文化祭
「そこはもっとゆったり。お願いしますね」
「…了解…」
「恵ちゃんはすごいね!もう完璧!」
「そんなことないですよ」
今は部活中。
文化祭で吹奏楽部の公演があるからその曲を練習してるんだ。
「少し休憩しましょうか」
三年生が抜けてから、パートリーダーは河本先輩が務めてる。一番しっかりしてそうだもんね。
「みなさん、クラスの準備は進んでいますか?」
河本先輩だけ違うクラスで大野先輩と田代先輩は同じクラス。今聞いてるのは文化祭でのクラスの出し物のこと。
「私たちのとこは順調だよ!ね、有紀」
「うん…順調…」
「何をなさるんですか?」
「巨大ぬり絵。文化祭二日間でみんな塗れるかなぁ」
ど、どれだけ大きいんだろう。
「しかも塗る時使うのは色鉛筆のみだからなぁ」
何人がかり?
「来てくれた人たちに塗ってもらうんだ」
色がバラバラになるんじゃ…?
「…みゆきは?…」
「わたくしたちは貼り絵です。みなさん頑張ってますよ」
私たち吹奏楽部は文化祭公演があるから放課後のクラス準備にはあんまり参加しないんだ。
「…相田さん…の…とこは?」
「私たちはお化け屋敷です。私はみんなが気を使ってくれて受付なんですけど」
「恵ちゃんじゃ可愛すぎてみんな驚かないからじゃない?」
「ふふふ、きっとそうですね」
む…。
「そんなことないですよ!私だって驚かせることくらい出来ます!」
「…やって…みて…」
へ?やってみてって…。
「い、いや…あの~…」
「いきなりやれって言われても無理ですよ」
そうっ!無理!
「…やっぱり…でき…ない…」
う~…。
「出来ます!」
「じゃあ…」
「はいはい!もういいよ。当日のお楽しみね。みゆき、練習再開しよう」
「そうですね」
―――――
「相田さんは受付だよ」
うー…やっぱり。
クラスの人に役割変えられるか尋ねたら私は受付だって。
「あっ、相田さん今から部活だよね?椿くんに伝えて欲しいことがあるんだけど…」
「うん、なに?」
「お化け屋敷の最後の最後で絶叫して驚かせてって伝えてくれる?決定事項だからって」
「わかったぁ」
伝えればいいんだよね。
そして部活へ。
誠二くんは…っと。
あっ、いた。
「誠二くん」
「あぁ、相田さん。どうしたの?」
「お化け屋敷でね、誠二くんは最後に絶叫して驚かせて欲しいんだって」
「絶叫?」
「私は受付。きっと私たちが忙しいから気を使ってくれたんだね」
誠二くんはわけわからないって顔してる。絶叫するだけだよ?頑張って叫んでね。でも一人で叫んで相手が驚かなかったら虚しいよね。
「相田さんはもう曲出来るようになった?」
「うん。大丈夫だよ」
文化祭でやる曲は、吹奏楽曲三曲と閉会式で生徒会の人たちが歌うJ-POP一曲の合計四曲。練習期間はそんなに長いわけじゃないから結構大変なんだ。
「さすがだね、相田さん」」
だって…。
「私にはフルートしかないから…」
…そうだよね。
「そんな…」
え?
「そんなこと言うなよ。オレだって紗耶香だってみんないるんだしさ。寂しいこと言わないでよ。何かあれば…その…守るしさ」
誠二くん…。いつまでも前のこと引きずってたらダメだよね。
「…ありがとう…。私のヒーロー誠二くん…」
「えっ?なに?」
「ううん、練習頑張ってね!」
そして文化祭当日。
「がああああああああ!!」
「きゃああ!」
ふふ…誠二くん順調そうだな。
「最後のは反則だよねー」
「うんうん、あれ誰でもびっくりするってー」
さっき入って行った人たちだ。感想話してる。
私も驚かせたいなぁ。
今日の私は着物を着て、髪で顔を隠すようにしてワックスで濡れ髪を演出してるんだ。
今日の私は怖いよ?
