第17話:ヒヤヒヤ
二匹のスライムの内、片方が飛び跳ねて攻撃を避ける。
アゼルがもう一匹に急いで攻撃し核を捉えるも、避けたスライムがアゼルに向かって飛んでいた。
「アゼル後ろ!」
振り向いたアゼルがとっさに手を出し、枝を持っていた手にスライムが付く。
「うわぁあっ――このっ!」
それを振り払おうとアゼルが腕を振るうも、簡単には取れない。
むしろ、ゆっくりと肩の方に向かって進んでいた。
「アゼル、動かないで!」
傍に近づいた私が大きな声でアゼルを呼び、アゼルが嫌そうな顔をして動きを止める。
「さっさと離れてよね」
スライムを払うように手を振るっても、スライムの一部が飛び散るだけで、根本的に本体が離れる事はなかった。魔核がある部分を狙っても、スライムの体が流動的に動き核が移動して残ってしまう。
「ぁああッ――腕がヒリヒリしてる! 救世主様早く!」
そんな事言われても、相手はあのスライムだ。
私に出来る事は限られている。
少しだけ小さくなったスライムが更に登り、アゼルの手首に残っていた体が肩の方へと寄った事で、枝を持つ手が空気に触れる。
「アゼル、枝貸して!」
「ちょっ救世主様、何するつもりだよ!?」
アゼルから枝を奪い取り、横を向いていたアゼルの腕を下に向けていた。
「動かないでよ、動くとアゼルの腕か枝が折れるから――」
枝を含めた右腕に魔力を流し、縦に振ろうと構える。
アゼルが腕を下ろした事で、スライムは腕と身体に挟まれると思ったのか外側に魔核を移動させていた。だから私は、その部分を狙って枝と右手に力を入れていた。
「待って待って! あんなの食らったら、俺の腕が吹っ飛ぶって――!」
私が身体強化で木を蹴り飛ばした事を思い出したのか、アゼルが必死に止めようとする。けれど、これ以上スライムが肩より上に行けば、それこそ打つ手がなくなってしまう。
「大丈夫だから、信じなさい。それに骨ぐらいならくっつけてあげるから、男の子なんだから黙ってて」
「そんな言っても、痛いもんは痛てぇんだからな!」
アゼルを無視して更に腕を振り上げると、アゼルはスライムから顔を背けた。
「動かないでよ」
狙いを定め、枝を持つ腕を振り下ろした。
勢いよく下に流れた枝がしなりながらも、空気を切り裂き、スライムの体に触れる。
スライムの体が形を変えるよりも先に枝が動き、体を地面に向かって押し退け、振るった勢いでその体と魔核を地面に叩きつけていた。
枝の先が向いていた場所に振るった勢いが押し当てられ、地面から草がはじけ飛び、何か重たい物でも引きずったかの様に地面から土肌が現れる。
――そして、アゼルの足元には原型をとどめていないスライムが、魔核を失い溶け始めていた。
「良し、どうにかなったね」
「はぁぁ、怖ぇえ死ぬかと思ったぜ……」
息を吐き出したアゼルが尻もちをついて、その場に座っていた。
「良かったじゃん、何事もなく」
確かに腕に当たっていたら……まぁその時はその時だ。
勝手にスライムに立ち向かって行ったアゼルが悪い。
「次からは、勝手に攻撃しないでね。まぁ、折れても治すから、それで良いなら良いんだけどね」
どの道、腕が折れても治して帰すのだから問題はない。
そんな状態で帰ってしまえば、本当に怪我をしたのかは、服がボロボロでもない限りは判断がつかないのだから。
「救世主様……俺、次からは気を付けるよ」
「よろしい。それであの板を取り外せば、良いんだよね?」
「うん。そしたら、水の量が増えるから、暫くは大丈夫」
疲れ切った様子のアゼルをそのまま座らせ、私は用水路に流れる水の入口に近づいた。
木の枠組みが用意され、その半分を塞ぐ形で板がはめ込まれている。
それを取り外すと、瞬く間に用水路に流れていた水の量が増えていった。
「これで大丈夫かな。よし、帰ろっか」
まだ起き上がれないアゼルを抱えようとするも、アゼルが拒んだので大人しく待つ事にする。
別に急がなくても良いか。
無理に急ぐ必要もないと考えた私は、アゼルが回復するのを待ってから街に戻るのだった。