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第38話:前を歩くアゼル


 王子と子供達を追っている間に、私達は街に着いてしまう。


「サリナ様、森に居る可能性はないのでしょうか?」


「普通に歩いてたら迷う事のない道なので、その可能性はないかと」


 森に入ってから直ぐに、周囲にも気を配っていたがそれらしい気配は何もなかった。

 魔物も居なければ、人が居たなんて考えられない。


「それにあの子達なら、森に留まっているなら王子と何かしら言い合ってますよ」


 勝手な偏見ではあるが、あのアゼルが一度言い合った護衛と顔を合わせて、何事もなく終わるとは考えずらい。


「街のこちら側を二手に分かれて捜索し、街の中央で合流しよう」


「分かりました。でしたら私はイルミナさんと向こうを見て来ます」


 スミスさんの提案に乗り、私がイルミナさんと向かおうとする。

 それなのに、スミスさんが不安そうな表情を見せていた。


「大丈夫ですよ。見つけても、聖女二人で引っ叩いたりしませんから」


「本当だろうね……」


 若干信用されていないのが納得いかないが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


「それか、そっちにイルミナさん渡すので、四人と一人で回りますか?」


 イルミナさんを一人で街を歩かせる訳にもいかず。

 護衛が居ないのも論外だ。

 スミスさんだって、一人で歩かせて良い立場の人間ではない。


 それを考えたら私と一緒に歩くか、イルミナさんがスミスさんと動くかだ。


「分かった、そちら側は任せたよ」


「任せて下さい。行きますよイルミナさん」


「はい」


 ――イルミナさんと動き出し、街の一角を探し回る。


「イルミナさんは、右側を見て下さい」


 小走りで動き、二人で見る場所を分担して進む。

 それにしても何だか人に見られている気がする。


 イルミナさんが一緒だからかな。

 そんな事を考えていると、隣からイルミナさんが話し掛けてくる。


「目立つ所に居てくれると、良いのですが」


「何しても目立つと思いますよ」


「昨日も、騒ぎを起こしてしまい、すみません。何か起こってないと良いのですが……」


「それは諦めて下さい。あの王子が、ひっそりと過ごせる訳がないもの」


 立ち止まって見合った状態で、二人して妙に納得してしまう。


「そうですね……」


 何だか私は、心の中で手を合わせてイルミナさんを称えたい気持ちだった。

 私よりは短い期間とは言え、あの王子の元で聖女をしているのは本当に凄いと思う。


 そのうえ、この街まで一緒に……来る……。


「イルミナさん、王子とはどこの宿に泊まっているんですか!?」


 私が聞くとイルミナさんも思い出したかの様に答えてくれる。


「中央から少し、進んだ所です」


「だったら、この区画には居ないかもしれませんね。もう少し見たら、直ぐに広場に行って、なるべく早くスミスさん達と合流して宿に向かいましょう」


「分かりました」


 ――私とイルミナさんはもう少しだけ走り回ってから、広場に向かった。


 街で一番大きな道から僅かにそれた場所に作られた広場。

 大きな噴水がある広場には多くの人が居て、いくつか屋台も見える。


「あのお方に、聞いてみませんか?」


 イルミナさんが手の平をある方向に向けていた。

 その指先には一つの屋台があり、私は小さく頷く。


 美味しそうなパンや、お菓子が陳列された屋台。

 そこに一人の男性が立っていた。


 今思えば、何も食べてないや。

 朝から色々あって、落ち着いてすらいない。


「すみません。少し聞きたい事があるのですが」


「はいよ。何だ――ぃ……」


 私とイルミナさんの顔を見るなり、店主が何度も私達を見比べていた。

 何だろう、私達は別に似ていないのに。


「失礼ですが、お名前を聞いても……」


「イルミナと申します」


 イルミナさんが答えた後に、私の方に視線が向く。


「サリナです」


 そして私が名乗ると、店主が眉間を抑え俯いてしまう。


「あの。どうか、したんですか?」


「いえ……その。何でもありません。失礼いたしました。それで、聞きたい事とは?」


 色々と気になるが、今は後回しだ。


「この辺りで、子供四人と。護衛を連れた男を見ませんでしたか?」


「それでしたら見ましたよ。子供ってアゼル達でしょ? ……だったらあの後ろに居た人が、殿下だったのか……」


「後ろに? 子供が後を追ってたんじゃないんですか?」


「いえ、私が見た限りだと、アゼルが前を歩いていましたよ」


「ん?」


 私は全然内容が理解できなかった。

 アゼルが前? あの王子を連れて?

 何の冗談だろうか……。


 そんな訳の分からない状態は、見たくもない。


「それでどっちに」


「真っすぐ農園の方に向かって行きましたよ」


「分かりました、ありがとうございます」

「感謝いたします」


 二人して軽く礼を言い、私達は直ぐにスミスさん達が来るであろう道で待機する。

 そして、スミスさんと合流した後に宿にも向かうが、やはり戻ってはいなかった。


 これで行方が殆ど決まったと言える。

 私達は、広場で聞いた様に農園に向かうのだった。



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