あっ、紗耶香ちゃん。
「きゃー!めぐ、かわいい!」
か、かわいい!?
「さ、紗耶香ちゃん、怖いでしょ?」
「えーっ、誰が?」
「私!私だよ!」
「めぐが怖いわけないじゃーん。誠二は?」
そんなぁ…。
「誠二くんは…最後…」
しゅん…。
「ありがと!一人入るね!」
怖さが足りないのかなぁ。
「がああああああああ!!」
「きゃああ!」
「げはぁ!」
???
紗耶香ちゃん…と、誠二くんの叫び声?
…え?
「あー!すっきりした!またね!めぐ」
「あっ、うん」
すっきり?お化け屋敷で?
「いたたた…」
あっ、誠二くん。
お腹押さえてる。どうしたの?
「紗耶香ちゃん来たでしょ?」
「あぁ来たよ。一発殴られた。明らかにオレを狙って来てたよ。暗いし被り物してるからオレだってわからないはずなのに」
誠二くんはフランケンシュタインの被り物を頭に被ってる。
「ねぇ誠二くん。私、怖いでしょ?」
「相田さんが怖い?はははっ!全然」
せっ、誠二くんまで…!
「むしろかわいいよ」
えっ…。や、やだ…。
「じゃあオレは戻るから受付よろしくね」
「う、うん!」
かわいいって言われちゃった。へへ…嬉しいな。
あっ、お客さんだ。
「いらっしゃいませー♪」
「ず、随分にこやかなお化け屋敷だね」
「…ま…まぶ…しい」
大野先輩に田代先輩。
「お二人ですね!どうぞ♪」
「お化け屋敷なのにそんなに明るく送り出されてもなぁ」
「…は…早く…暗闇に…」
「行ってらっしゃいませー♪」
誠二くんにかわいいって言われたんだ。そりゃあ嬉しいよぅ。
はっ…。いけないいけない。怖い私でいなきゃならないのに。
「がああああああああ!!」
「きゃああ!」
この叫び声は大野先輩…。やっぱり驚くのは大野先輩だけか。田代先輩は喜びそうだもん。
「あーびっくりした。あれ誰?」
二人が出て来た。
「誠二くんです」
「椿くんか、有紀をここまでさせるなんてたいしたものだな」
え?
「……ブツブツ……ブツブツ……」
「ひっ…!」
び、びっくりした!
普段見えない田代先輩の目が大きく見開かれて何かブツブツ言ってる。髪の毛逆立ってるし。
「この子、相当びっくりしてたから」
「そ、そうですか」
「…ブツブツ…の…呪って…やる…ブツブツ…」
「ひっ…!」
こ、怖い…。
そ、そうか!田代先輩を見習おう!
「じゃあまたねー!」
「はい!」
よーし!次は頑張るぞー!
「相田さん、休憩いいよ。代わるね」
あれ、今からって時だったのになぁ。
「じゃあお願いしておくね」
クラスの子に代わってもらって他のクラスを見に行ったんだ。
どこに行こうかな。
…とりあえず隣に。美香ちゃんのクラス。
確か…コスプレ喫茶だったっけ。
ガララ…。
「いらっしゃいま…あれ?誰かこんな格好の人いたかな?まぁいいや、手伝って!」
「えっ!ちょっ!私は…!」
こ、こんな格好してるからだ!
「そこでコーヒー作って!」
え?え?
「早く!」
「はっ、はい!」
なっ、なんで私が…?
「ちょっと!まだ!?」
そんな急かされてもどこにコーヒーなんて…。
「オレンジジュース一つお願い…あれ?誰?」
あっ、み、美香ちゃん…!
「美香ちゃん!」
「めっ、恵ちゃん!?何してるの!?」
「あのね…」
…………。
「そ、そうなんだ。ごめんね。とりあえずこっちの席に座りなよ」
「うん」
美香ちゃんに事情を説明して席に案内されたんだ。
それにしても…。
美香ちゃんはメイドの格好しててそれがすごく似合ってる。
私なんか…。
「…………」
「恵ちゃん、何にする?」
「か、かわいい…」
「え?」
美香ちゃんかわいい。羨ましいな。
ん?
