第4話:新しい家 ※この話から短編の続きです。
住む場所に関して要望を聞かれた私は、静かな場所と答えた。
その結果、私は街から少し離れた森の中を歩いている。
隣にはスミスさんの他に、数名の兵士と、何故かメイドさんが二人付き添っていた。
街を出てまだ数分だけど、すっかり森の中と言える。
辺りを見渡しても木々ばかりで、人工的に作られた物が見当たらない。
「本当に良かったの? こんな森の中にある屋敷で」
「はい、大丈夫です」
最初は、街中にある一等地の建物を勧められていた。けれど、そこは大通りの場所の音が聞こえたり、庭が広いと言っても街中で作られている為広さにも限界がある。
それならスミスさんの屋敷で――って話にもなりそうだったけど、人の家だとどうしても気を遣ってしまうので、丁重にお断りさせてもらった。
「元々は母が使っていた屋敷だから、作りはしっかりしているだろうけど、もう長い事使ってないんだ。そんな場所に恩人を住まわすのは、やはり気乗りしないな」
私の方を見て来るスミスさん。
やはりこの人は、親切というか優し過ぎる。
「少し段差あるから、掴んで」
倒れていた木を乗り越えて進む際に、転びそうになった私の肩をスミスさんが支え、ゆっくりと体勢を立て直すまで待ってくれる。
本当に優しい人だと思う。
――これなら、どこかの暇してる聖女を口説き落として、連れ去ればグール退治なんて……。って、あれ? もしかして、それで釣られたのが私なんじゃ……。
「この木は、後で通れる様に退かしとくから」
そんな無粋な事を考えていたのに、スミスさんは私が今後通る事を考えていてくれた。
「ありがとうございます」
何だか申し訳なくなる……。
「少しでも、快適に過ごしてほしいからね。何かあったら、直ぐに言ってね」
「はい……」
甘え過ぎない様にしよう。
そのままスミスさんの後に続いて歩いていると、視界が切り拓けた。
だだっ広い空間を芝生が埋め尽くし、その中に大きな屋敷が建っている。
見るからに、二十人程であれば余裕で住めそうだ。
レンガの壁を見て二階建てだと思っていると、三角になった屋根部分で小さな窓を見つける。屋根裏込みで三階建てが確定したのだった。その建物に繋がる形で、少し屋根の低い建造物が繋がっている。
「スミスさん、少し大きいって言いませんでした?」
「少しだけど? これでも僕の屋敷の半分もないからね」
「……すみません、もっと小さな建物だと思ってました」
それに外見も少し苔が付いているだけで、全体的に傷んでいる様子はなかった。
これなら直ぐに掃除も終わるだろう。
入口でスミスさんが、取り出した鍵を私に渡す。
長年使われている筈の鍵は、とても綺麗な状態を保っていた。
「ありがとうございます」
大切に使わせてもらおう。
私はそっと鍵を受け取った。
鍵の開いた扉をゆっくり押し開ける。
スミスさんがもう片方の扉を開け、そのタイミングで後ろから風が突き抜けた。
――舞い上がった埃が、吹き抜けの窓から差し込んだ光に照らされる。辺りを見渡していると赤い絨毯が敷かれた階段を左右に見つけ、それが二階に向かう途中で一つに繋がっている事に気づく。
階段が奥に向かって伸びている。
という事は、それだけ奥行があるという事に……。
「立派ですね」
余りにも大き過ぎるとは思った。
「気に入ってもらえた様で、良かった。でも、まだ驚くには早いと思うよ」
「どういう意味ですか?」
首を傾げた私を見て、スミスさんが微笑んだ。
「見てのお楽しみかな。後で見たら分かるよ」
私は聞き返すのを止めて、屋敷の中を歩き始める。
兵士の皆さんは外で待機し、二人のメイドさんはスミスさんの指示で別行動だ。
だから私は――スミスさんと二人で屋敷の中を見て回っている。
広すぎる厨房に、十人は座れる長机が置かれる食堂。
応接室から、食料置き場までやはり全てが大きい。
そして、一階の端の方を歩いている時だった。
「スミスさん、子供の声がしませんか?」
私とスミスさんは立ち止まり、耳を澄す。
――聞き間違いじゃない。
子供達の楽しそうな声が聞こえて来る。
「森で迷った、感じじゃなさそうですよね?」
「後で見せようと思っていたんだけどね……。実は此処の裏手に、使われていない湖があってね。恐らく、そこで勝手に遊んでいると思う」
「それって、管理されてないって事ですよね?」
最近この辺りで、グールによる水源の被害があったばかりだ。
街の外での安全なんて、この世界では殆ど運試しのようなものでしかない。
「悪いけど中を見るのは後回しにするよ、子供達が心配だ」
「はい、急ぎましょう」
こうして私は、内見を終える前に――湖に向かうのだった。
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――海月花夜――