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第28話:湖の水と毒きのこ


 厨房に入ってすぐに、スミスさんからの承諾が告げられた。

 それを武器にしたカルナちゃんは、ご両親から二つ返事をもらえると思っていたと思う。私だってそうだった。


「一つ条件がある」


 けれど、そう上手くはいかない。


「それは?」


 聞き返したカルナちゃんではなく私を見た事で、私に関わることだと知る。


「数日間。俺たち二人も一緒に連れて行ってくれ」


「うん。分かった」


 私に変わってカルナちゃんが頷いていた。


「いやいや、カルナちゃん!? 私良いって言ってないよ!?」


「ダメ。なの?」


「そう言われると……」

 

 私はあのメイドさんに料理を任せてるから、厨房のことは分からないけど。

 良い方向に流れてくれる気配がない。


「突然すみませんね。ちゃんと、料理は手伝わせていただきますので、ご安心を」


「私も手伝う」


「よし、それじゃ家族三人で作ろうか」


 私を置いて勝手に話が進み。

 カルナちゃんのご両親に押され、私は自分の屋敷に向かった。


 新たに増えた、二人を連れて。

 ――本当に、数日で帰ってくれるんだよね……。


 屋敷についた二人は、すぐにメイドと何かを話し始めていた。

 そしてカルナちゃんに至っては、毒きのこが入った籠を手にもって私を見ている。


「どこでやるの?」


 そんなに食べたいのね。


「もう分かった。付き合ってあげる」


「やった」


 嬉しそう声でカルナちゃんが答え、二人で屋敷内を歩き始めた。

 普段使っている屋敷より、屋根が低い構造物が一つ繋がっている。

 私とカルナちゃんは、一階から階段を下りて、更に深い場所に辿り着いた。


 その場所には(かまど)が複数置かれ、放置された大釜(おおがま)だけでなくすり(ばち)や、大型の暖炉までも設けられている不思議な空間だった。足元は木材ではなく灰の様な砂が敷き詰められ、高めに作られた壁の上部から月明かりが入ってきている。


「ここは?」


「分かんない。でも、使って良いって言ってたから、ここで良いかな」


 部屋の竈とは違った場所の壁際にある大理石で作られた台の上には、湖の水と思われる水が川の様に流れ続けていた。


「水も使いたい放題」


 流れている水に手を触れる。

 間違いない。

 これは湖の水だ。


 横でカルナちゃんも流れる水に手をひたした。


「これ、裏にある湖と同じ?」


「良く分かったね。そうだよ、同じ水」


「えぇっ……」


 喜ぶと思っていたが、カルナちゃんが嫌そうに身を引いて毒きのこが入った籠を抱きかかえた。


「もしかして……湖よりも、毒きのこの方が良いの?」


 流石に頷いてはくれなかったが、カルナちゃんの態度的に今はきのこの方が優先度が高いらしい。


「良し、それじゃ食べて良いよ」


「良いの?」


「良いよ」


 カルナちゃんが部屋の中央にある石で出来たテーブルに籠を置き、白いきのこを一つ手に持った。

 そして私はその籠を持って、湖の水が流れている台の上に座る。


「あむぅ」


 きのこを斜めに小さく齧り、傘と柄の部分の両方を少しずつ食べたことになる。


「どう?」


「う~ん。今の所はぁ……あぁ……う。うぅ……ヒリヒリ、してきたぁ……」


 お腹と喉を抑えながら、カルナちゃんが膝をつき硬直した。


「サリナお姉ちゃん……」


 そのままゆっくりと身体を丸め、今にも地面に寝転がりそうになっている。


「毒きのこに慣れるんでしょ? まだ死なないから、まだ耐えて。きのこも無限じゃないかなね」


「ぬぁぁあぁあぁぁッ――ん"ん"ん"ん"んんん……うぅ……」


 高い声を上げて蹲ったカルナちゃんが砂まみれになり、ついに地面に転がった。


「サリナ様、凄い声が聞こえましたが……大丈夫……です、か?」


 金髪の長いポニーテールの眼鏡メイドさんが、部屋に乱入し倒れるカルナちゃんを目にする。


「これは一体……」


「毒きのこ食べたいって言うから、仕方なく。一応言っとくと私は何回も止めたし、非推奨だったのに、スミスさんが良いって言ったと思ったら、ご両親も承諾して二人で(うち)に来たんだからね」


「だから、厨房で毒きのこを使って、料理しているのですね」


「えっ、なにそれ。私それ、聞いてないんだけど……」


 毒きのこを使って料理?

