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第27話:破り捨てじゃなかった。


 静かにメイドの人が扉に向かい、部屋から出て行く。

 それを目で追っていたカルナちゃんが、扉が閉まってから私を見上げた。


「サリナお姉ちゃん、居なくなるの?」


「うーん。あまり長くならないうちに、帰って来たいけど……どうかな」


 私自身、分からなかった。

 流れて来る川や用水路と違って、湖の水質は根本的な解決が難しい。

 だから、こんな面倒な事になっている訳で、さっさと新しい井戸か水源を見つけろと言いたいぐらいだ。


「私も、行く」


「カルナちゃんそれは流石に……。いつ帰って来るかも分からないのに」


「う……ん」


 怪訝そうな小さな音が聞こえる。

 そんな中、スミスさんが気楽そうに話しかけて来た。


「二人の旅の話かい?」


「何言ってるんですか。王都に戻って来る様に書かれているんですよね?」


「確かに、書かれているね」


「だったら、私が――」


「でも、従うとは、一言も言ってないよ」


 スミスさんが濁す事なく断言した。

 それを聞かされている方が、自身の正気を疑ってしまう。


「今、何て言いました?」


「何て言ったというか、そうだね。こんな物は燃やしてしまおう」


 スミスさんが手に持っていた紙を灰皿らしき物の上に置き、火をつけたマッチ棒をその上に放り投げていた。


「スミスさん!? そんな事したら――」


「僕の心配はしなくて良いよ。君はもう、王都に住む聖女じゃないんだから、自分で行きたいと願い動くならともかく、誰かに言われて行く必要はないんじゃないかな」


 心配はしなくて良いって。

 そんな事を言っても、王族からの指示を無視したとあれば大事だ。

 他の貴族にも示しがつかないと、言い出したらどんな罰が……。


「カルナちゃん、一緒にスミスさんのお墓作ろうね」


「子供に何て事を、って勝手に殺さないでよね。今の王子に、僕を処刑するだけの権限はないよ」


「そうなんですか?」


「そうだね。王都の状況からして、相当不味い立場に居るみたいだよ。だから、僕の首をはねるよりも先に、彼自身の立場が危ういのさ」


「だからって、燃やしますか。普通……」


 普通、こういうのって両手で破ってポイでしょ。

 まさか、燃やすとは……。


「それに僕は、リオン王子から直接。自分の領地の問題も片付けられないのか。って怒られてるからね、こっちも水質が安定していない状態で、君みたいな優秀な人を手放す訳ないじゃないか」


 やっぱり、気にしてたんだ。

 でも、そうだよね。

 わざわざ王都に行って、教会にも行ったのにグール退治を断られたんだ。

 結局、突き返したあの王子が悪いけど。


「そうですね。私も、お世話になっている街の問題を片づけないで、また前の場所に行って問題と向き合ってたら、ずっとグルグルする事になるので、行くかどうかは置いといて、この街の水が元の状態に戻るまでは居させてもらいます」


「そうしてくれると、僕としても助かるよ。大丈夫、国の面倒は、貴族である僕に任せて。君が望まない形での不利益は、何が何でもさせないから、君は安心して、カルナちゃんと毒きのこを食べると良い」


「分かりました、街に……」


 ん?

 安心して毒きのこを食べる?


「スミスさん待ってください、それは許可しなくて――」


「サリナお姉ちゃん」


 私は袖を引っ張られ、カルナちゃんの方を向けさせられた。


「伯爵様から許可が出た。これで、問題なく一緒に食べれる」


 カルナちゃんが親指を立てて、嬉しそうにする。

 待って、何で私も食べる事になってるの。


 一言も、私は食べるだなんて言ってないのに。


「街の、食材が増える事は良い事だからね」


「それはそうですけど……」


「それに、子供だけ食べさせるってのも、周りから見たらよくないよね」


「……はい」


 確かに言われてみれば、子供に毒を食べさせて、横で私が治してたら無理強いしているみたいだ。本当は私の方が、被害者なのに……。


「分かりました。私も一緒に食べます」


 こうして私は、カルナちゃんと一緒に毒きのこを食べる事になった。

 そんな私の脳裏に、水辺で座る私の姿が思い浮かんだのは言うまでもない。


 家の裏に、せっかく湖があるのだからゆっくりしよう。

 私はそう強く思うのだった。


「後はお母さんとお父さんに、頷いてもらうだけ」


「そうだね」


 やっぱり、スミスさんから承諾を得るのが、カルナちゃんの覚えている手段のようです。

 これは良くない。

 いつか私も……いや、既に被害にあってしまった。


 カルナちゃんには今後、この手順で何かをやりたいと言い出すのは控えてもらおう。

 先にスミスさんだけは良くない。


「それじゃ、気を付けて帰ってね」


 席に座ったままスミスさんに見送られ、私とカルナちゃんは部屋から出る。

 そして、厨房に突撃するカルナちゃんに私は付いて行くのだった。 




 いつも読んでくださり、ありがとうございます。



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