な、なにあれ?あれってもしかして某有名ゲームの一番最初に出て来る青いプルプルしたモンスター?さすがに私でもわかる。
見た目はかわいいけど…動きが気持ち悪い。大きいし、ピョンピョン跳ねて…。
こ、こっちに来る…!?
「来ないで!」
ドカッ!
あっ…蹴っちゃった。
「………!」
転がってる。…喋れないの?
「ゆ、勇介!」
え?堀川くん!?
「ご、ごめんね!堀川くん!」
私は慌てて寄っていく。
「…!…!…!」
何か訴えてるように見えるけど…。
「ごめんね、堀川くん。わかんないや」
だってぷるぷる震えてるだけなんだもん。
「美香ちゃん、じゃあね」
「あっ、うん。ごめんね、働かせちゃって」
「何にもしてないよ。…ねぇ美香ちゃん」
「なに?」
「こ、今度私も着てみたいな…そ、それ」
「えっ!?」
だってメイドさん可愛いんだもん!
「恵ちゃんこういう趣味が…」
「ちっ、違うの!ただ美香ちゃんがかわいいから!だ、だから!じゃ、じゃあね!」
うー、恥ずかしい!
言わなきゃよかった。
早々に教室を飛び出して今度は紗耶香ちゃんの教室へ。
焼きそば作ってるんだよね。
ガララ…。
「あっ、めぐ。いらっしゃい!」
「紗耶香ちゃん。少しお腹空いちゃって」
「いいよ。すぐ用意するね」
楽しみだなぁ。
紗耶香ちゃん料理上手なんだよなぁ。
「はい!お待たせ!」
「うわぁ!おいしそう!」
「ふふ…めぐみたいには上手じゃないけどね」
「そんなことないよ。いただきます」
もぐもぐ…。
うん!おいしい!
「おいしいよ!」
「ふふ…ありがとう。めぐはいつも料理自分でしてるから少し緊張したんだ」
「人間だって料理だって人それぞれだよ。紗耶香ちゃんには紗耶香ちゃんの味があるよ」
紗耶香ちゃんはきょとんとしてる。
「ふふ…あっははは!まさかめぐがそんな事言うなんて!」
な、なんで!?
「……変ったね、めぐ。誠二のおかげかな」
誠二くん…。
そうだよ、紗耶香ちゃん。誠二くんが変えてくれた。
自然と顔がほころぶ。
「クスッ…。ほんっと、みんな誠二のどこがいいんだか」
え?みんな?
「さ、紗耶香ちゃ――」
「あっ、私行かなきゃ。ゴメンね」
みんな…って言ったよね。
美香ちゃんや理恵先輩?
ううん、一言で良いって言ってもいろんな意味があるから…。
でも…。
あーん!考えるのやめた!
もう戻らないといけないし。
受付しっかりしないとな。
あれっ、誠二くん。
「あっ、相田さん。休憩終わり?」
「うん、誠二くんは今から?」
「そうだよ。ちょっと美香と紗耶香のとこ行ってみようと思って」
私と一緒だ。美香ちゃんかわいかったからなぁ。
「せ、誠二くん!私にメイド服、に、似合うと思う?」
「へ?あ、あぁ。相田さんならばっちりじゃない?」
い、いや違う。こういう事言いたいんじゃなくて…。
「相田さんならどんな格好でもかわいいよ」
カァァ…!
「も、もう、誠二くんったら…。あ…ありがと」
「そんなに照れたらこっちまで恥ずかしくなるな…」
カァァ…!ま、また…。
「い、行ってらっしゃい!」
「ん、うん」
私、何やってんだろ。
ま…かわいいって言ってくれたから、よし!
…あれ?
「お化け屋敷は?」
閉められてる…。
「あぁ、誠二くんの代わりを出来る人いなくって。なんか最後だけって感じだからさ」
そうなんだ。…じゃあ。
「わ、私がやる!」
「えー、相田さんがやってもさぁ」
私だって驚かせることくらい出来るもん!
「ぜっっったい出来る!」
「う…じゃ、じゃあ任せるよ」
「任せて!」
やってやるんだから!
