クリスマス
もう、肌に当たる風が冷たくて痛みさえ感じてしまうほどの季節。
今日は雪。
そしてクリスマス。
ホワイトクリスマスだ。
朝、寒さで目が覚めた。
まだちらほらと雪が降り始めたがかりだったけど、このままいけば積もるんだろうな。
今日は学校の近くの養護施設のクリスマスパーティーで演奏をして、午後からは吹奏楽部のクリスマスパーティーがあるんだ。
誠二くんへのプレゼントはもちろん用意してある。手袋を編んだんだ。使ってくれるかな?その前にちゃんと渡せるかな、私…。
その時のことを考えると少し緊張してしまう。
ぶるる…。
う~…寒い!
温かいものでも飲もう。
吹奏楽部のクリスマスパーティーは村田先輩のレストランであるんだ。
今年は賑やかなクリスマスになりそうだな。いつも紗耶香ちゃんと二人だったもんな。
街中もクリスマス一色。カップルや家族連れで賑わいを見せる。いつもそんなみんなが羨ましかった。お父さんとお母さんからはいつもプレゼントが届いてたけど、私はただ一緒に過ごしたかったんだ。
いけない、しんみりしちゃう。
準備しないと。
いつものように鏡の前で髪を梳かしてリップクリームを塗る。パーティーの前には一度帰って来るからプレゼントは置いたまま。
さ、行かないと。
………。
とりあえず学校に集合してから養護施設へ。
演奏するのはクリスマスソング。施設の人たちには滅多にない機会だから楽しんでもらえたみたい。
滞りなく施設での演奏が終わってから今度は吹奏楽部のクリスマスパーティーのために解散。
一度帰ってから準備する。
ちょっとはオシャレしないとね。
普段あんまりスカートはかないんだけど…。この日は白を基調としたコーディネート。少しだけ丈の短いスカートと白いコート。
誠二くんってどんな服装が好みなんだろう。
ピンポーン♪
あっ、紗耶香ちゃんかな。もう来たんだ。
急いで支度そして玄関へ。
ガチャッ…。
「めぐー、行くよー」
「うん、ごめんね。待たせちゃって」
「うわっ、めぐかわいい!似合ってるよ!ん?それって誠二にプレゼント?」
私が手に持っている袋を見て聞いてきた。
「うん。今日渡そうと思って」
「めぐはいざという時ダメだからなぁ。ちゃんと渡せるの?」
「だ、大丈夫だよ!ちゃんと渡せる!」
「ふふ…わかったよ。そんなムキにならないで。行こう」
もうー、紗耶香ちゃんってば。
村田先輩のとこのレストランはバスを降りてバス停からすぐ近く。そんなに寒空の中を歩かないでも着く距離にあるんだ。
「二人ともいらっしゃい。今日は先生が大人の事情で来れないから私がまとめるよ」
村田先輩がそう言う。三年生は村田先輩だけなんだ。まぁ、自分のとこのレストランだしね。
誠二くんはまだ来てないのかな?来ててもいきなりプレゼントあげるのもなんだかね…。
そんなことを思っていたら誠二くんがやってきた。だけど一人じゃなくて美香ちゃんと堀川くんと一緒。一人にならないかな…。
「みんな集まったかなー?今日は楽しんでいってね!メリークリスマス!乾杯ー!」
村田先輩が挨拶をしてパーティーが始まった。
「メリークリスマス。恵ちゃん」
「メリー…クリスマス…」
「大野先輩、田代先輩。メリークリスマスです」
やっぱり二人ともオシャレしてる。クリスマスなんだしね。でも田代先輩黒い…。私と全く逆だ。
「んー?それは何かなー?」
大野先輩が私が持っている紙袋を見て言う。
「えっ、あ、あの…これは…」
「ふーん…誰にあげるのかなぁ?」
「いえっ…あの…」
「…愛理…やめる…」
「わかったよぉ。ふふ…頑張ってねぇ」
はぁー…目立っちゃうのかなぁ、これ。早く渡したいな。
「めぐめぐ~」
「恵ちゃん、メリークリスマス」
「アリサ先輩、理恵先輩。メリークリスマスです」
「誰に~プレゼント~?」
や、やだ、また…。
「誠二くんでしょー?私も誠二くんにプレゼントあるよー」
えっ!
「きっと誠二くん私にメロメロになるんだろうなぁ」
そ、そんなにいいもの?ちょっと気になる…。
「な、何をあげるんですか?」
「それは秘密だよー。私の魅力がいっぱい詰まったものだよ」
理恵先輩の魅力…。
む、胸にこだわってるからな、この人…。
「私は~これ~」
「え?」
そうやってアリサ先輩に一冊の本を渡された。
…な、何これ?
『女体大全集』
「ア、アリサ先輩、これ何ですか?」
「見た~まんま~」
「これは誠二くん喜びそうね」
え?え?
「つじくん~えっちぃ~だから~」
「さ、渡して来ようー」
誠二くん…。あんなの好きなんだ…。お、男の子だもんね!
や、やっぱり私もあんなのをあげた方が誠二くん喜ぶのかな?
