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一ヶ月間、卒業式

 誠二くんに告白した翌日。

 朝、美香ちゃんと会った。美香ちゃんは一人で登校して来ていた。

「お、おはよう」

「おはよ。恵ちゃん」

 美香ちゃんが誠二くんに何て告白したかなんてわからないし、聞きたくはなかった。

「眠れた?」

「うん…」

 嘘…ホントは眠れなかった。家に帰って一人になるとすごく不安になった。フラレることじゃなくて、今まで通りの日常があるのか不安になったんだ。

「美香ちゃん、誠二は?」

 紗耶香ちゃんが聞く。私が聞きたいことは紗耶香ちゃんが聞いてくれる。

「なんか気まずくて…」

 …私が美香ちゃんの、みんなの日常を壊してしまったのかもしれない。

 私が顔をうつむかせると美香ちゃんは言った。

「気にしないでね、恵ちゃん。恵ちゃんも優しいから…」

 泣きそうになる。昨日の今日なのに。

「うん…」

 そう答えるしかなかった。

「じゃあ…」

 美香ちゃんと別れる。

「めぐ…。仕方ないよ」

「…うん…」

 こんなに告白するなんて重いものだったんだ。私だけじゃない。周りの人を巻き込んで…。

 教室に入る。

 ガタン…。

 自分の席に着いてしばらくぼーっとしていた。

 あっ…・。

 誠二くんが教室に入って来た。

 ドキドキ…。

「お、おはよう。誠二くん」

「あ…お、おはよう」

 会話はそれだけ。

 美香ちゃんもこんな感じで一緒に来れなかったのかな…。一ヶ月…長いな。

「はーい!席に着いてー!SHRよー!」

 同じように周りの時間は流れていく。他の誰も普段と変わらない。

 もうすでに今までが恋しくなってくる。

 もしフラレたらどうするの?その後普通に話せるの?

 …わからない。

 ずっと誠二くんとこのままだったら…。

 そう考えると怖い。怖いよ…。

 フラレることも覚悟してるのに。ううん、フラレることなんて大した問題じゃないのかもしれない。

 日常…。

 いじめられていた私にとって日常はすごく大事なものだ。こんな時、改めて気付くなんて…。

「相田さん…。相田恵さん!」

 ―――!

「は、はい!」

 本田先生に呼ばれていた。気が付かなかった。

「ぼーっとしない!今日、日直だから後で日誌取りに来てね」

「あっ…はい…」

 クスクス…。

 周りから微笑が漏れる。

 う~…恥ずかしい。

 誠二くんは笑ってなかった。やっぱりいつも通りなんていかないよね…。

 誠二くんのあの笑顔が、また私に向けられることなんてあるのかな?

 また笑って話せるのかな…。

 誠二くん…。

 それからの毎日も同じだった。誠二くんと話す時は用事がある時とか挨拶くらい。

 辛かった…。

 美香ちゃんも同じようで、ライバルなのにお互いを慰め合ったりしてた。誠二くんを好きなことは同じだもんね。

 紗耶香ちゃんも支えてくれた。話しもよく聞いてくれたし、紗耶香ちゃんの前なら涙も流せたんだ。 

 誠二くんもやっぱり悩んでるみたいだった。紗耶香ちゃんは相談を受けたらしいけど、答えることは出来なかったみたい。中立の立場じゃないしね。

「誠二が何を考えてるのかは分からないな。多分、自分で答えを出すはずだよ。悩んでた」

 紗耶香ちゃんが話してくれた。

 私…やっぱり誠二くんを傷つけちゃてるのかな。

「恵ちゃん、最近元気ないね。どうしたの?」

 大野先輩…。

「ちょっと…」

「何でもお姉さんに相談しなさい!恋をしてるのかな?」

 いきなり核心を…。

「はい…。好きな人に告白したんです。返事はまだなんですけどいつも通りに話せなくなって。悩ませて、傷つけてるんじゃないかって…」

「そうだねぇ。椿くんああ見えて繊細そうだしねー」

「ふぇっ…!?」

 な、なんで?