って、いざ持ち場に就いたら緊張してきた。
叫ぶだけ、叫ぶだけ…。
驚いてくれなかったら?
そ、それは恥ずかしい。それだけは避けないと。寂しすぎるよね。
コツ…コツ…。
だっ、誰か来た!
よ、よし!やってやるんだ!叫ぶだけ…叫ぶだけ…!
来た…!
わっ…!
「わあああああああああ!!」
「あら、かわいいお化けですね」
か…河本先輩…。
「相田さんですよね。こんにちは」
そ、そんな笑顔で挨拶されても…。私…。
「うわーーーーーーん!」
「あっ、相田さん…!んもぅ、びっくりしましたわ」
…………
「ね、無理だったでしょ?」
クラスメートに慰めされてる。
さ、さっきのは河本先輩だったから!
「つ、次は大丈夫!」
「まだやるの?」
絶対驚かせてみせるもん!
そしてまた持ち場に…。
今度こそ…!
ん…誰か来た。…二人?
よぅし…。
「わああああああああ!!」
「あら、相田さん」
「相田、君が脅かし役じゃ無理があるだろ」
日高先輩…、濱田先輩…。
「あ…あは…はは…う…うわーーーん!」
「お、おい、相田!?」
「相田さん!?」
もうイヤ!もうダメだぁ!
「ちょっと翔子。言い過ぎたんじゃないの?」
「い、いや、私は事実をだな…」
事実…。どうせ…どうせ出来ないもん!
「あ、相田さん泣かないで。頑張ってたのはわかるから」
「そ、そうだぞ。君は立派だ!」
慰められてる…。
「君は君の出来ることをやればいいじゃないか」
「だって…誠二くんいないから…」
「椿くん?さっき受付にいたわよ?」
えっ…?
うそっ!?
「ご、ごめんなさい!」
「あっ、こらっ!」
先輩たちをほっといて教室を出た。
「せ…誠二くん。な、何してるの?」
ホントに受付してる…。
「あぁ、相田さん、オレの代わりに中に入ったって聞いたからオレはここに…って…えっ?」
「う……うわーーーーん!」
「なっ!なになになに!?どうしたの!?」
「誠二くんのばかぁー!うわーーーーん!!」
…………
そんなこんなで文化祭の一日目が終わったんだ。
文化祭は二日間あって吹奏楽部の公演は二日目の午後から。午前中は一日目と同じように行われる。
文化祭二日目。
「がああああああああ!!」
「うわぁ!」
「きゃあ!」
誠二くんすごいな。今日も順調みたい。
昨日、私なんか…。
いやっ!思い出したくない!恥ずかしくて死にそう!誠二くんに泣きついちゃったし。
あっ、理恵先輩とアリサ先輩。
「恵ちゃんこんにちは。誠二くんは?」
「めぐめぐ~濡れ女~」
ぬ、濡れ女…。ま、間違いじゃないけど。
「誠二くんは最後にいますよ」
「わかったー。ありがとー」
「さんきゅ~」
どうなるかな?
あれ?
「部長」
「もう!部長じゃないったら!理恵ちゃんが部長でしょ」
いまだに言い間違えるんだよなぁ。
「誠二は?」
「最後にいますよ」
何度目だろう。この質問。みんな誠二くん。ライバル多いな。い、いや、みんな恋愛対象として見てるわけじゃないだろうし…。
「誠二くん愛でちゃおっ!」
―――!
「だっ、ダメですよ!そんなこと!」
「びっ、びっくりしたなぁ!でも、その熱の入れよう…。はっはーん、恵ちゃん、誠二のこと好きなんだ?」
「え?そっ、そういう問題じゃなくてですね!えっとー…あのー…」
「隠さなくてもいいってー。誠二かわいいもんねぇ。でも、そうとわかっちゃったら余計可愛がりたくなっちゃうなぁ」
村田先輩が意地悪そうににやりとしながら言う。
「す、好きにしたらいいじゃないですか」
「いいのぉ?じゃあキスしちゃおっと」
キッ…!?
