柳ヶ浦高校へ
こちらの作品のストーリーはほぼ『あなたのそばでずっと』と変わりません。でも私自身、こちらの方がおもしろいと思いますので、ぜひ目を通して下さい。
前作の『あなたのそばでずっと』をおもしろいと感じた方は楽しめると思います。
ただ、完全な自己満足の話しかもしれませんが…。
「痛っっ…なに!?」
何これ…。誰が…。
ううん、人を疑うのは良くないよね。たまたま入ってただけかもしれないし。
でも…。
気にしない!うんっ!それが一番!
画鋲が上履きの中に転がり込むこともあるはず…だよね!
―――――
「あれ…?」
ない…靴がない…。
「なんで?どうして!?」
「探し物?恵ちゃん」
「陽子ちゃん!靴が…!なくなっちゃって…」
ありえないよ…下駄箱から靴がなくなるなんて…。
「あら、これかしら?」
「えっ…!どうして…!」
私の靴が…切り刻まれてる…。
「拾ったのよ?そこで。何か恨みでもかってんじゃないの?」
拾ったなんて…そんなの…。
陽子ちゃん…。私が陽子ちゃんの代わりにコンクールに出たから…?
「ありがとう…」
「いいのよ。でもそんなボロ靴履いて帰るの?いっそ裸足の方がいいんじゃない?あっははは!」
どうして…こういう事するの…?
ヒソヒソ…。
みんな見てる…。
私の足元。
恥ずかしい…。
――――
「あっ……」
私の…楽譜…。
何で?
こんなにらくがきされてたら読めないよ…。
「恵!あんた楽譜は?」
「楽譜は…失くしちゃった…かも…」
「はぁ!?信じられない!もう帰れば!?」
「そうだよ!そんなやついらない!」
ひどい…。
私は…一生懸命演奏したいだけなのに…。
「帰れ!」
「迷惑よ!あんたみたいなのが居るのは!」
私…。
「……ひっ……ひっく………」
みんな…ひどいよ…。
イヤだ…。
みんな嫌い…。
「相田…さん?泣いてるの?
―――!
また何か言われるんだ!
イヤッ!
誰も話しかけないで!
「あっ…待って!あー、行っちゃった」
「見た?恵の顔。いい気味よね」
「ちょっとフルートうまいからって調子に乗ってさ!」
「ちょっとあんたたち!」
「誰?あー…パーカツの春日さん」
「相田さんに何かしたの?」
「別に何もー。ねー?」
「やる気がない人には帰ってもらっただけだよ」
「やる気がない?相田さんがそんなわけないじゃない!」
「うるさいわねー。ほっときなよ。あんなやつ」
「くっ…」
…………
(帰れば?)
(そんなやついらない!)
「……うっ……うっ……」
「相田さん!」
ビクッ!
イヤッ!誰?イヤだ…。
タッタッタッタッ…。
「あっ!待って!一緒に帰ろう!」
え…?
誰?ううん、誰でも同じ。
イヤ!
「はぁっ…はぁっ…待って…一緒に帰ろう!」
春日…さん?
確か…パーカツの。
「私…家あっちだから」
「えっ…あ…そっか。明日も部活来るよね?」
「…………」
正直、行きたくない。
みんなと演奏したいけど、私は邪魔者なんだ。
「待ってるから!部活おいでね!」
勝手に待ってればいい…。
行ったってまた何か言われる。楽譜だってないし。
「私、相田さんのフルート好きなんだ!また聞きたいから!部活来てね!」
…………
でも…。
―――――
「何?また来たの?」
「邪魔だよ。あんたが居たらめんな迷惑」
ほら…やっぱり…。
私の居場所はここにはないんだ…。
帰ろう。
「あんたたち!何でそういう事言うの!?仲間でしょ!?」
春日さん…。
「何?パーカツのあなたが口出さないでよ」
「そうだよ!」
「パートなんか関係ない!みんなが一つにならないと良い演奏なんか出来ない!」
「この人がいなかったら一つよ。私たちとは違うの、一流はね」
「ただのひがみじゃない!」
帰ろう…。
私が居るからいけないんだ。
「あっ…相田さん!帰らないで!」
「もういいよ」
もういい、知らない。
「あんたたち…許さないから…!」
「あー怖い。あんたも帰れば?」
私なんかにかまってたら、春日さんも同じことされちゃうよ?
