!?」
「占いおの本見て、身体の相性いいねって…」
「う、うわぁ。誠二くんって大胆なんだねー。それなら恵ちゃんも心の準備はしておいた方がいいかもね」
「用意~周到~間違い~なし~」
「えっ、な、なんのですか?」
「決まってるじゃない~、恵ちゃんがお・と・な・の女になる準備だよー」
カァァ…!
「そ、そそそっ、それはさ、さすがに、は、早いんじゃ、ないですか?」
「最初はムードとかも大事だけど、やっぱり勢いだよ!」
「いきおい~」
「も、もうやだぁ~!」
もうダメ!逃げる!
「あん!…ふふふ。恵ちゃんかわいい!」
もう死ぬほど恥ずかしかったから逃げ出しちゃった。
う~~~~~。
「せ、誠二くん!」
「ど、どうしたの?」
「い、勢いなんてヤだよ?」
「はぁ?」
カァ…!
ダメッ、誠二くんの顔を見れない…!
う~~~~。
「あっ!ちょっとめぐ!なに…」
誠二くんの制止も振り切って逃げ出してた。
私はそのままフルートのパート練習の場所まで戻って来てた。
「あれ、恵ちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」
「な、なんでもないです」
大人の女になる話しなんて言えないよ。
「ところでさ、椿くんとはどうなったの?」
「大野さん。練習中ですよ?」
「いいじゃん、みゆき。少しくらいさ。ねぇ有紀」
「…聞きたい…」
「まぁ、わたくしも少し興味がありますね」
うっ…。
な、なんだろう。この三人からの期待の眼差しは…。
「お、おあげさまで、誠二くんとはお付き合いすることになりました」
イヤな予感が…。
「きゃー!それでそれで?どこまでいったの?」
「…キス?…」
「余計な詮索は無用ですよ。でも、わたくしも興味があります」
や、やっぱり。この人たちは…。
「何もないです!そんなことより練習しましょう!」
「ちぇっ、けちー」
「…けち…」
「まぁ…けちですね…」
お、大野先輩と田代先輩はわかるけど河本先輩まで。私って実はいじられ役だったの?
それからもいろいろ聞かれながら練習してたから全然練習にならなかった。
「今日はここまでです。お疲れ様でした」
終わった。まだ誠二くんに美香ちゃんのところに行こうって話してないから早く行かなきゃ。
「そんなに急いで。デートかにゃ?」
「そんなんじゃないです。……けじめなんです」
「あっ…」
私が真面目に話すものだから大野先輩も戸惑ってる。
けじめなんだ。誠二くんと二人で…。
「もうそんなとこまで進んでるんだね。女の子の初めては大事だからね。何も言わないから頑張っておいでね!」
そうそう、初めては大事だから…??って、ど、どういう発想でそっちに話しがいくんだろう。
「…痛い…我慢する…」
「二人とも余計な詮索は無用ですよ。でも、後日談には期待しておきます」
むぅ~…。
「ちっ、違います!お疲れ様でした!」
もうっ!この部はこんな人たちばっかり!
気を取り直して誠二くんのとこ行かなくちゃ。
・・・・・・
なんか急に緊張してきちゃった。でも、逃げちゃだめ。
ガララ…。
練習場のドアを開ける。
「誠二くん」
「あっ、めぐ。さっき何か用事だったんだろ?」
あぁ…やっぱり誠二くんっていいなぁ…。
だ、だめ!こんなんじゃ!
「誠二くん、この後用事ある?」
「いや、特にこれといって…」
「じゃあ今から美香ちゃんに会いに行こうよ、二人で」
「えっ、美香に?」
「うん。ケジメつけとかなきゃって思うの」
「うん……。わかった。行こう」
そして誠二くんと美香ちゃんのところに。まだ楽器は直してないみたいだから、トランペットのパートのところにいるはず。
緊張するな…。告白したときみたい。
美香ちゃんは一人、片付けをしていた。
「み、美香…」
「美香ちゃん…」
「誠二…。恵ちゃん」
美香ちゃんが私たちに気付いてこっちを見たけど…。泣いたんだろう…いっぱい…。それがわかるくらいに目が腫れてる。
「あ、あの…」
言葉が出て来ない。
ケジメって言ったって…私はどうしたかったんだろう。何を言えばいいんだろう。
「恵ちゃん」
え?
「誠二が恵ちゃんを泣かせるようなことしたら言ってね!私がぶっとばしてあげるから!それと…私の分まで、誠二のこと大切にしてあげてね?」
「あっ……み、美香ちゃん…」
美香ちゃんはすごい笑顔で言ってくれた。私はその言葉に思わず涙が溢れてきてしまった。
「美香…」
「誠二も!恵ちゃんを傷つけたりしたら私が許さないからね!」
「お、おう!」
美香ちゃん…すごく強い…。
「…う…うぇ…美香ちゃ~ん…」
「”美香”でいいよ。私たちはずっと友達でしょ?だから私も”めぐ”って呼んでいい?」
美香ちゃん…。
「うん!」
私も笑顔で返さなきゃ。
「ふふ…眩しいなぁ、めぐは。前に進めてよかったね、誠二。誠二もずっと友達だよ」
「おう!これからもよろしくな」
「こっちこそ」
美香ちゃんはやっぱりすごく強い。同じ人を好きになったからわかる。私ならこんなに笑えてたのかな…。
でも、なにより仲良く出来そうでよかった。
それから部室をあとにして誠二くんがバス停まで送ってくれた。何も用事がない時はいつも送ってくれるんだって。
えへへ…カップルって感じかな?
紗耶香ちゃんには悪いけど…。でも紗耶香ちゃんは笑って了承してくれたんだ。登校する時は一緒だからねって。
やっぱりみんないい人たちばかりなんだ。
この柳ヶ浦高校に来て良かった。
すごくいい友達が出来て。いじめられることもなくて。みんなが私を認めてくれて。誠二くんい出会って…。
もうすぐ、私たちが先輩になる番なんだな。