「そ、それはやっぱり恋人同士じゃないといけないんじゃ、な、ないのかなぁ?」
「あらぁ、そんなことないよ。大人のキスでとろけさせちゃおうかしら」
おっ、大人のキッ…キス…!?
誠二くんと…キス…!
カァァ…!
「そっ、そういうのはですね、や、やはり双方の合意の元に、きっちり男女の恋愛感情が成り立っていることが、ぜ、前提としてですね、精神理論上…」
「め、恵ちゃん?ひ、一人入るよ!」
「……ですから人間道徳的にもやはり誠二くんとキスというのは…ってあれ?村田先輩?」
ど、どこ?
「があああああああああ!!」
も、もう中に!?
誠二くん…!
大丈夫かな…。
何かへんなことされてないかな?
「理恵ちゃん、さっきはよくも言ってくれたわねー」
で、出て来た…!
「だって私の方が大人な胸ですよ」
な、何の話し!?
「つじくんめ~」
あ、アリサ先輩怒ってる?
「な、何があったんですか?」
「あぁ、誠二くんが自らアリサの胸に飛び込んだんだよ」
誠二くんが自ら!?
「そ。私と理恵ちゃんとどっちの胸に来る?って聞いたら」
む、胸?
「そしたらアリサの方に行ってね。アリサはそういうの嫌いだから誠二くん殴っちゃった」
え?アリサ先輩が殴った?おっとりアリサ先輩が?
「あーん、私だったら可愛がってあげたのにぃ」
「誠二くんは私の胸が好きなんですよ!」
む、胸だったら私も!
「まっ、負けませんよ!」
ぐいっ!
ど、どうだ!
胸を突き出してみた。
「「「…………」」」
あっ…。
「恵ちゃんは顔と体がアンバランスなんだよねぇ」
「そうそう、顔は幼いのに体だけは大人で」
「めぐめぐ~おっきぃ~。めぐめぐの勝ちぃ~」
……ダメだ。私がダメになる…。
そうだ!誠二くん!誠二くんは大丈夫なのかな?
「誠二くん!」
「あ、相田さん…」
誠二くんの状態を確かめてみる。
うわぁ、痛そう…。
「あ、アリサ先輩を怒らせない方がいいよ…」
「う、うん」
震えてる。そ、そんなに怖いんだ。
「じゃあみんな、公演楽しみにしてるからね」
村田先輩がそう言って帰って行った。
そうそう、午後からは公演が控えてるんだった。三年生に聞いてもらう初めての機会なんだからしっかりしないと!
「相田さん、お化け屋敷の中身教えたらダメだよ」
「えっ、誠二くんは?って聞かれたから…」
中身じゃないよね、誠二くんの居場所だよね?
「オレの居場所言ったら中身言うのも同じだからね。今度から聞かれても黙っててね?」
「うん。わかった!」
よーし、もう言わない。
でも、その後は誠二くんのこと聞いてくる人なんていなかったんだ。
そして午後。
昼休みにみんな片付けするんだけど、私たちは公演の準備にとりかかってる。
みんな、ごめんなさい。
「恵ちゃーん!楽譜持ってくれる?」
「はーい!」
うんしょっ…。
う…持てないかも…。楽器も譜面台も持たないといけないから。
「貸して」
誠二くん。
「ありがとう」
いちいち優しいな。
少し誠二くんとおしゃべりしながら体育館へ向かった。
「今日は先輩も保護者の人も見てるからしっかりやろうね!」
理恵先輩が声をかけてる。
日高先輩と濱田先輩もいるんだから、ちゃんと見ててもらおう。
そして吹奏楽部の公演が始まった。
何事もなく過ぎていったけど、変化が起きたのは三曲目。
「シャーーーーーン!!!」
ビクッ…!
せ、誠二くん?
シンバル担当の誠二くんがすごく大きな音を鳴らした。
この曲はあんなに大きい音は必要なかったはず…。私でさえびっくりしたんだから。
どうしたの?
