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第29話:森の依頼


 長い苦しみの夜が終わり、屋敷は死人が出ることもなく朝を迎えられていた。


 朝陽が正面の入口付近のガラスから、綺麗に差し込んでいる。

 全てを浄化してくれそうな光だった。


 そんな屋敷の入口の外側で、話をしている二人の兵士を見かける。

 基本は一人だと言っていたのに二人も居るのだから、何かあったとすぐに思い至った。


「おはようございます。どうかしましたか?」


 扉を開けて外に出て来た私に、二人が慌ててお辞儀をしてからゆっくりと顔を上げる。


「おはようございます、サリナ様」

「おはようございます。救世主様」


 ぱっと見の外見で二人に区別はない。

 けれど、サリナ様と呼んだ方が私の屋敷に居てくれる人だ。

 自然と救世主様と言った左の人が、スミスさんの所から来た人という事になる。

 

「スミス様から、伝言を預かっています」


「どうかしましたか?」


「カルナを連れてギルドに行くと、面白い事があるとの事です」


「内容は聞いてますか?」


「いえ。行けばどうせ分かるとの事ですが、強制ではないので。息抜きにと仰っていました」


「……息抜き、ですか」


 確かに、昨日から毒きのこを食べたり触れたりを繰り返している。

 それが本当に息抜きなら、ありがたいかな。


「分かりました。カルナが起きて来たら向か――」


 突然服を優しく掴まれ私は声を止めて振り返ると、そこには寝間着に包まれ、今にも倒れそうにふらふらと頭を揺らしているカルナちゃんが居た。


「おはよう。サリナお姉ちゃん。もう、起きてる」


 気配が全くなかった。

 魔力を極限まで空にしているのか、ただ静かなのか。

 どちらにしても、心臓に悪い。


「おはよう、カルナちゃん。お願いだから、次からは分かりやすく、近づいて」


「分かった。大声で話しかける」


「いや、そういう訳じゃ……」


 私が何かを言う前にカルナちゃんが振り返り静かに歩き出す。


「着替えて来る」


「階段から落ちないでね」


「……うん」


 階段を上って行ったカルナちゃんが、見えなくなっていくまで私は黙って見届けた。

 いっそのこと、階段全部にクッション置くか、安全な滑り台とか作った方が良いかな。


 いつか落ちそうで、見ているこっちが怖い。


「ってことなので、この後向かおうと思います」


「かしこまりました。でしたらこのままこちらでお待ちして、街まで警護させていただきます」


「ありがとうございます。私も少し、外しますね」


 二人が頭を下げている内に、静かに扉を閉めて厨房に向かう。

 厨房には、昨日から入り浸っているカルナちゃんのご両親が朝から料理をしていた。


「このきのこ、煮込めば美味しくなるんじゃないか?」


「良いわね。試してみましょう」


「あの……二人とも。おはようございます」


「おはようございます。朝から騒がしくしてしまって、すみません」

「サリナさん、おはようございます。カルナ、もう起きてますか?」


「はい。さっき起きて来て、これからギルドに行くことになったので、お伝えしに来ました」


「わざわざありがとうございます。でしたらコレを、カルナに渡して下さい」


 手渡された丸パン。

 しかし、表面には切り込みが入っており、中に何か具材が入っているとすぐに分かる。

 何が入っているかは、聞かないでおこう。


「分かりました」


 ***


 そして向かったギルド。

 けれど、丸パンを食べ終えたカルナちゃんは下を向き、私に手を引っ張られながら歩いていた。


「地面がいっぱい……」


 ちゃんと癒したはずなんだけどな。


「ギルドが、なんだか、遠い……かも」


「カルナちゃん、もう着いたよ」


「うそ……」


 辿り着いたギルドの建物を前に、カルナちゃんが動きを止める。


「入るのやめとく?」


「いや大丈夫。何だか、治って来た気がする」


「そう。なら良かった。ダメそうだったら、言ってね」


 無理そうだったら、また背負おう。

 そう思いながら扉を開け、私とカルナちゃんはギルドの中に入った。


「おっ、救世主様じゃねぇか」

「グールは出てねぇぞっ」


「私は、グール専門じゃないですよ」


 話しかけてくる人に言葉を返しながら、受付の方に向かう。


 ギルドに行けと言われたは良いが、何かは聞いていない。

 それに今、グール退治じゃない事は分かった。

 別にグール退治は面白くは、ないけど。


「サリナ様、本日はどの様なご用件でしょうか?」


「あのすみません。スミスさん、伯爵様に言われて来たんですが、何か聞いていますか?」


「申し訳ございません。とくに伺ってはおりませんが……」


 受付の人の視線が横に流れ、私も目で追う。

 いつの間にか離れていたカルナちゃんが無数の張り紙を見上げており、数秒眺めたと思ったらこっちに振り返って張り紙を指差した。


「すみません。少し見て来ますね」


 一言断ってカルナちゃんの方に向かうと、カルナちゃんが先ほどよりも元気そうな声で話すのだった。


「サリナお姉ちゃん、これ」


「どうしたの、何か……」


 カルナちゃんが指差していた張り紙の文字が目に入る。


『シュペリムの討伐。きのこ型の魔物。毒性あり、その他――』


 何でこんな依頼が……。

 スミスさん、まさかこれを知って私を送ったな。

 カルナちゃんと一緒に、という意味がようやく分かった。


「カルナちゃん。この依頼だけど受けないで、今日は」


「きのこ……!」


 少し下に目を向けた私は、楽しそうな雰囲気を纏ったカルナちゃんを目にする。

 何でそんなに、きのこが好きなの……。


 断れそうにもなく、私は静かに受ける事にした。


「依頼、受けられなかったら無理だからね」


 カルナちゃんを連れて、再び受付に戻る。

 僅かな望みを抱きながら。


 お願いだから、無理って言って……。



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