初詣
「明けましておめでとう。紗耶香ちゃん」
「めぐ、明けましておめでとう。さ、行こう」
「お邪魔します」
「明けましておめでとう。恵ちゃん」
「明けましておめでとうございます」
今日は元旦。
朝の五時前。
美香ちゃんたちとの初詣の約束をしてたから、紗耶香ちゃんのお父さんに送ってもらってる。まだバスは動いてないから。
「めぐー、誠二とのデートはどうだったのー?」
「うん…楽しかったよ。そして、私…決めたよ」
「何を?」
「誠二くんに告白する!」
「えぇ!?今日!?」
あのデートの後、すごく寂しかった。やっぱり誠二くんの隣にいたいと思った。
「ううん、まだ。美香ちゃんに話してから」
「美香ちゃんに…に?どうしてわざわざ」
「仲良くしてたいから。それにフェアにいきたいんだ」
「でも…」
「美香ちゃん、多分ずっと誠二くんのこと好きだったんだと思う。だから…。美香ちゃんと分かり合ってから」
「はぁー…バカ正直だねー、めぐも。早いもの勝ちなんじゃないの?」
「もしそれで誠二くんと付き合えても不安なの。ただ告白したから、とかじゃ」
「そういえば、誠二は告白とかそういう話しはしたくないって言ってた」
「えっ…どうして?」
「分からない。美香ちゃんは何か知ってるみたいだったけど…。確かに美香ちゃんは誠二のことずっと好きだったみたいだからね。でも何か告白出来ない理由があったのかもしれないね」
誠二くん…。美香ちゃんしか知らない何かが?
「そういう意味では美香ちゃんに話した方がいいかもね」
「私はそんなんじゃ…」
誠二くんを探るような真似はしたくない。
「分かってるよ。めぐはめぐの気持ちを大事にして」
「紗耶香ちゃん…。うん!」
「いやー、青春ー青春!
「お父さん、茶化すんなら殴るわよ?」
「恵ちゃん、頑張りなさい」
「え?は、はぁ…」
…美香ちゃん。
さっきの話しが気にならないって言えば嘘になる。けど…それが想いを伝えられない理由になるとは思えない。
何も分からないけど、私はそう思う。
キキッ。
「着いたよ。帰りはバスで帰ってくるんだろ?」
「うん、ありがとう。お父さん」
「ありがとうございました」
「恵ちゃん。ぜひ、後で話しをぐぎゃ!!」
「黙って!!」
「さ、紗耶香ちゃん!」
お父さんを殴るなんて!
「いたた…いや、いいんだよ。いつものことだから」
いつも…?
「余計なことは言わなくていい!行こう!めぐ!」
「う、うん。あの、ありがとうございました」
「ははは、頑張ってね」
紗耶香ちゃんのお父さんは帰って行った。
「ごめんね、めぐ」
「ううん、全然」
むしろ緊張がほぐれたかな。
そして神社の階段を上がって行く。
あっ。
「明けましておめでとう。相田さん。紗耶香」
誠二くん…。
「明けましておめでとう」
「二人とも、明けましておめでとう」
美香ちゃん…。今日話すんだ。
「明けましておめでとう」
「さて、参拝済ませよう」
もう境内は人が多かった。
チャリーン♪
お賽銭を入れてお願い事を。
願いはもちろん…。
・・・・・・
みんな、何をお願いしてるんだろう。
誠二くんは…?
みんな参拝が終わっておみくじを引こうってことに。
今年最初の運試し。
お願い…!
カランカラン…。
中身は…?
大吉!やったぁ!
「みんな、どうだった?」
紗耶香ちゃんがみんなに聞く。
「「「大吉!」」」
私と紗耶香ちゃんと美香ちゃんは大吉。誠二くんは?
「オレは中吉…」
「ぷっ、そんなもんよね」
「うるさいなぁ。勇介、お前は?」
堀川くん、居たんだ。
「聞くな…わかるだろ?」
「凶…か?」
「…………」
「ぷっ……くくっ……」
「笑いたきゃ笑え。誠二」
「ぶはっ…!はははははは!」
「てめぇー!誠二ー!」
「はっははは……」
「待ちやがれーー!」
誠二くんが逃げて堀川くんが追いかけて行っちゃった。
「もうー、新年早々あの二人は…」
…今は私と紗耶香ちゃんと美香ちゃんだけ。
ゴクッ……。
「み、美香ちゃん。ちょっといい?」
「ん?なーに?」
「あっ!めぐ、知り合いがいたからちょっと行ってくるね!」
「あっ…うん」
ありがとう。紗耶香ちゃん。
「あ、あの!美香ちゃん!」
「な、なーに?」
「美香ちゃんは……」
「ん?」
「美香ちゃんは誠二くんのこと…好きな…の?」
「……ふぇ?…ええぇぇぇ!!」
間違いないな。
「なっ、なんで私がっ、せっ、誠二なんか!」
美香ちゃん…。
「私は好き…」
「……え?」
「私は誠二くんが好き!大好き!」
「め、恵ちゃん?」
美香ちゃんは…。
「美香ちゃんは?好き…なんでしょ?」
「わ、私は……」
「…………」
「…うん…好き…だよ。ずっと好きだった。でも、どうして?」
…………。
「私、誠二くんに告白する」
「えっ…」
美香ちゃんは困惑の表情。突然こんなこと…びっくりするよね。
「美香ちゃんは?」
「え?」
「美香ちゃんはどうして想いを伝えないの?ずっと前から好きだったのならなおさら」
「…ダメだったから」
え?