「ありがとう…春日さん。もういいから。バイバイ」
「あっ…」
もう辞めよう。
いじめられるのイヤだ。
「待って…!」
「もうかまわないで。一人で大丈夫だから」
「相田さん…」
春日さんはきっと見方なんだ。でもこれ以上はダメだよ。部活頑張って。
「それじゃ」
…………
何でこんなことになったのかな。
ただ、気持ちよく演奏してただけだったのに。聞いて欲しかっただけなのに。
誰とも話したくない。
でも、それから春日さんは事あるごとに助けてくれた。
かまわないでって言ったのに。
だけど、春日さんになら心許せたんだ。
だんだんいろいろ話すようになって、気が付けばいつでも一緒だった。お互い名前で呼び合うようにもなった。
「ねぇめぐ。みんなこっちの高校行くみたいだけどさ、私たち、隣の柳ヶ浦高校に行かない?吹奏楽部もあるみたいだし」
「私は、誰も知ってる人がいないところがいいからそうしたいな」
紗耶香ちゃんが一緒に柳ヶ浦高校に行こうって言ってくれた。紗耶香ちゃんがいつでも助けてくれたんだ。紗耶香ちゃんだけが友達だよ。
――――
そして春。
私たちの中学からは二人だけ、柳ヶ浦高校に入学した。
紗耶香ちゃんのおかげ。
でも、あんまり人とは関わりたくないな。
クラスも紗耶香ちゃんと離れちゃった。
不安だな。
またいじめられないかな。
誰とも仲良くならなければいい。
紗耶香ちゃんに迷惑はかけたくないし。
「めぐー!吹奏楽部見学しに行こうー!」
「紗耶香ちゃん…。うん!」
フルートも、普通に。淡々と。
…………
「相田恵です。フルートの経験ありますのでフルート希望です」
「そう、わかったわ!相田さん、ご両親が有名な方よね。でもそんな事は関係ないから、厳しくいくわよん」
本田先生。クラスの担任で吹奏楽部の顧問。
明るい先生。ちょっと苦手かな。
でも両親のことは関係ないって。私はそれがいい。特別扱いなんていらない。
「どれくらい出来る?」
「ある程度は…」
「ちょっっと適当にやってみて」
「…はい…」
言われるままにフルートを演奏してみた。
…………
「すごいじゃない!即戦力ね!」
「あっ…わ…私は…まだ…」
「期待してるわよ!」
あっ……。
行っちゃった。
あんまり目立ちたくないのに…。
「あなた、フルート経験者なの?」
誰?先輩かな…。
「はい、一応経験者です」
「そっ。私は大野愛理!同じフルートの二年よ。ヨロシクね」
「あ…はい。大野先輩。よろしくお願いします」
「見学期間でも毎日来ていいからね」
いい人…かな。
うまくやれるかな…?
「大野さん、その子は?」
「あっ、先輩!この子…えーと…」
「相田恵です」
「相田さんね。私はフルートのパートリーダーの日高希よ。よろしくね」
「あ…はい」
「ふふふ…緊張してるのかしら?わからないことがあったら何でも聞いてね」
「…はい…」
キレイな人だな。髪も長い綺麗なストレート。優しそうでお母さんみたい。
大野先輩は切れ長の目で…なんか猫みたい。なんとなく攻撃的な感じ。
「めーぐー!」
あっ、紗耶香ちゃん。
「めぐ、どうする?まだ残ってる?」
「帰ろうか。明日からも来よう」
「うん!じゃあ帰ろう!」
…………
紗耶香ちゃんはどうだったのかな?
「紗耶香ちゃん、パーカッション見学したんだよね?」
「うん!理恵先輩とアリサ先輩がパーカツだって!いい人そうだったよ!」
そっか。よかったな。
「私も…先輩たちはいい人そうだった。でも、まだわからないよね」
「めぐ…。私がついてるから大丈夫!」
「紗耶香ちゃん…。うん!」
紗耶香ちゃんと一緒なら大丈夫だよね。
私は相田恵。
柳ヶ浦高校一年生。