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バレンタインデー

「美香ちゃん…ついに今日だね」

「うん…。私は帰り道に告白する」

「私は、部室で。校門で待っててくれる?」

「うん」

「恨みっこなしだね」

「うん。お互い頑張ろう」

「うん…」

 今日はバレンタインデー。

 昨日は学校から帰って手作りチョコを作った。

 眠れなかった。

 今も少し震えてる。緊張してる、私。告白なんてしたことないから。中学の時はみんなからいじめられててこんなことなんてもちろんなかったし。人を好きになるなんて…。

 初めはあんまり関わらないようにて思ってたのに。今は誠二くんがいないとダメになった。

 その想いを伝えるんだ。今日。

 こんな時ほど時間が過ぎるのが早く感じる。

 もう、放課後。

 昼休みなんかは女の子がチョコを渡す姿がちらほら目についた。独特の雰囲気の中で時間が流れていた。

 その様子を笑って見てる余裕なんてなかった。チョコを渡す姿を自分に置き換えると心臓が爆発しそうだった。私も勇気を出して渡すんだ。言うんだ。

「めぐ」

 ひゃっ…!

「さ、紗耶香ちゃん。びっくりしたぁ」

 後ろから声かけるんだもん。

「部活、行こう」

「う、うん」

 紗耶香ちゃんと二人で部室までの廊下を歩いて行く。

「もう誠二に何て言うか考えてるの?」

「…ううん。こういう時、何て伝えたらいいのかよく分からない。誠二くんを想う気持ちを素直に言うよ」

「それが一番だよ。言葉を飾る必要なんてないんだから、めぐはめぐらしくでいいんだよ」

「うん…」

「…めぐ…」

 紗耶香ちゃんは震える私の肩を、そっと後ろから押さえてくれた。

「…ありがとう」

「怖い?」

「…少しだけ」

「めぐを傷つけるような事言ったら誠二なんかぶっとばしてあげるから!」

「…ふふっ、心強いな」

 そして部室へ。

 あれ…?

 部室へと続く道の途中、柱に背中を預けて立っている美香ちゃんがいた。

「恵ちゃん、ちょっといい?」

「う、うん」

「私はパートのとこ行くよ」

「ゴメンね」

 紗耶香ちゃんは行っちゃった。急に心細くなる。

「美香ちゃん?」

「あの、恵ちゃん。誠二からの返事なんだけど、一ヶ月後に聞くようにしない?」

「え?どうして?」

「誠二は多分、すぐに答えは出せないと思うんだ。それに違う場所で告白するし」

 そ、そっか。

「でも、一ヶ月も?」

「自惚れじゃないんだけど、誠二にとって今までで一番悩む時だと思うんだ。優しいから、どっちかを選ぶなんて一番酷なことだと思う。どっちもダメかもしれないけど。それでも多分、傷つけることに躊躇するよ」

 やっぱり…美香ちゃんが一番誠二くんのことわかってる。

「私たちも辛い時間だけど、誠二にはそれでも短い時間かもしれないんだ…だから…」

「うん、わかったよ。ホワイトデー…だね」

「恵ちゃん…うん。ありがとう」

「お礼なんて…」

 どうしよう…美香ちゃんの誠二くんを想う気持ち、すごく伝わる。いつでもまずは誠二くんの事考えてるんだね。

「じゃあ…」

「うん…」

 私の想いは…。

 ううん、弱気になっちゃダメ!想いの強さなんて人それぞれ。私は私の想いを伝える!

 誠二くん…!

 …

 ……

 ………

 …………

「じゃあ恵ちゃん!またね!」

「はい!お疲れ様でした!」

 部活も終わりを迎えてた。誠二くんを呼ぶ。まずそこから。

 人が少なくなるまで紗耶香ちゃんが誠二くんを引きとめてくれてる。

「めぐ、そろそろいいよ」

 ドキッ…!

