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ホワイトデー

「恵ちゃん」

「あっ、美香ちゃん」

「ついに明日だね」

「うん…」

「誠二には伝えたよ」

「うん、私は教室で…」

「私は部室で…誠二を待つ」

 美香ちゃんとの話し合いで、私と美香ちゃんが別々の場所で誠二くんを待って、誠二くんが来た方が誠二くんの彼女になる。そういう方法にしたんだ。

「じゃあまた明日、ね」

「うん…」

 明日…ついにホワイトデーがやって来る。

 今日は…眠れないな…。

 ある時から誠二くんの様子が変わった。悩んでた様子から笑顔を見せるようになったんだ。誠二くんの中では確実に答えは出てる。

 ・・・・・・

 怖い…。

 怖いよ…覚悟はしてるのに…。

 誠二くん…。

 あなたの答えは…?

 ダメだったとしてもまた笑い合いたい。わがままかな…。友達だと割り切れるかな…。

 考えたくない…。でも考えちゃう。

 家に帰っても明日のことばかり。

「今日は食欲ないや…」

 買ってきた食材にも手をつけずにお風呂に入る。バスタブの中でも明日のことばかり。ぼーっと考える。

 部屋でベッドに横になると余計に…。

 …誠二くん。

 ―――――

「めぐ…」

「大丈夫だよ。紗耶香ちゃん」

 翌日、朝から紗耶香ちゃんが心配してくれてる。

 ホントは大丈夫じゃない。結局眠れなかったし、フラレるイメージしか頭の中に浮かんで来なかった。

 フラレたその後のことばかり考えてる。

 その日も時間は止まることなく流れて、あっという間に放課後になった。授業の内容なんて覚えてない。なんの授業だったのかもわからない。誰と話したのかも覚えてない。

 放課後、いつも通りに部活をこなしている。…つもりだった。

「相田さん…相田さん!」

「は、はい!」

 呼ばれることには気が付かない。曲の練習途中で演奏を止めてしまう…とか、集中していない様がひどかった。

 それでもなんとか部活をこなして…ついに訪れる。

「恵ちゃん」

「うん」

 それぞれの場所で誠二くんを待とう。

 ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…。

 やっぱり怖い…。 

 胸の鼓動が高鳴る。

 もう、その時はすぐ近くまで迫ってる。

 教室に行かなきゃ…。来て…くれるかな…。

 ゆっくり進む。目の前から強風が吹き荒れて、それに抗うように。

 足取りが重い。出来れば逃げ出したい。

 そんなバカなことを想いながらも教室にたどり着いた。

 ガララ…。

 もう誰もいなくなった教室のドアを開ける。 

 誰もいない教室は、もう春がやってくる季節なのにやたらと寒かった。

 ガタン…。

 自分の席に座る。

 ・・・・・・

「はぁー…」

 誰もいない空間。そこに私のため息だけが響き渡る。

 ドクン…ドクン…。

 胸の高鳴りは収まらない。期待と希望から来る胸の高鳴りじゃなくて、間違いなく不安からだった。

 いつまで待てばいいんだろう。

 時間が経つにつれて不安が大きくなっていく。

 やっぱり美香ちゃんのとこに…。

 何度もそう思う。

 もう部活が終わってから三十分が経ってる…。

 もう少しだけ待とう…。

 …………。

 まだ泣いちゃダメ。

 でも…諦めてしまいそう。

 あと少しだけ、希望は捨てないで…。

 タッタッタッタッ――

 足音が…近づいてくる。

 誠二くん…?

 あっ…。

 その足音の主は教室の前を通り過ぎて行った。

 ドクンッ…ドクンッ…!

「はぁーっ…心臓に悪いよぉ…」

 さっきの足音の主に恨めしそうに呟いた。

 ドクンッドクンッ!

 鼓動がさらに速くなった。

 苦しい…もう耐えきれないよ…!

 タッタッタッタッ――

 ま、また…!

 心を落ち着かせるようにと自分に言い聞かせる。

 足音が近づいて来る…!

 ガララ!

 ―――!

 あっ…!

 教室のドアを開けて入ってきたのは息を切らしていた誠二くんだった。

 私は駆け寄りたい気持ちを抑えて口を開いた。

「誠二くん…もう来ないと思ってた…」

 誠二くんは肩で息をして呼吸を整えてる。

「…美香に…会って来たんだ…」

 ドクンッ!

 その言葉に心臓が跳ね上がるのがわかった。

「…そっか…そうなんだ…」

 じゃあ、ここに来たのは私に謝るために…?

「謝るために…」

「…………」

 やっぱり…。

 やっぱりそうなんだ。私なんかじゃ…誠二くんの彼女になんてなれないんだ…。

 もう…泣いてもいいかな…。

 最後だけ…一度だけでいいから、抱き締めて欲しい…な。

「どうしても美香に謝りたかったから…。ここで相田さんに会う前に。今までのことや…今回のこと」

「……え?」

 私に謝りに来たんじゃないの?

 何?

 何を言ってるの?

「相田さん…オレは…君が好きだ。初めて会った時から惹かれてたのかもしれない。こんなオレでよかったら、隣に居てくれないかな?守らせてくれないかな?甘えて…くれないかな?」

 ………。

「…え?……え?」

 誠二くんが私のことを…好き?

 そう言ったの?そう言ってるの?

 もう一度…。

「もう一度言うよ。今なら自信持って言えるから。オレは相田さんが好きだ…好きなんだ」

 ―――!

 あぁ…!

