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第7話:街


 街に着いた私たちは、直ぐに子供たちを家に連れていった。

 スミスさんが親に直接言わないと、気が済まないらしい。

 本当に良い人だと思う。


 こんな事が他の領地で起これば、きっと街に連れ戻す人は居ても、わざわざ家まで送って親に直接伝えようとする人は少ない筈だ。それを行うのだから、領民一人一人を大切にしている事が伝わって来る。


 それは街の人を見ていても分かっていた。

 ――スミスさんと一緒に歩くだけで、街の人たちが声をかけて来る。その人たちは、スミスさんが貴族だから嫌々挨拶をするという感じは全くせず、親しい人に挨拶をする様に笑顔を向けている。


 その人たちとスミスさんが挨拶をかわしながら歩いていると、街の大通りに位置する場所でサリスちゃんの家に着いた。そこはただの家ではなく、街の冒険者も利用する宿だった。


 何でも、この街で親しまれる宿を営むのがサリスちゃんのご両親だそう。

 それからスミスさんが中に入り、暫くして外に出て来ると私たちは次の場所に向かった。


 街に隣接する形で農園を営む、アゼルくんの家だ。

 大きな敷地には、沢山の野菜や果樹などがあり、人の手で手入れすると大変そうと思っていた所。――近づく私達に気づいた女性がアゼルに向かって怒り始め、手伝いもしないで遊んでいた発覚し、私だけでなくスミスさんまでも苦笑いしてしまう。


「アゼル! あんた、手伝わんで何処に行ってたんだね! それに伯爵様まで連れて、何しでかしたの!」


「悪かったって、ほらフィリアもカルナも連れて来たから、三人でやれば大丈夫だって」


「えっ……!?」


 後ろに居たフィリアちゃんが困惑していた。

 きっと、巻き添えだろう。


「頼む、二人とも手伝ってくれ!」


「……うん、分かった」


 フィリアちゃんがおどおどしながらも承諾し、アゼルの視線がカルナに向く。


「私はやらない。お姉ちゃんと居る」


「えっ!?」


 今度は私がカルナちゃんに、驚かされてしまった。


「駄目?」


「いや、駄目じゃないけど。スミスさん、大丈夫ですよね?」


「あぁ、カルナちゃんなら、問題ないよ」


 どういう意味だろう。

 私がそんな事を思っている間に、スミスさんがアゼルの親御さんと話し始める。

 スミスさん相手に何度も頭を下げる女性が、アゼルの頭に手を置いて何度も頭を下げさせていた。首が痛くなりそうで、少しかわいそうと思った事は口に出さない。


「大丈夫。いつもの事」


 顔に出ていたのか、カルナちゃんが呟いた。


「大変だね」


「うん。お姉ちゃんが居なかったら、私も手伝わされてたと思う」


 ……上手く、避けた訳だ。

 そんなカルナちゃんと待っていると、話し終えたスミスさんが戻って来る。


「ごめん。待たせたね」


「いえ、大丈夫です。この後は」


 そっか、カルナちゃんは私と居るなら、帰らないのか。

 私が悩む間もなく、スミスさんが答えてくれた。


「冒険者ギルドに行こうか、大通りまで戻るけど、そんな遠くはないから」


 サリスちゃんの家兼、宿があった場所の近くまで私は二人と共に戻る。

 ――そして、スミスさんに連れられて来たのは、宿よりも遥かに大きい建物だった。

 レンガで造られた壁に、木の屋根が取り付けられた建物の入口には大きな看板がある。その看板にでかでかと盃が描かれ、その上で交差した剣と杖の間をポーションらしき液体が流れ、盃に注がれていた。


 ……何だろう、凄い聖女が場違いな気がしてきた。

 でも、あの注がれているのが聖水なら……いや、結局盃に入れるのは駄目な気がする。


「聖女とは、無縁ですね」


 冒険者ギルドの前で、私は小さく呟くのだった。


「大丈夫だよ。聖女的なオーラを出して入っても、皆受け入れてくれる筈だから」


「いや、そんなのありませんよ!?」


「遠慮しなくて良いから、安心して」


 何を安心したら良いのか。

 逆にちっとも安心出来ない。

 それにスミスさん、そんなものは断じてありませんよ。


「結構です。これ以上、目立ちたくないので」


「そうかい? もっと、目立っても良いと思うけどな。自分がやった事を周囲に知っていてもらう事も、時には必要だよ」


 私は……その言葉に、言い返せなかった。

 確かに、スミスさんの言う通りかもしれない。


 ――王都に居た時の私は、それが出来てなくて終わった様なものだ。

 だから、私の悪い所と言えば悪い所でしかない。


「でも、安心してくれて良いよ。僕が居る限り、そんな事は起きないから」


 扉を開けたスミスさんが、ギルドの中に入って行く。

 私はその後ろ姿を眺めていると、隣に居たカルナちゃんが私の裾を引っ張った。


「皆、良い人だよ?」


 隣に居たカルナちゃんが、私の背中を押してくれる。

 子供に心配され、情けない気持ちと同時に――純粋な勇気を貰えた気がした。


「ありがとう、カルナちゃん。入ろっか」


 そう言って私は、冒険者ギルドの中に入って行く。



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