第6話:街へ
子供達を連れて来た道を戻る。
けれど、来る時よりも周囲に気を配っていた。
私だけでなくスミスさんも、兵士の方々もどこか落ち着いていない。
「おいあれ、キノコじゃねぇか!?」
歩きながら何かを見つけたアゼルが、茂みに近づく。
――そう私達は、予測不可能な子供の動きを気にしていたのだ……。
「頼むから勝手に毒キノコには触らないでくれよ。君たちに何かあったら、僕は親御さんに顔向け出来ないからね」
スミスさんが茶化しながら直ぐに近づき、目先の茂みにあるであろう物を確認しようとする。
何だかんだ言って、服を引っ張って戻さないだけスミスさんは優しい。
その後ろから栗色の髪を結んだ子と桜色のボブヘアの子もそっちに近づいていき、白銀の長い髪の子だけが道の真ん中に残った。
「ねぇ、お名前聞いて良い? 私は、サリナって言うんだけど」
動こうとしない彼女に私は静かに話しかける。
すると私の方を振り返り、長い前髪を指でかき分け片目を出してから顔を合わせてくれた。
綺麗な黒い瞳が、じっと私の方を見つめる。
髪の色とは対照的だ。
「私はカルナ。同じ、ナで終わるね」
「そうだね、なら仲間かな。カルナちゃんって呼んでも良い?」
「仲間っ。なら私は……」
そう言ってカルナちゃんが私をしっかりと、見上げて来る。
「サリナお姉ちゃん。って、呼んでも良いですか?」
きょとんとした様子で首を傾げ、長い前髪が再び瞳を隠した。
「良いよ、好きな様に呼んで。よろしくねカルナちゃん」
「はい。よろしくです、サリナお姉ちゃん」
何だか私は嬉しくなっていた、きっとお姉ちゃんと呼ばれたからだろう。
「ねぇ、カルナちゃん。さっき湖の水に触ってたけど、何か気になってた事ってある?」
他の三人と違って、この子だけは服が濡れていなかった。
感覚的に避けていたのか、ただ入らなかったのか。
「湖、ですか?」
「うん、湖」
「あの水は、触っているとキラキラするので、見ていると落ち着きます」
「えっ――」
嘘……。
光るって事は、魔力結晶が反応しているという事だ。つまりこの子は、無意識か意識的かは分からないけど水に触れながら、魔力を流していた事になる。
「それ、ほんと!? キラキラしてたの、カルナちゃんも見えてたの?」
「はい。も、って事は、サリナお姉ちゃんも、見えるんですか?」
「そうなんだよ。私も見えてたよ。何だかお姉ちゃん、仲間が居て嬉しいよ」
本当に凄い。
この子、もしかして――。
「ああ! カルナだけ、救世主さんと話してる!」
救世主!? 何それ。
アゼルと呼ばれる少年が、私達の方を指差して声を上げた。
その隣でスミスさんが苦笑いし、四人で近寄って来る。
「スミスさん、救世主って何の話ですか……」
「いやぁ、実はグール退治してくれた君の事を、街の皆が救世主って呼んでいてね。直ぐに街に行かないなら、収まるだろうと思って、伝えてはいなかったんだよ。すまない」
申し訳なさそうにスミスさんが謝った。
けれど、子供達はそんな話お構いなしだ。
「カルナ、何の話してたんだ?」
「ちょっと、湖のキラキラ」
「キラキラ? なんだそりゃ」
「馬鹿アゼル、いつもカルナが言ってるでしょ、手を触れさせると光って。あんた何聞いてるのよ」
「だって、俺がやっても光んねぇだから、忘れるに決まってるだろ」
「自分が出来ないからって、人の話は覚えなさいよね」
しっかりしていそうな栗色の髪の子がアゼルに小言を言う。
「サリスだって、出来ないだろ」
「出来なくても、私は覚えてるから良いの」
「何が良いんだよ!」
仲が良さそうで何より、その後ろで桜色の髪をした子が困った様子だけど。
「ねぇ貴方たち、良ければ名前、教えてくれる? 私はサリナ、よろしくね」
ちょっとヒートアップしそうな二人を止め、私が口を挟んだ。
すると、元気よくアゼルが手を挙げた。
「俺はアゼル。よろしく、救世主さん!」
アゼルくんで合ってたのは良かった。
けれど、救世主は止めて欲しい……。
「サリス・キャンベルです、救世主サリナ様」
……様!? いやいや、普通で良いから。
栗色の髪を結んだサリスが、少し頭を下げていた。
「あっ……えっと、あわぁ、私は、フィリアって言いまふぅ――」
綺麗な桜色の髪をボブヘアにした子が、慌てて深く頭を下げる。
「皆、様とかも要らないし、そんな畏まらないで良いから」
私が困っていると、横に居るカルナが突然話し出した。
「サリナお姉ちゃんは、救世主様だったの?」
「カルナちゃんまで、待って!? 違うから、いや違わないけど。ちょっとスミスさん! 見てないで、どうにか説得して下さい」
「良し、任せてくれ。良いか皆」
スミスさんの方に、四人全員が顔を向ける。
「彼女は、困り果てていた我が領地を救ってくれた、命の恩人、サリナさんだ! 失礼のないようにな」
「おぉ! やっぱり凄い人じゃん!」
「かしこまりました」
「あぁ、あの。よろしくお願いします!」
「サリナお姉ちゃん、かっこいい」
「ちょっと皆、そういう意味じゃ、静かにって意味で……」
スミスさん、それは駄目ですよ。
貴方の言い方では、間違いなくこうなるじゃないですか。
っと思いつつ私は、困るスミスさんと元気そうな子供たちを見ながら微笑んだ。
「もう、それで良いですよ。ほら皆、街に行くよ」
いつまでも森で立ち止まっていても仕方ないので、私が歩き出す。
すると横からアゼルが抜け出し、前に出る。
「俺が一番だ!」
「これアゼル、待ちなさい!」
「待って、私も――」
走り出したアゼルは、前に居た騎士に阻まれ、直ぐにスミスさんに掴まえられていた。
そして三人は纏まって歩き出し、私の隣にはカルナちゃんが居る。
――何故か私は、カルナちゃんになつかれてしまった。
横を向いて目を合わせると、首を傾げられてしまう。
「街まで、気を付けて歩こっか」
「はい」
そうして私たちは街に向かう。
新たに判明した救世主というのは少し……ではなく、かなり嫌なのだけれど。
広まった話はもう止められない。
私は半ば諦めて、歩き続けた。