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第5話:家の湖と子供達



 建物の外に出ると、直ぐに広い湖に反射された光が目に入って来る。私が前に居た場所と同じか、少し小さいにしても、気軽に外周を歩き一周しようとは思えない程の広さだ。


 そんな湖の、緩やかになった傾斜の水辺で四人の子供が遊んでいる。

 膝ぐらいまで水に足をつけている少年と、その近くに二人の女の子。そして水辺には、私みたいに手だけを水に触れさせのんびりとしている少女が座っていた。


「こらっ、君たち! 勝手に森に入るなって、親に言われてる筈じゃないか」


 驚く程大きくはなく、それで確実に気づく声量でスミスさんが声を出して注意すると、それに気づいた四人の子供達が一斉に私とスミスさんの方を見る。


「伯爵様!?」

「何でここに!」

「えっあぁ――」

「……」


 真っ先に気づいた黒髪の少年が声を上げ、少し低めに栗色の髪を纏めた女の子が続き、綺麗な桜色のボブヘアの子が慌てふためく中、水辺の少女だけはじっとしている。


「あの、伯爵様。申し訳ありません。勝手に森に入ってしまったのは全部、私の責任です。遊びたいというアゼルの誘いに負けてしまい、ここまで来ました」


 水の中に居た栗色髪の女の子が急いで近寄り始め、その後に他の二人も続いていた。


「何言ってるんだよサリス! 皆で来たんだろ」


 君はアゼルくんだよね。

 きっと連帯責任というか、君が悪い気もするよ。


「アゼルは黙ってて、私が伯爵様に話してるんだから」


「あのぉ、私も……二人を止められなくて……一緒に遊んだから、同じです」


 綺麗な桜色の髪をボブっぽく切り揃えている女の子が、二人をかばおうとしてくる。


「だったら私も。一応ついて来たから、仲間外れは良くない」


 少し離れた位置に居た少女が立ち上がり、白銀の綺麗な長い髪をなびかせながら私達の方に寄って来るも、前髪に目が隠されていて殆ど顔が見えていない。


「君たち、自分達がどれだけ危険な事しているのか、分かっているのか? 最近も近くの水源でグールが出たばかりだ。もし今ここで遭遇したとして、誰も来てくれなかったら、どうなってたか分かるよね?」


 集まった子供達が口を閉ざす中、黒髪の少年が口を開いた。


「その時は俺が、囮になってる間に、皆は逃げてくれ」


 そうハッキリと答えた少年アゼルに、私とスミスさんは苦笑する。


「その心意気は男しては大切にしろと思うけど、君はまだ子供だ。子供であれば、それ相応の立場ってものがあるんだ。こんな危ない場所で遊ぶ事もない。それにだ、仮に遭遇したとしても、皆を逃がしたんなら君も逃げるんだ。それが例え山奥で心細くても、生き続けているのなら必ず助けに行くよ。良いね?」


「スミスさん、子供相手に一度に言い過ぎですよ。落ち着きましょう?」


 子供に甘いスミスさんを止める。

 とにかく分かった事がある、本当にこの人は優しい。


「これはすまない。良し、ここでの水遊びは危険だから、止める様にしてくれ」


 かなり短くなったスミスさんの忠告を受け、子供達が頭を下げて謝る。


「「ごめんなさい……」」

「すみませんでしたっ」

「ごめん」


「分かってくれたら良いんだよ、何事もなくて良かった。向こうで、待っててくれるか?」


 子供達が脱ぎ捨てたであろう靴が転がってる辺りを指差し、子供達がそっちに向かうとスミスさんが私に向かって話かけて来る。


「君から見て、この湖はどうなんだい? 危険だと思うかい?」


 流石に離れている状態では確かな事は分からず、私は湖に近づいた。


「ちょっと、近くで見て来ます」


 水が触れる距離で膝を曲げ、水に手を触れさせる。

 見た目は通り綺麗な水だけど、かなり魔力濃度が高い。


「スミスさん、この湖って湧き水ですか?」


「すみません。詳しくは分かっていないんです。でも、記録だと枯れた事はないかと。何か分かったんですか?」


「この湖の水、魔力濃度が思ってた以上に高いですよ。目ではただの泡とか浮いてる土ぐらいにしか思えない大きさですけど、小さな魔力結晶が水中を漂っています」


 魔力を流すと、少し水中で小さな粒の様な物が微細な光を放つ。

 殆ど見えないけれど、水の中を流れる魔力の動きが明らかに違った。


「魔力結晶っていうと、ダンジョンとか洞窟に生えているあれかい?」


「はい。あの壁とか地面から突き出てる、見た目だけは綺麗な奴です。あれの殆ど目に見えない破片が漂ってると思ってもらえると、分かりやすいですか?」


 魔力結晶は魔力を取れる事から、魔道具とかでも利用される。単純に魔力が固まった集合体なのだから、それを口から摂取するというのは普通に考えて健康には悪影響でしかない。