「誠二を傷つけたくなかったから」
どうして?想いを伝えたら誠二くんが傷つくの?
「誠二は…前に付き合ってた子がいたんだ。優花って子が」
それが…なに?
「誠二はね、優しいの」
「そんなことわかってるよ。私を助けてくれた」
「…そして臆病なの。ううん、臆病だった」
えっ…。
「どういう…」
「前にその優花って子を誠二がひどく傷つけたんだ。たまたまその子が誠二に告白してなんとなく付き合ったんだって」
「…………」
「でもね、誠二はその子を好きになることはなかったんんだ。そして別れを告げてその子を傷つけたの。泣かせたの。中途半端なことをしてしまったから」
「だからって…」
「それから誠二は誰とも付き合ってない。告白されても。相手を傷つけたくないから」
………。
「誠二は前に言ってた。自分が好きにならないと無理だって。その時は自分から告白するって」
「…………」
「誠二は告白されるたびに言ってた。また傷つけたって。そんな誠二を見てたら、とてもじゃないけど自分の気持ちは言えなかった。それに、私はただの幼馴染。それが多分、誠二が見てる私」
「……それは違うと思う」
「え?」
「誠二くんは美香ちゃんをただの幼馴染なんて思ってないと思う。誠二くんは美香ちゃんと話す時は違うの。心を許してるというか…とにかく違うの」
「そ、それは幼馴染だから…」
「そうかもしれないけど、ただの幼馴染じゃない。うまく言えないけど、そう思うの」
「恵ちゃん…」
「私は美香ちゃんが羨ましい」
「え?」
「誠二くんの一番近くにいるから」
「そ、そんなことないよ」
「私は誠二くんの隣にいたい。一番近くにいたい。…私、やっぱり誠二くんに告白する」
「恵ちゃん。でも、誠二は…」
「私は自分の気持ちを大切にしたい!誠二くんを好きな気持ちは本物だから!私は…逃げない…!」
「恵ちゃん…」
「美香ちゃんは誠二くんとこのままでいいの?誠二くんを傷つけたくないなんて、優しさでも何でもないと思う。ただ逃げてるだけ…」
「そ、それは…」
「私は決めた。ううん、決めてた。私の気持ちは変わらない」
「……ふふっ…まいったなぁ。それなら…私も負けてらんないのかな」
「美香ちゃん…」
「恵ちゃんと誠二は…。ううん…。誠二は今、前に進もうとしてたんだ。優花ちゃんていう過去の幻影と、誠二はケリをつけたばかりなんだ」
「え?」
「だから今なのかもしれないな」
なに?
「私、負けないよ。恵ちゃん」
「あっ…。うん。私も負けない。私…バレンタインデーに告白する!」
「じゃあ、私もその時に」
えっ…。
「美香ちゃん…。ふふっ、ライバルだね」
「そうだね。強敵だなぁ」
「そ、そっちこそ!」
「恵ちゃん……ふふふ……あははっ…」
「……あはっ……へへ…」
ライバル宣言、しちゃったな。
・・・・・・
「ねぇ、美香ちゃん」
「ん?」
「私は、結果がどうなろうと…美香ちゃんと仲良くしてたいんだ。…わがままかなぁ?」
「…ううん。わがままなんかじゃない。私たちはライバルだけど、ずっと友達だよ!私からもお願いしたいな」
ずっと…友達…。
「…えへへ…」
「ふふっ、敵わないなぁ。恵ちゃんの笑顔には」
「たとえ誠二くんがどっちかを選んでも…」
「うん…私たちは友達だよ」
「美香ちゃん…」
「恵ちゃん…」
「「負けないよ!」」
・・・・・・
「…はぁっ…はぁっ…。あれ?紗耶香は?」
誠二くんが息を切らして戻って来た。
私と美香ちゃんはお互いに見合って少しだけ笑い合った。
「紗耶香ちゃんは知り合いを見かけたみたいで挨拶に行ってるよ」
「ふーん…」
「みんな!明けましておめでとう!」
「あけ~おめ~」
そこに理恵先輩とアリサ先輩がやってきた。
「明けましておめでとうございます」
「みんなもうお参りは済ませたの?」
「はい。みんな済ませましたよ。紗耶香もいます」
「そう。じゃあ私たちも済ませて来るからみんなで遊ぼうよ!」
「オレはいいですけど…」
どうせバスはまだ出てないし誠二くんがいるなら。
「私も。紗耶香ちゃんも大丈夫だよ」
「私もいいよ!」
「じゃあ決まりだね。待っててね!」
理恵先輩とアリサ先輩はお参りを済ませに行った。
「めぐ…」
あっ、紗耶香ちゃんが戻って来た。
「ありがとう。紗耶香ちゃん」
「ううん。美香ちゃん…」
紗耶香ちゃんが美香ちゃんを見ると、美香ちゃんは笑顔でそれを返した。紗耶香ちゃんも安心したように笑ってた。
「この後、理恵先輩とアリサ先輩を入れて遊ぶんだけどいいよね?」
「バスはまだだしね。どうするの?」
「お待たせー!さぁ、誠二くんの家に行こう!」
理恵先輩が戻って来て、誠二くんの家にって話し。
「えー!何でオレの家?」
「ん?近いから!行こう!」
「はーい…」
その後、誠二くんの家で遊んだんだ。思えばみんなで遊んだのなんて、これが最後だったのかもしれない。