……ダメ、ダメだよ、恵。うちの先輩は見習っちゃダメなの。でも…む、胸だったら…ねぇ…私も…。
「めぐ」
「ひゃあっ!」
「な、なに?」
「あっ、さ、紗耶香ちゃん」
変なこと考えてた、私…。
「いきなり声かけたらびっくりするよぉ」
「ごめんごめん。これおいしいよ。はい、めぐの」
なんて、いたらぬことを考えてたから驚いたなんていくら紗耶香ちゃんでも言えないな…。
「ありがとう」
紗耶香ちゃんから料理を受け取った。
「んー?まだ渡してないみたいだね」
「うん…。誠二くん一人じゃなかったし、今も理恵先輩たちが行っちゃったから」
「ふーん…誠二呼んで来てあげようか?」
「えっ、いや、いいよ」
「ホントに?」
うーん…。
「や、やっぱりお願いしようかな…」
「任せて!呼んで来てあげるけどちゃんと渡すんだよ?」
「う、うん」
そして紗耶香ちゃんが誠二くんを呼びに行ってくれた。
どうしよう、すぐ来るかな?
緊張しちゃう…。
「相田さん」
ビクッ…!
「あ、せ、誠二くん。メ、メリークリスマス」
「メリークリスマス。紗耶香から探してたって聞いたけど?」
あ、あう~…。
「相田さん?」
渡すんだ!
「あ、あの!…これ…クリスマスプレゼント…」
持っていた紙袋を差し出す。
「えっ!?ホントに!?ありがとう!」
喜んでくれるかな…?
「開けていい?」
「う、うん」
どうかな…?
ガサガサ…。
「手袋…」
「う、うん。誠二くん持ってないみたいだったから。頑張って編んだんだ」
「しかも手編みなんて…。やっとまともなプレゼントだ…!ありがとう!大事に使わせてもらうよ!」
よ、よかったぁ。喜んでくれて。やっとまともなプレゼントって言ったけど…やっぱり理恵先輩たちのは変なやつだったんだ。
「でも…」
え?
し、失敗しちゃってたかな?
「オレ、何も相田さんに用意してきてないよ」
なんだ…。そんなのいいのに。
「何か…」
考え込んでる。逆に困らせちゃったのかな?でも、喜んでくれてたし…。
……誠二くんが欲しいなんて、バカなこと言えないよね。
…そうだ。
「じゃあさ…」
「うん」
「今度一日付き合ってくれない?」
いい…かな?
「あ…あぁいいよ!そんなんでよければ」
「ホント!?絶対だよ!」
「う、うん!」
やったぁ!わーい!!
「ありがとう誠二くん!」
「こっちこそ。大事に使うからね」
「うん!」
そこまでで私は誠二くんの前から走り去った。もう嬉しくて嬉しくて…!でも誠二くんはどうしたんだ?って顔で見てたからすぐに逃げちゃった。
紗耶香ちゃんにお礼言わなきゃ!
紗耶香ちゃんは…。
居た!
「あっ、めぐ。どうだった?」
「渡せたよ!ありがとう!紗耶香ちゃん!」
「ふふ…よかったね」
「うん!デートの約束もしたし」
「デート!?」
「うん!楽しみだなぁ」
「めぐ…意外にやるね」
えへへ…たった一日だけど誠二くんを独り占め。
顔のにやけが止まらないよぉ。
「やっぱりね!」
む、村田先輩…!聞いてたの!?
「あ、あの~…」
「照れなくてもいいから。誠二かわいいからね。みんな誠二が好きだよ」
「私はそれほどでも…」
「紗耶香ちゃんだってー。ホントは好きなくせにぃ。ほら、好きな人はついイジメてしまうってあるじゃない?素直になれなくてさ」
紗耶香ちゃん…そしかしてそうなのかな。だとしたら私は紗耶香ちゃんにひどいことを…。
「めぐが勘違いするようなこと言わないで下さい!誠二はただのおもちゃですよ!」
お、おもちゃ…。
「おもちゃを取り上げられたら泣いちゃうでしょ?」
「村田先輩!!」
「あはは!!冗談だよ。恵ちゃん頑張ってねー!」
行っちゃった。からかいに来ただけなのかな。
「めぐ、勘違いしないでね?誠二のことなんか何とも思ってないからね?」
「誠二くんのこと好きなの?」
紗耶香ちゃん…。
「だーかーらー、違うよー!私はもっと大人な感じの人がいいから」
「そっか」
安心しちゃった。紗耶香ちゃんとは競いたくないから。
「はーい!今日はもうそろそろお開きにするよー!こっちもクリスマスは稼ぎ時だからね!みんな良いお年をー!」
村田先輩の挨拶?でクリスマスパーティーはお開きになった。
「村田先輩めー。しれっとしてるなー」
紗耶香ちゃんは恨めしそうに村田先輩を睨んでた。
「紗耶香ちゃん、恵ちゃん」
え?
「美香ちゃん、どうしたの?」
「初詣はいつもどうしてるの?私たちはいつもみんなで行ってるんだけど、二人も一緒に行かない?」
初詣か…。みんなって誠二くんもいるんだよね。
「行く。紗耶香ちゃんも行くよね?」
「えー、私は…」
「行くよね?」
「め、めぐ?うん、い、行こうかな」
「じゃあ決まりだね!また連絡するねー!」
「うん、ばいばい。美香ちゃん」
しばらく手を振って見送っていた。
「ねぇ、めぐ…」
「やっぱり、心細いから…」
「そういうことだね。ふぅ…わかったよ」
「ゴメンね?」
「どうせ寝正月になるんだし、いいよ!めぐも一緒なんだし」
「ありがとう」
「それよりもデート、しっかりね!」
そうだった!
「どどっ、どうしよう!紗耶香ちゃん!」
「今さらー?ホントめぐはかわいいなー。ふふ…」
「な、何したらいい?」
「そんなの知らないよー」
そんな話しをしながらその日は帰った。
メリークリスマス、誠二くん。
帰り道では、こっそりめぐ雪だるまと誠二雪だるまを作ったりしてたんだ。