第3話:浄化されない湖(リオン王子視点)
帝国から聖女が来た翌日。
リオン王子を含め、数多くの貴族が湖に集まっていた。
その水は一週間足らずで濁り、とてもじゃないが無邪気には飛び込みたいとは言えない状態だ。
「これより、帝国から来た我が婚約者、イルミナ聖女がこの湖の浄化を行う!」
大きな声で宣言したリオン王子の隣で、イルミナは笑みを浮かべていた。
帝国でも水の浄化を行っていたイルミナは、この程度の水であれば問題ないと考えていたのだ。
「イルミナ、頼んだよ」
気持ち悪い程の甘い声がリオン王子からイルミナに向けられ、イルミナが一歩湖に近づいた。
両手を左右に伸ばし、天を仰ぐ様にしたイルミナが魔力を放つ。
目を覆いたくなる様な光が湖だけでなく、辺りに居た全ての人々を包みこんだ。
――しかし、結果は何も変わらなかった。
濁っている湖の水は、殆ど何も変わらない程濁り、水底なんて見えやしない。
「どうして……」
「イルミナ」
リオン王子に名を呼ばれたイルミナが、焦ってもう一度浄化魔法を繰り出す。
二度の大規模魔法で魔力を使い切ったのか、イルミナはその場で倒れ込み、苦しそうに息を荒げる。
「どうして、なんで浄化が……」
周囲からざわめきが起こり始め、その視線がリオン王子とイルミナに向く。
「リオンよ、どういう事だ? 貴様が、その者でも、浄化に問題はないと言ったな?」
声を発した国王陛下の声が、その場に重苦しく流れる。
「父上これは……そうです、イルミナの体調が優れなくて、明日になればきっと」
「見苦しいぞ! それでも貴様は王族かッ!」
怒鳴られたリオン王子が腰を抜かし、イルミナの横に倒れる。
周囲の貴族からも見下される中で、国王陛下が去り際に言葉を放った。
「この件をどうにか出来ぬのであれば、貴様の地位は全て剥奪する。覚悟しておれ」
「父上、お待ちを――!」
呼び止めようとする声が虚しく広がり、周囲に居た貴族達も離れて行く。
誰も二人を助けようとはしなかった。
疲れ切ったイルミナと共に座り込んでいるリオン王子に残された道はたった一つ。それは、この変わらない湖をどうにかして、綺麗な状態にする事だった。
けれど、それを行っていたサリナはもう居ない。
自らが婚約を破棄し、追い出してしまったのだから。
※本日、もう1話投稿予定です。
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――海月花夜より――