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第18話:出来る事


 途中、農園に用水路の水を増やした事を報告してから、私とアゼルはギルドに訪れた。

 ギルドの扉が大きな音を立てて開く中、静かに声を出す。


「戻って……来ました」


 誰にも聞こえてないだろうと思っていたが、室内は静まり返り外から覗き込んでいたアゼルと私に視線が集まっていた。


「救世主様だ」

「帰って来たぞ!」


 ギルド内が慌ただしくなる中、受付の周りで何人かの冒険者と話をしていたスミスさんが、入って来た私とアゼルの方を向く。


「無事な姿が見れて安心したよ。本当に良かった」


「伯爵様、心配し過ぎだって。救世主様が居るんだから、大丈夫に決まってるだろ。水源に居たスライムも救世主様が倒したんだからな」


 威勢よくアゼルがスミスさんに報告する。

 けれど、その内容は明らかに一部違っていた。


 私が倒した事にされてる?

 何で……。

 普通、こういう子供は自分の手柄だと騒ぐと思っていた。


「そうなのかい? スライムに浄化魔法は効かないから、倒すのに……そうか、身体強化を使ったんだね」


「はい。でも、運が良かっただけなので、出来ればスライム退治は遠慮させて下さい」


「大丈夫だよ。スライムぐらいなら、子供とかでない限り、大抵の冒険者は倒せるからね。君にその依頼が回って来る事は今のところ無いかな」


 スミスさんから顔をそらしたアゼルが、気まずそうな表情を浮かべている。 

 もしかしなくても、勝手にスライムと戦っていると顔が言っていた。


「アゼル」


「なっ何だよ、救世主様。きゅ急に、驚かせるんじゃねぇよ」


 私はその場で屈み、アゼルと目線を合わせて話す。


「倒した報酬は、ちゃんと二匹分で良いんだよね?」


「あ……うん。それで大丈夫だけど。良いのか?」


「ちゃんと働いた分は、もらわないとだもんね」


 少し驚いた表情を見せるアゼルの頭に軽く手を置き、わしゃわしゃっとした私はスミスさんが居る所に向かって歩くと、後ろから「なでんな!」と呟くアゼルの声が聞こえていた。


「アゼルとは、上手くやれているみたいだね」


「そう見えるなら、そうかもしれません。スライムを倒した仲ですから」


 スライムに突撃したりと、素直には喜べない。

 あの時、私がどれほどひやひやした事か。


「それなら良いんだ。助かったよ」


「いえ、あれぐらい任せて下さい」


 少し腕の折れる可能性もあったが、きっと誤差だ。


「それよりもスミスさん、調査の方はどうなりそうですか?」


「それなんだが、今は行けそうにないんだ」


「どうしてですか?」


「ギルドマスターの不在に加え、有力なパーティーも依頼で街から出払っていてね。他のパーティーを複数束ねて向かうにしても、この時期はまだ山が荒れやすいんだ。だから数日様子を見てから、調査に向かう人たちを集める事になると思う」


「そうですか……」


 数日……いや、一、二週間なら大丈夫かな。

 最悪井戸の方も悪化しても、私がどうにかすれば良い。


「それに、街から冒険者を減らすには、タイミングが良くなくてね」


「何かあったんですか?」


「実は、周辺の領土で兵が不自然に動いててね。まぁ正直、何も起こらないとは思うけど。色々とごたごたしていて申し訳ないね」


「いえ、そういう事でしたら、私は井戸の調査を終えますね」


 今の私に出来る事を、一つでも片づけていこう。


「お願い出来るかな。それが終わったら、暫くは屋敷でゆっくりしていてもらえると助かるよ」


 スミスさんが少し浮かない表情で頷くも、私のやるべき事は決まった。

 

「分かりました。井戸の調査は任せて下さいスミスさん。良し、アゼル。井戸の調査に……」


 振り向いた私は確かにアゼルの姿を目にするも、そのすぐ隣に、小柄な人影を三つ捉える。


「サリナお姉ちゃん。井戸調査なら、私も手伝う。道案内」


 そして、四人の中から前に出て来たカルナちゃんが、少し不満そうな顔を見せるのだった。



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