第24話:飛び込み
クルムドウルフが来た次の日。
私とカルナちゃんは――朝から湖の周りを歩いて屋敷に戻っていた。
あの後。
倒したクルムドウルフは、メイドの二人と兵士。
そして私とカルナちゃんの五人で土を掘り、湖から少し離れた場所に埋葬した。
その墓地を朝になった今、確認してから屋敷の裏に戻っている。
「どうして、見に行くの?」
「荒らされてたりしたら、大変だからね」
倒した後ぐらい、安らかに眠ってもらいたいものだ。
浄化で倒したから、腐敗したまま蘇る事もないだろう。
「倒して終わりって、訳じゃないんだよ」
「そうなんだ」
少しずつ覚えてくれると良いかな。
私とカルナちゃんが、昨日と同じ場所に辿り着きカルナちゃんが座る。そしてすぐに用意された桶に手を入れ昨日のようにし始めた所で、屋敷を回って走って来る三人の姿を目にする。
「あの子たち……」
スミスさんの姿は見えず、子供だけで走っている。
屋敷の表にスミスさんか子供たちを送ってくれた兵士が居る可能性もなくはないけど、スミスさんの屋敷に住んでいたカルナちゃんがこっちに居る以上その可能性は殆どないだろう。
「遊びに来たぜ!」
「違うでしょ、ちゃんと理由があって森に入ったんでしょ! 誤解を招く言い方をしないで」
「そうだよ……」
相変わらず元気なアゼルに、サリスとフィリアが振り回されていた。
そんな事はどうでも良い。
「ねぇ、誰と一緒に、来たのかな?」
「誰って、誰だよ?」
アゼルが両の手の平を上に向けてフィリアの方を見る。
「私に聞かれても……」
アゼルがサリスちゃんを見ると、サリスちゃんが私の方を向き目が合った。
「えっと私たちだけで……来ました」
「やっぱり、そうだよね。誰も居ないもん」
「やっぱり、って分かってたんなら、聞かないでくれよな」
「アゼル。あんた、泳げるよね?」
「何だよ急に、まぁもちろん泳げるけどな」
自信満々に話すアゼルの腕を掴んだ。
「えっ救世主、様……?」
私は身体に少し魔力を流す。
アゼルが何かに気づき逃げようとするが、手を離す気は既になかった。
「森に子供だけで入ったら、ダメって言われてるでしょ!」
アゼルの掴んだ腕をゆっくりと引き、アゼルが私の周りを何度か走り回った後に、アゼルを湖に向かって放り投げる。
「うわぁあああああっ――」
いつもは静かな湖に、一際大きな水しぶきが巻き上がった。
「アゼル!」
「あぁっ……」
水面が波打ち、アゼルが飛び込んだ波紋が周囲に広がって行く。
サリスちゃんとフィリアちゃんが水辺に近づくも、カルナちゃんだけは座ったまま口を開いた。
「水遊び」
そう言われると、確かにそうかもしれない。
もしかして、子供には無意味だった……?
「ぶはあっ――!」
水の中から顔を出したアゼルが、片手を必死に上げ声を出す。
「何すんだよ、救世主様!」
「勝手に森に入った罰よ。昨日も、ここに魔物が現れたばかりなんだからね」
「えっ、嘘……だろ?」
アゼルが水に浮かんだまま、周囲と水の中に顔を向ける。
「もしかしたら、水の中にも居るかもね」
「勘弁してくれ」
アゼルがこちらに向かって泳ぎ始め、私は水辺に居る二人と目が合った。
「あなたたちは、泳げる?」
「いえ……私とフィリアは、泳ぎは……」
きっと嘘だろう。
前に立つサリスちゃんが視線をそらしながら答えた。
まぁ、アゼル以外を投げる気はない。
スライムの時もそうだけど、一番危なっかしいのはアゼルだ。
「はぁぁ、はぁぁ、死ぬかと思ったぜ……」
やがて陸に上がって来たアゼルが、膝に手を置き息を整えようとする。
「いつでも言ってね。あなたたちぐらいなら、まだまだ投げられるから」
まぁ鎧を着た兵士でも可能だろうけど、腕の方がね。
「アゼル、腕が痛かったら言ってね。折れたぐらいなら、治せるから」
「うん……でも、腕は問題なさそうだから……大丈夫」
「次はアゼルを、どこまで投げれるか試するから、森に入る時は覚悟してね?」
「おう……分かったぜ」
アゼルが承諾した所で、私はとやかく言うのを止めた。
「それで、何しに来たの? 本当に遊びに来たって言うなら、もっかい投げるけど」
「いえ、私たちは、森できのこを採りに来ました。家で使う物が無くなってしまい」
「サリスちゃんの家って、宿だよね? 街では買えないの?」
「街で売ってる食べ物は商人から仕入れている物もありますが、大半が農園から仕入れている物になります」
「農園じゃ、きのこは育ててねぇんだよ。というか、やってみたけど上手くいかなくて。きのこだけは、森から採ってるんだよ」
「それ、遊びに来た訳じゃないんじゃ……アゼル。ごめんね」
「そうだぜ、救世主様ったら――」
「アゼルはいつも、遊んでるでしょ、ねぇフィリア」
「あっ……うん」
そして二人の視線が、座っているカルナちゃんに向く。
「アゼルは、サボってる」
三人からかばわれる事もなく、私に言い返そうとしたアゼルは口を閉ざして苦笑いしている。
「アゼル……。たまには、手伝ってやんなさいよ」
「でも、葉っぱどかしたり、面倒じゃん。まだ湖に放り投げられてる方がマシだぜ」
そう呟いたアゼルを私は湖に放り投げ、屈んでから二人に話しかけた。
「それじゃ探そうか。私も手伝いたいから、私にも教えてくれるかな?」
「……良いんですか?」
フィリアちゃんが胸の前で手を小さく丸め、聞き返して来る。
「もちろん。カルナちゃんも、良いよね?」
「うん。サリナお姉ちゃんが良いなら、手伝う」
「救世主様だけでなく、カルナも手伝ってくれるなら、すぐに終わると思います」
「それじゃ、決まりだね」
カルナちゃんが起き上がり、私たちは森に向かおうとする。
その後ろで湖から出てきたアゼルが息を切らし、こっちに向かって歩き出した。
「待ってくれ、俺も……手伝う、から……!」