「せ、誠二くん…!」

 私は涙をこらえることが出来なかった。

 何度、夢に見ただろう。

 決して叶うことがないと思ってたこの気持ち。

「相田さん…」

 誠二くんは私の流れる涙を優しく拭ってくれた。

 夢じゃ…夢じゃないんだ。

「誠二くん…!私…怖かったの!本当はすごく怖かったの!」

「うん…」

「今日までがすごく不安で、覚悟してたけど怖くて…。怖かったよぉ…」

「もう安心していいよ。オレは相田さんの隣にいるから。どこにも行かないから」

 誠二くん…!

「ふ…ふぇ…ふぇーーーーーーん!!」

 私は泣きながら誠二くんの胸に飛び込んだ。誠二くんは優しく包み込んでくれたんだ。

 ずっと欲しかった…。

 このぬくもり…。

 こんなに近くに誠二くんを感じてる。

「誠二くん、あったかい…」

「相田さんも。あったかいよ」

 まだ冷える教室では誠二くんの暖かさが心地よかった。

「オレは相田さんの笑顔が好きなんだ。その笑顔の近くに居たいと思った。守りたいって思った。…だから、いつまでも笑っていようね?」

 誠二くん…。

「うん!」

 私は出来るだけの笑顔を作って答えた。

「そうそう、その笑顔。かわいいよ、相田さん」

「えへへへ…。ねぇ誠二くん」

「ん?」

「私は誠二くんの彼女なんだよね?」

「そうだね、そうなるよね」

 じゃあ。

「じ、じゃあさ、私のこと”相田さん”じゃなくて名前で呼んで?」

 うふふ…。

「名前か…。恵って…呼べばいい?」

 恵か…。誠二くんは美香ちゃんのことも紗耶香ちゃんのことも呼び捨てだし…。

「”めぐ”って呼んで欲しいな」

 特別がいいから…。

「めぐ…」

 あはっ!なんか照れくさそう。かわいい!

「えへへ…よろしい!」

 私の初めての恋。

 苦しかった…。辛かった…。でも今はすごく幸せなんだ。なんだろう、この気持ち。

 とにかくすごく愛おしい。

 ギュッ…。

「あっ…誠二くん…」

 また抱き締めてくれた。

「みんなとうまくやっていけるかなぁ」

 誠二くんが不意に呟いた。

「後悔してない?」

 思わず聞いてしまったんだ。

「後悔なんてことは絶対ないよ。オレはめぐが好きだよ。ただ、みんなと今まで通りやっていけるかなって」

 私と同じこと考えてたんだ…。でも、一番気になるのは…。

「美香ちゃん…だね」

「それだけじゃないけど…」

「みんな、いい人たちだよ」

 私も不安はある。紗耶香ちゃんも応援してくれてたけど、今まで通りに接してくれるかわからないし。

 何よりも美香ちゃん。恨みっこなしだって言っても…。実際こうなってしまって、残された方はすごく辛いよね…。こんなに私は幸せを感じてる。これが真逆になっちゃったら…なんて、考えたくない。私は耐えられないかもしれない。

「めぐ、もう帰らないと遅くなるよ?帰ろうか」

 もう…そんな時間か。外は真っ暗。外灯からの光だけが私と誠二くんを照らしていた。

「うん…帰ろうか…」

 それから校門まで一緒に歩いた。あまり会話はなかった。一安心出来たけど、明日からのことを考えると少し不安で…。

 校門で誠二くんと別れてバス停に…。

「……こんな時間まで待っててくれたんだ…」

「めぐ…」

 紗耶香ちゃんはまだバス停にいた。そして心配そうに私を呼んだ。

 にこっ。

 私はそれを満面の笑顔で返した。すると紗耶香ちゃんが抱き締めてきた。

「めぐ…!よかったね…!ホントによかったね!」

「紗耶香ちゃん……。心配かけてゴメンね。誠二くんと付き合うことになったよ…」

「うん……おめでとう…」

「ありがとう、紗耶香ちゃん」

 ホントにありがとう。こんなに喜んでくれる友達がいるなんて、私は幸せ者だな…。

「あーあ、でも誠二にめぐ取られちゃったなー」

「取られたなんて…」

「いーや、きっとめぐのことだから誠二にべったりになるに決まってるよ!」

「そんなこと………そうかも…」

「寂しくなるなぁ」

「そんなこと言わないで?紗耶香ちゃんは私の一番のお友達だよ」

「ふふ…そうだね。彼氏にやきもち焼いても仕方ないかぁ」

 彼氏……ふふふ…。私は誠二くんの彼女なんだ。

「…うふふ…」

「おーい、戻っておいでー」

「えっ!あっ、ごめんなさい!」

「ほらねぇ」

「てへへ…」

「めぐ…。でも美香ちゃんとは?」

 そう、そこなんだよな…。

「わからない…。けど、きちんとケジメつけないとって思うよ」

「うん…そうだね…」

 美香ちゃんがいて紗耶香ちゃんがいて、先輩たちがいたから誠二くんとこうなれた。そんな気がするんだ。

「明日話してみる…」

「大丈夫?」

「…うん。誠二くんと二人で…。話さなきゃいけないことだと思う」

 ちゃんと話して、今までみたいに話せるように。

「なんか、大人になったんじゃない?めぐ」

「そんなことないよ…ホントに大人になっていくのはこれからだから」

「……めぐ、いつの間にか誠二の影響でエッチになったんじゃない?」

 エッチ?

「え?何言って………そそそっ、そんな意味で言ったんじゃないよ!?」

「クスッ、冗談だよ。でも今想像したでしょ?」

「もうー、紗耶香ちゃん!」

「あはは、ゴメンゴメン」

 もう…。でも、今までしなかったこんな話題も増えていくんだろうな。

 また、新しい出来事が増えるんだ。誠二くんとの思い出が増えていく。

 誠二くんが私の彼氏として。



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