紗耶香ちゃんも理恵先輩も怒ってる。やっぱり誠二くんの独断なんだ。
そして私たちの公演が終わって生徒会の人が閉会式の準備をしてる。最後に生徒会の人たちが歌うから私たちは伴奏でそのまま待機。
理恵先輩が誠二くんと何か話してる。後で紗耶香ちゃんに聞いてみよう。
それから閉会式が行われて文化祭は幕を閉じたんだ。
私たちはそのまま楽器を片付けに。
「紗耶香ちゃん、さっきの誠二くん…」
「あぁあれでしょ。なんか私たちの演奏で寝てる人がいたのが気にいらなかったみたいだよ。仕方ないのにね」
興味がない人には子守唄だもんね。
「でも…」
え?
「寝てる人がいて怒るだけ吹奏楽が好きなんだよ。周りを見る余裕も出来てるみたいだし」
そっか…。誠二くん…。
「でもあとできっちりバツを与えないとね!」
これも仕方ないね。誠二くん。
私たちは楽器を片付けて教室へ戻る。
「みんな!二日間お疲れ様!この後生徒会による後夜祭が予定されてるけど、参加は自由だから、行く人は行く!帰る人は帰る!はいっ!解散!」
本田先生の適当な言葉で今日の終わりを迎えた。
後夜祭…か。
誠二くん行くのかな?聞いてみよう。
「あ、あの…誠二く―――」
「めぐー!後夜祭行こうー!」
あぅ…。
「さ、紗耶香ちゃん。でも…」
「はーやーくー!行こうー!」
「う、うん」
誠二くん…。
行くのかな?帰っちゃうのかな?
半ば強引に紗耶香ちゃんに連れられて後夜祭会場のグラウンドにやってきた。
「うわー、カップルばっか!」
ホントだ…。誠二くんと二人で来たらカップルだって思われたのかな。
「ねーねー、生徒会が何かやるみたいだよ!」
「…うん…」
「めぐ、どうしたの?元気ないね」
「…………」
「ねぇめぐ。めぐは誠二のこと好きなの?」
…っ!
「…………!」
「あははっ!かわいい!顔真っ赤にしちゃって」
う~…でも、紗耶香ちゃんなら。
「うん。…そうなんだ。私、誠二くんのこと好きなんだ」
「うん」
「誠二くんは私の中学のときのこと聞いても普通に接してくれた。ううん、それどころか助けてもらった。今私が笑ってられるのも誠二くんのおかげだと思うし…」
「うん…」
「それに守るって言ってくれた。誠二くんの声聞いてたら安心するんだ。あぁ、大丈夫なんだなって。か、かっこいいし…!」
「めぐ…最後のは納得出来ないきど私はめぐを応援するよ!美香ちゃんには悪いけど」
「えっ!」
美香ちゃん…やっぱり…。
「多分…、ううん、絶対美香ちゃんも誠二のことが好きだよ」
「…そっか…」
「ライバルだね!美香ちゃんと」
私は…。
「美香ちゃんが誠二くんを好きなら私は…」
「めぐ…、たとえ美香ちゃんも傷つけたとしても自分の気持ちは大切にしないと」
「でも…美香ちゃんとは仲良くしていたいし…」
「誠二はめぐか美香ちゃん、どっちか一人しか選ばないよ。どっちでもないかも知れないし。傷つくか傷つけるかどっちかしかないよ」
「それなら私は…」
「自分の気持ちは大事にしなきゃ。一生後悔するよ?」
紗耶香ちゃん…。
「うん。そうだね。ダメだったとしても自分の気持ちだけはちゃんと伝えないとね!」
「そう!その意気だよ!」
ふふ…ありがとう、紗耶香ちゃん。ちょっと勇気出たよ。
「めぐ、今からフォークダンスだって。なんか場違いだね。帰っちゃう?」
「うん、帰ろう」
来年は…誠二くんとフォークダンス踊りたいな。
紗耶香ちゃんから勇気をもらった。この先、美香ちゃんを傷つけるかもしれない。美香ちゃんと仲良くしていたい。でも、想いを伝えるんだ。
いつか…。
ライバルだね…美香ちゃん。
でも、友達だよ。
みんなとも、ずっと仲良くしていきたい。
椿誠二くん。
私はあなたが好きです…。