「バレバレだって。最近の三人見てたら」

 三人…なら美香ちゃんもか。

「恋愛なんてそんなもんだよ。いっぱい悩むの。だからこそ好きな人と一緒になった時の幸せがあるんじゃないかな?」

「そうですけど」

「告白したこと後悔してるの?」

 後悔か…。

「後悔はありません」

「ならいいんじゃない?これが恋愛なんだよ。いっぱい悩んで、傷ついて成長していくの」

 やけに悟ったように…。

「先輩もいろんな経験を?」

「え!?さ、さぁ?どうだろうね!ははっ…」

「先輩の話し聞きたいです」

「あっ!私、理恵に用事があったんだった!じゃあね!」

 逃げた…。

 恋愛なんてこんなもの…か。いっぱい悩んで…。そうかも。好きだから悩むんだよね。

「愛理…強い。いっぱい…傷ついた…。笑って…話してる…けど…」

 田代先輩…。

「人を好きになるなんて素晴らしいことですよ。その気持ちは大切にして下さい」

 河本先輩…。

「はい。ありがとうございます」

 気持ちを大切に…。うん、私は誠二くんが好きなんだ。

 ごめんなさい、誠二くん。たくさん悩ませてるかもしれないけど、私の気持ちなんです。

「そういえばそろそろ卒業式ですね。相田さんもいらっしゃいますか?」

 卒業式は三月一日に行われる。卒業式は三年生だけ。私たち在校生は基本的にお休みなんだ。でも、卒業生を送りに学校へ出て来る人が多いみたい。

「私も送りに来ます。先輩たちにはお世話になりましたから」

「そうですね。みなさんで送り出しましょう。この部だけの卒業式もありますけど」

 そうなんだ。

 卒業か…。

 私たちはまだまだ先だけど…いずれやってくるんだよね。誠二くんと離れ離れになるのかな…。イヤだな…。

「さ、練習再開しますよ。大野さんは後でお仕置きです」

 あ…。私が余計なこと聞いたから…。大野先輩ごめんなさい。


 ―――――


 そして三月一日。

 三年生の卒業式。

 告白してからちょうど半月経った。誠二くんとは相変わらず。美香ちゃんも一人で登校してる。

「恵ちゃん、大丈夫?」

「美香ちゃんこそ…」

「…………」

「…………」

 互いに互いを心配してる。同じ境遇にあるからこそ。誠二くんも来てるみたいだけど、私たちからは距離を置いてる。

 あっ…。

「日高先輩、濱田先輩。ご卒業おめでとうございます」

 校舎から出て来た先輩たちに声をかける。

「ありがとう。今まで楽しかったわ」

「私もだ。相田、君とは良い思いでが作れた。君の音色は忘れないだろう」

「先輩…寂しいです…」

「今度はあなたたちが後輩を引っ張って行くのよ。しっかりね」

「そうだぞ。そんないかにも悩んでそうな顔は止めるんだ」

「えっ…!」

 顔に出てたのかな…。こんな時まで…私…。

「何かあれば聞くわよ?」

「……いえ、大丈夫です。最後までありがとうございます」

「遠慮しなくてもいいぞ?私たちはまだ君の先輩なんだ」

 先輩…ありがとうございます。

「いえ…ホントに大丈夫です」

 もう待つしかないんだ…。今は悩んでるっていうより不安になってるだけ。日が経つにつれて不安は大きくなってる。

「恵ちゃん」

 えっ…、あっ…。

「村田先輩、ご卒業おめでとうございます」

「ありがとう。恵ちゃん…頑張ってね。恋は激しく燃え上がるものだよ!」

「ふぇ?」

「ふふん、元部長は何でもわかるんだなぁ、これが」

「元部長…怖いです」

「誠二くんの今の気持ちはねぇ…」

 ―――!

「き、気持ちは?」

 ど、どうなの?

「それはねぇ…」

 うんうん…。

「この私だよ!」

「…………」

「ふふん…!」

 自慢気に鼻を鳴らしてる。

「…ご卒業、おめでとうございます…」

「あっ!ちょっと恵ちゃーん!」

 はぁー…。

 実際、どうなんだろ。誰か好きな人とかいるのかな?

 …ううん、待つだけ。

 あち半月。

 長いなぁ。誠二くんが近くに居る分だけ余計に長く感じる。

 毎日顔合わせるもんな。

 誠二くんは何を考えてるんだろう。

 あれからあんまり笑ってる顔も見てないし。

 卒業生の先輩たちはそれで帰って行った。吹奏楽部での卒業式は十六日。ホワイトデーの二日後にあるんだ。

 もしかしたら、誠二くんは私か美香ちゃんと付き合ってるかもしれない。

「めぐ、帰ろうか」

「あっ、うん」

 今日は誠二くんと話してない。見てたら先輩たちともあんまり話してないみたいだった。

「紗耶香ちゃん、誠二くんの部活での様子はどんな感じなの?」

「相変わらず。悩んでるみたいだよ」

「…そっか」

 まだ答えは出てないか…。美香ちゃんはやっぱり誠二くんのことよく分かってるんだな。

「あと半月、待つしかないんじゃない?」

「うん…」

 どうなるかなんてわからない。

 美香ちゃんだって不安になってる。もし私が選ばれたら、私はどんな顔で美香ちゃんに会えばいいんだろう。

 逆でも、笑って会えるかな…?

 その時にならないとわからないか…。

 待ち遠しいけど、その日が来て欲しくない気持ちもある。

 でも、確実にその日は近づいてるんだ…。


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