第23話:餓え
近づく程に姿が鮮明に見えて来る魔物の群れ。
クルムドウルフ。
そう名付けられた視界の先に居る魔物の毛色は黒く、長い尻尾が地面に落ちた体の影に触れている。森で遭遇すれば人を襲い食い殺すその魔物の体は――見るからにやせ細っていた。
毛がある状態にもかかわらず、骨がどこにあるのか容易に分かってしまう。
「この辺りでは見かけないので恐らくですが、北の山脈から、降りて来たものかと」
無造作に近づく私たちにクルムドウルフの一匹が気づき、すぐに群れ全体が私たちの方に向きを合わせ、鋭い牙を出し唸り声をあげる。
「山に居た獲物が、居なくなったって……事ですかね」
「申し訳ございません。私には、分かりかねます」
少し悩むも、後ろからカルナちゃんに服を掴まれた。
「……倒すの?」
魔物と私を見ながら聞いてくる。
「倒すよ」
クルムドウルフが普段いない場所に居るという事は、獲物としていた魔物か動物が何らかの原因で居なくなり獲物を探し求めているのなら、いずれ街にも行きかねない。そんな魔物を放置するという事は、誰かが怪我を負ったり犠牲になる可能性を許容するという事になる。
流石に、それは出来ない。
温厚な魔物ならともかく、この子たちクルムドウルフは人を襲う。
目の前にいる個体も痩せているとはいえ、既に人を一度でも攻撃しているのならきっと――。
「カルナちゃんは」
私が視線を横に流して、カルナちゃんに話かける。すると、集団から一歩前に出ていたクルムドウルフがためらう事なく私目掛けて駆け出した。
「危ない――」
やっぱり生かしてはおけない。
目をそらしただけで襲って来るんだから、子供が遭遇してしまったら高確率で襲われてしまう。
怯えるな背を向けて逃げるなと言うのは簡単だけど、冷静に出来るかは別問題になる。
手を前に出して私は、前方に淡い光を放った。
スライムと違いこの子たちには、浄化魔法が効く。
――地を蹴って飛び上がったクルムドウルフに光が触れると、脱力した体は放たれた魔力の勢いで横に流れ、地面に滑り込む様にして倒れた。
本来であれば、浄化だけで倒しきる聖女はいない。
魔物一体に対して消費する、魔力量が大きすぎるからだ。
グール数体を倒すよりも、この大きさの魔物一体を倒す方が魔力を消耗してしまう。
「カルナちゃん、何も見せられないや」
威力を弱めて足止めも出来る事を見せるにしても、結局は私が倒すのだから追い打ちで浄化魔法をかけるようなものだ。そんな事はしたくない。
私はそのまま、放出する魔力の範囲と総量を増やし、少し離れた場所に居る五体のクルムドウルフに向かって浄化魔法を放つ。
先ほどよりも強い光が湖の水面を輝かせ、視界を白く染める。やがて光がゆっくりと弱まり、収まると、クルムドウルフは静かに横たわっていた。
「お疲れ様です」
メイドが淡々と言葉を発する。
――そこにはスライムと戦った時の様な痕跡はなく、魔物の亡骸だけが残されていた。