次の街へ
豊穣祭が終わって、ちょっと名残惜しいけれど、森のキャンプへと戻ってきた。
にぎやかだった街の広場と違って、静かな夜の川辺では、焚き火のぱちぱちという音だけが響いている。
──今日一日、よく頑張ったなあ。
クックル様の銅像を見上げる人たちの笑顔を思い出す。
美味しそうにカレーや焼き芋を頬ばる子どもたち。
みんな本当にうれしそうだった。
全部、忘れたくないな。
私の生まれ育った村にもいくつかのお祭りはあるけれど……心から楽しめたのは今日が初めてかも。
それって、きっとお兄ちゃんがいたからだ。
本当の家族がいるって、いいな。
「……それにしても、あの銅像、ほんとに光ってたよねえ?」
「うん。祈りのパワーが届いた証拠だよ。あの瞬間、クックルは天界人として本当の力を取り戻したんだ」
「そのとーりっ‼」
ガサっと背後の茂みが揺れて、例のごとく突然クックル様が現れた。
「わっ⁉ 脅かすなよ!」
「あれ……また太ってる」
「うん、完全にあの銅像と同じ体型になってるね……」
ぷくぷくとしたほっぺに、どっしりとしたお腹。
着ている服もお腹のあたりがパンパンになっていて、前世の大黒天様みたいだ。
やっぱり神様って太ってるほうが、縁起がよさそうだよねえ。
「ふっふっふ……どうじゃ? 見違えたじゃろう?」
「それ、絶対カレーの食べ過ぎですよね」
「違うわい。祈りじゃ! 供物じゃ! 信仰の力じゃよ‼」
そう言ってクックル様は、すっと手のひらを前に差し出した。
手のひらの上で大きく輝いたのは、黄金色の宝石のような丸い光。
──天晶だ!
フォルネの持つ緑の天晶とは違って、まるで太陽を閉じ込めたみたいにキラキラと輝いている。
内側には、波紋のように美しい模様が広がっていて、すっかり力を取り戻したことがわかる。
「これは……」
「ふむ、約束じゃからな。ワシの天晶、受け取るがよい」
そう言って、クックル様は両手で大事そうにその宝珠を差し出してきた。
「ありがとう、クックル」
フォルネがそっとそれを受け取り、ふたつの天晶を両手に浮かべた。
空気が、ほのかにあたたかくなったみたい。
「クックル、よかったね……。天晶がこんなにきれいになって」
「ああ。ワシは、もう迷わん。この街に残って、再び人々に食の恵みを与えていくつもりじゃ。もう二度と、忘れられぬようにな……」
静かだけど、力強い宣言だった。
食の神、完全復活だね!
クックル様、本当にがんばってたもんね。
これでこの街での用事は終わりだと思うと、少し寂しい。
少しの沈黙の後、フォルネが真剣な顔で口を開いた。
「ねえ、クックル。聞きたいことがあるんだけど」
「ふむ? なんじゃ?」
「ボクたちは、地上に降りた天界人を探して旅してるんだ。もうひとつ、どうしても天晶が必要で……」
「ふむふむ、なるほど。して、誰を探しておる?」
「エルシア。美の女神って呼ばれてる天界人だよ。地上にいるって噂を聞いたことがあるんだけど……居場所、知らないかな?」
その名前に、クックル様がちょっとだけ目を細めた。
それから、ヒソヒソ話でもするように、顔を近づけてきた。
「ほう。エルシアか。あやつがいるとしたら……ほれ、なんという街じゃったかな。えーと……昔は美の都と呼ばれていた……王国の西、湖の近くにある……」
「あ、湖の近くなら、もしかして、ヴェルセア? 俺、魔王討伐のアイテム集めで行ったことあるような」
「そうじゃ! そんな名前の街じゃ!」
「そうなんだ! ありがとう、クックル。助かったよ!」
「気をつけるのじゃぞ? エルシアは、天界人の中でもとびきり気まぐれ。うまく機嫌をとるんじゃぞ?」
そう言うとクックル様は、くるりと背を向けて、ひらひらと手を振った。
街へ戻るのかな。
──次の目的地が決まった。
美の女神・エルシアを探して、ヴェルセアへ。




