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第2話:王都から出ます


 殆ど何もないと言っていい量の荷物を纏めた私は、王都から出る馬車の近くに居た。

 どれに乗ろうか迷っていたのだ。


 帝国は行った事がなく、王女と入れ替えるみたいで気が進まない。だからと言って、他国に行くのもやはり敷居が高く、国から出た事がない私は行き場を決められないでいた。


「お嬢さん、良かったら一緒にどうだい? 道中――」


「そういうのは結構です」


 ナンパ(もど)きの冒険者をあしらい、私は馬車を見て回る。

 その中の一つに、おかしな張り紙をしている馬車を見つけた。


 普通は、冒険者ギルドなどの掲示板に貼られているタイプの紙だ。


 誰も、引き受けてくれなかったのだろう。

 そして最後の最後まで諦めきれずに馬車に貼った。

 そんな所だろうと勝手に考えながら、張り紙の内容に目を通した。


『水源付近に現れたグール退治・求む!』


 そう書かれていた内容を目にして、私は馬車の荷台を覗き込んだ。

 誰も居ない。

 歩いて馬車の前に行くと、項垂れた御者なのか馬車の持ち主なのか分からない人物が居た。


「あの〜」


 呼びかけてみるも、返事は返って来ない。


「すみません、張り紙について……」


「張り紙!?」


 勢い良く姿勢を上げた男性が、私の方を向く。

 綺麗な青い瞳に、長い茶色の髪がなびき、男の人とは思えない程に整った綺麗な顔立ちをしていた。

 リオン王子とは違い、かなり大人びた印象を受ける。


「張り紙がどうしたの!? 君のお父さんとか、お兄さんとかが興味あるって!?」


 一瞬にして顔が近づいて来る。

 眼の前まで迫り、風が吹けば前髪が触れそうな距離だ。


「いえ、私は独り身ですし、興味あるのは私の方なんですけど、詳しくお聞かせ願えますか?」


「ん? ……君が?」


「はい、私が」


 スミスと名乗ったこの男性は、私を隣に座らせ直ぐに馬車を走らせ始めた。

 行き先のなかった私としては問題ないのだけれど、多少強引過ぎる。

 それほど、困っていたのだろうか。


「それで、具体的にはどうなってるんですか?」


「一週間程前かな、水源にグールが住みつき始めてしまってね。街の皆で何度か向かったんだけど、相手がグールだから聖水が尽きれば倒せなくなるし、元々兵が多くない我が領では、完全には倒せなかったんだ」


 あれ、この人今。

 我が領とか言わなかった? 気の所為だよね。


「それで王都に、依頼を出しに来たんですね」


「まぁ見ての通り結果は、誰も引き受けてくれなかったけど」


 グール退治は危険が大きいというよりは、面倒、汚い、報酬が安いの三セットで嫌われている。

 だから王都近辺で現れた際は国から教会に連絡が届き、聖女が引き受けていた。


「教会には、頼まなかったんですか?」


「勿論頼んだよ。でも、言った時が悪かったのかな、リオン王子に突き返されてね。自分の領土の問題も片付けられないのか。って言われてね」


 やっぱり、この人貴族だ。

 って、あの王子、引き受けてあげれば良いのに……。

 聖女なんて、今は手が余って暇を持て余してる人が何人かは居る。

 一人ぐらい王都から出して、グール退治に向けた所で支障はない。


「それは、災難でしたね」


 あれ、私の気のせいかな。

 スミス・バルタザールという、伯爵様が居た事を思い出す。


「その……間違ってたらすみません。貴方は領地を持つ、伯爵様ですよね?」


 慣れた様子で馬車を走らせながら、スミスさんが私の方を見て微笑んだ。


「スミスで良いから、そんなに畏まらないで。それよりも本当に大丈夫なの? グールって、かなり強い浄化魔法じゃないと倒せないから、一般人程度の魔法じゃ厳しいと思うけど」


「そこは大丈夫です。私に、任せて下さい」



 *



 スミス伯爵に案内された水源。

 そこは少し前までは綺麗な水が流れていたと聞くが、今はすっかり水は濁り、周囲にはグールが寝転がっている。荒れ地にある水溜りも酷い状態だった。


「本当に、一人で大丈夫なのか?」


「はい、ご心配ありがとうございます」


 スミスさんは他の兵の方々と一緒に私を守ろうと、全然前に行かせてくれなかった。

 私はやっと一人で木陰から出てグール達に近づいて行く。


「ヴァァ゙ァ゙ー」


 私に気づいたグールが唸り声を上げ、他のグールも私の存在に気づき始める。


 そして私は魔力を周囲に放ちながら、ゆっくりと呼吸を整えた。


「全てを浄化する、神の光よ。我が身を守り、魔を遠ざけたまえ」


 前にかざした手から光が前方に広がり、瞬く間にグールだけでなく水源を包みこんでいく。

 光に晒されたグールの体が塵の様に崩壊し、濁っていた水が一瞬にして透明な色を取り戻した。


「これは……まさか、聖女の……」


 驚いているスミスさんに浄化が終わった事を伝え、私は水源に近づく。

 透き通る様な綺麗な水は、水底まで目視で見る事が出来る状態になっている。


「綺麗で、魔力が通りやすい水だな……」


 王国の湖は魔力の通りが悪く、今の様に広範囲に浄化魔法を施しても聖属性の魔力を水が吸収せずに、周囲に霧散してしまう。その為、浄化しようと思ったら長い時間水に手をつけて、ゆっくりと浄化する必要がある。厄介な事、極まりない。

 そんな事を思い出していると、後ろからスミスさんに話しかけられる。


「君はやっぱり、あの……」


「そうですね。恐らく、スミスさんが思い浮かべてる人物で間違いないかと」


「これ程の力、間違う人の方が少ないよ。でも確か、リオン王子と……」


 スミスさんがその先を口にする事はなかった。

 別に、私が睨んだとか、そういう事はしていない。

 勝手に察してくれたのだ。


「グール退治だけでなく、水の浄化まで、どうお礼をしたら……」


「でしたら一つだけ、お願いしたい事が」


「僕に出来る事だったら、可能な限り聞き入れよう」


「水の浄化作業を引き続き行うので、私を街に住まわせて下さい」


 驚いた様な表情をスミスさんが見せる。


「……それだけで、良いのか? そんなのこちらからお願いしたいぐらいだ」


「はい。私は静かな場所があれば、それで良いですから」


 こうして私の、伯爵領での生活が始まった。



※本日、第4話まで投稿予定です。


・ブックマークしてお待ちいただけると、嬉しいです。


 ――海月花夜――

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