「そういう事か。飲み水として利用してなくて、本当に良かったよ」


「そうですね、良かったです」


 そう言って私は、少し離れた位置に居る子供達に目を向けた。


「あの子達、飲んでないといいけど……」


「確かに、直ぐに確認しないと。君たち、湖の水は、飲んでないかい!?」


 心配するスミスさんが子供の方に寄って、一人一人顔を合わせ聞こうとする。

 少し過剰にも思えるけど、子供を無視するどこかの貴族よりは遥かに良い。


「ちょっと口に入っただけで、飲んでねぇよ」


「ちょっとアゼル。貴方、伯爵様に向かってなんて口の利き方をするのよ。いつも言ってるじゃない、時と場合を考えて、皆に合わせてって」


「分かってるよ。十分……やってるだろ」


 少し悔しそうな顔をしつつ、アゼルがスミスさんの方を向いて頭を下げていた。そして栗色の髪を結んだ少女がアゼルの代わりに話し出す。


「すみません、伯爵様。でも私も皆も、直接飲もうとしてはなかったので、大丈夫かと思います」


「良かった……。それと君たち。今後、この屋敷には人が住む事になったから、許可なく入り続けるのなら、厳しい処罰があると思っていてくれ。良いね? 森には不用意にはいらない」


「はーい」

「かしこまりました」

「二人が、そうするなら。私も」

「……うん」


「良し、良い子達だ」


 そう言ってスミスさんが、前に居たアゼルと桜色のボブヘアの子の頭に手を置いていた。

 その後ろで、低めの位置で髪を結んでいる栗色髪の子が若干羨ましそうにしている。


「スミスさん。汚されるのは嫌ですけど、絶対入って来るなってわけじゃないので、その辺りはそちらで上手くやってくださればと思います。安全の保障とかは勿論出来ないですけど、上手くお願いしますね」


 子供を縛り過ぎるのも良くない。

 と言っても、森に入るなは割と妥当だ。

 現実でも熊とか猪と遭遇する事があるけど、それが魔物になると考えたら笑えない。


「そうだね、考えておくよ。街からここまでの安全性を高めるのも事実なんだし、それも含めて、これからギルドで相談してみるよ」


「ギルドですか? 良いですね。私も行ってみたいです。何か仕事があれば」


 この街で生活していくにしても、今の私は収入がない。

 生活を続けるには、何か仕事をしなければ……。


「そうだね、ギルドで身分証を作ると良い。そしたら君の顔を、部下全員に覚えさせないで済むから、そっちの方が助かるかな」


「最初っから言ってくだされば、対応しましたよ? まるで、私が楽をしたいみたいじゃないですか」


「そんな事思ってないよ。でも、作ると決まったなら、一旦戻ろうか」


「そうですね、子供達も街に帰さないとですし」


 そう言って話が纏まった私とスミスさんが、子供達の方を向く。


「君たち」


 スミスさんに呼ばれた子供達が返事をして、四人で集まっていた。


「これから街に戻るから、一緒に付いて来なさい。全員の親御さんには、僕から言うからね」


「大変ですね。伯爵様のお仕事って」


「何、子供達に良い人生を歩んでほしいだけだよ。だから、やんちゃが必要なのも分かるんだけどね。流石に街の外だと……心配かな」


「街の中なら良いんですか?」


「限度による。それに、悪い事をやったら謝って、また進むのは貴族だって変わらないよ。さて、屋敷の前に居る兵と合流して、街に戻ろうか」


 スミスさんと一緒に屋敷の前まで歩くと、数人兵士が外から来た私達に驚いていた。

 きっと勝手に外に出ていた事で、焦ったのだろう。


「スミス様、どうかされたのですか?」


「いや、ちょっとね。この子達を街まで送る。悪いが付いて来てくれ。中の二人には、引き続き残る様に伝えて」


「かしこまりました」


 それ以上は何も指示を出さない。

 中に入って行った兵士が一人戻って来ると直ぐ先頭に立ち、子供達を引き連れたスミスさんと私を挟む形で後ろにも兵士が立つと、街に戻って進み始める。


 あれ、今日は屋敷に居るつもりだったのに……。

 気づいた時には遅く、振り返っても屋敷は見えない。

 こうして私は、来たばかりの屋敷から離れて行くのだった。



 読んで下さりありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたのなら、下記の『☆☆☆☆☆』をタップして【★★★★★】にしていただけると幸いです。


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 何卒、よろしくお願いいたします。



 ――海月花夜より――

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