 もしかしなくても、今日のご飯が毒料理って事だよね……。

 

「サリナ様であれば食べられるかと思いますが、我々は明日には、もう居ないかもしれません」


 何かを悟った様にメイドが頭を深く下げた。


「ちょっと物騒なこと言わないで下さい。私がみんな治すので、明日からも居て下さい」


「温かいお言葉、感謝いたします。引き続き、お仕えさせていただくのですが、そろそろカルナの方が……」


 私がカルナちゃんに目を向けると、口を開き身体を震わせたまま横たわっていた。


「全てを払い、その者を癒せ。ヒール」


 浄化と回復効果がある魔力の波を、カルナちゃんに当てる。

 荒かったカルナちゃんの呼吸が数秒で良くなり、身体についていた砂埃も大半が服から剥がれ落ちていた。


「んっ、私……生き返った」


「死んでないから。さて、カルナちゃん」


「なに? サリナお姉ちゃん」


「毒きのこ、食べたいんだよね? ここにね。湖の水と漬けて置いた奴を用意してたんだ。次はこれ、食べてくれるよね?」


「うん……。食べるから、余り長く、放っておかないで」


 静かに、けれどしっかりと強い意思でカルナちゃんが私に訴えていた。

 それでも毒きのこを食べて、治ったとはいえ泣かないことには驚かされてしまう。


「さっきも言ったけど、別に嫌がらせてでやってないからね。直ぐに毒を治したら、耐性がつくのかも分からないからね。そこは頑張って」


「……分かった」


 そして私は、魔力濃度の濃い湖の水も合わさった毒きのこを、カルナちゃんに手渡した。それを見ていたメイドさんはもう表情が引きつり、逃げ出したい雰囲気を出している。

 けれど、心配して来てしまった手前、すぐに帰れないのかしっかりとカルナちゃんを見ていた。


 そしてカルナちゃんが毒きのこを食べ、私も一つだけ丸飲みした。


「メイドさんも、食べますか?」


「いえ……遠慮いたします」


 私の喉を通ってお腹に向かった毒きのこ。

 その辺りから強い痛みと、皮膚を冷たく抉る不快な感覚が襲ってくる。


 ――こりゃダメだ。

 私がやるもんじゃない。


 ほとんど身体の魔力が聖属性になっている私の身体の中では、異物が入った途端に自然と浄化され始めるが、それでも瞬時に消える訳ではなく、今すぐにでも浄化をかけたいぐらい不快だ。


 けれど私は、それを放置した。

 ――私だけ治すのは何だかズルい気がする。

 やれと言うだけで、実践しない師匠にはなりたくない。


「んんんっ、お腹グルグルして、頭もぉ、毒と魔力がぁ……ぁあ~」


 これでカルナちゃんが毒を放てるようになったらどうしよう……。

 そんな前例は聞いた事がないけど、湖でやっている事は似ている。

 だから、絶対にないとも言い切れないのだった。


「これも、毒きのこなんだよね?」


 別で籠から取り出したきのこを、メイドさんが見てくれた。


「はい。そちらも毒きのこでございます」


 取り出したきのこは、普通のきのこと同じ形をしている。

 けれど傘の部分が、玉ねぎの様に見えなくもない色をしていた。


「カルナちゃん、これも食べて」


「うん……」


「サリナ様、流石に一度治した方が良いのではないでしょうか」

 

「やる事になったんだから、最大限ちゃんとやらないとね」


「お水、飲んで良い?」


「良いよ、今ならいくらでも湖の水、飲んじゃいなさい」


 本当は良くないけど。

 無心できのこを口に含んだカルナちゃんが、流れている水を丁寧に両手ですくい口につけた。


「んん――んっ!」


 台の縁を掴み、カルナちゃんが額を台につけながら堪えていた。

 まるで、二日酔いして頭痛と戦っている人に見えてしまう。


 身体の小さい少女なのに。


 そろそろ私の内臓も悲鳴を上げてる。

 今思えば、食べたままだった。


「そろそろ治そっか?」


「もう、ちょっと……」


 カルナちゃんのその絞り出した言葉で、私の治癒も遅れることが決まる。

 仕方ない。

 これぐらい、師匠として付き合わないとね。


「頑張ろうね、カルナちゃん。もう一個食べとく?」


 私がきのこを持って笑顔で聞くと、カルナちゃんは真っ青な顔で首を横に振っていた。



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