「私はバス停で待ってるね」

「あっ…さ、紗耶香ちゃん…」

「私はここまで。あとはめぐ次第だよ」

「う、うん…」

「じゃあ、頑張ってね!めぐ!」

 紗耶香ちゃんが行ってしまった後すごく不安になった。なかなか足が進まない。

 行くの!行かなきゃ…!

 動かなかった体に言い聞かせて誠二くんがいるパーカッションのところに向かった。

 誠二くん…いた…。

 まだ周りには少し人がいるけれど、もう帰ろうとしてる。

 勇気出して…!

 ドクンッ…ドクンッ…!

「せ、誠二くん!」

「あぁ、相田さん」

「ちょっと…いいかな?」

「うん」

「ここじゃちょっと…」

 私は誠二くんを連れてみんなが楽器をしまう部室に。もうここには誰も来ない。

 ドクンッ…ドクンッ…。


「せ、誠二くん。これ、バレンタインチョコ。手作りだよ」

「ホント!?ありがとう!相田さん!」

 …………

 言うの…。

「…本命だから…」

「…え?」

「誠二くん……私…私…!」

「あ、相田さん?」

 ドクンッ…ドクンッ…。

 私…!

「私…誠二くんが好き…!…大好き!」

「えっ、あ、相田さん!?」

「誠二くんは…私を助けてくれた…!私を叱ってくれた。誠二くんは私を…私を守るって言ってくれた!」

「…………」

「ずっと守ってて欲しい。ずっと支えていて欲しい。ずっと…誠二くんに甘えていたいの…」

「…うん……うん…」

「もう…誠二くんがいないとダメなんだ。誠二くんの声が、笑顔が私を救ってくれる。誠二くんがいるから、今私は笑っていられる。いつの間にか好きになってた。誠二くんが私の中にいた。誠二くんばかりを見てた。私は…誠二くんのそばに…一番近くにいたい…!」

「…………」

「だから…」

「…………」

「私を彼女にして下さい…。私を…誠二くんの隣にいさせて下さい…!」

「…………」

 ・・・・・・

「ご、ごめんなさい。いきなりこんなこと…」

「い…いや…」

「あの…返事は…一ヶ月後の今日、ホワイトデーに下さい」

「えっ……」

「じ、じゃあ私はこれで帰るね。どんな答えでも…私は受け入れるから。それと…もし、私を選んでくれたとしても…後悔…ないようにね」

「え?選ぶ?」

「じゃあね、誠二くん。美香ちゃんが待ってるよ!」

「え?あっ!ちょっ…」

 私は逃げるように誠二くんの前から走り去った。もう泣いてしまいそうだったから…。

 タッタッタッタッ…。

「…はぁっ…はぁっ…グスン……はぁっ…」

 走り続けた。そして校門までやってきた。

「恵ちゃん…」

「…はぁっ…はぁっ…グス……美香…ちゃん…」

「…………」

 美香ちゃんは何も言わずにゆっくり頷いた。

「…………」

 コクリ…。

 私も…同じように。

 そして美香ちゃんの前を走り去った。

 私は…自分の気持ちは伝えた。どれだけ伝わったのかなんて分からないけど…確かに伝えたんだ。

「誠二くん…!」

 思わず名前を口にしてしまう。

 私の初めての告白だったんだ…。

「めぐ…」

 紗耶香ちゃん…!

「………っ!」

 思わずバス停で待っててくれた紗耶香ちゃんの胸に飛び込んだ。

「めぐ…頑張ったね」

 紗耶香ちゃんはそれだけ言って頭を撫でてくれた。

 それから紗耶香ちゃんに返事は一ヶ月後にもらうことを話した。

「一ヶ月後か…。めぐ、辛くない?」

「覚悟は…してる…」

 うまくいくなんて思ってなかった。ただ、淡い期待だけはしてたんだ。少しだけ、隣にいる誠二くんを想像してた。



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