第16話:スライム
「アゼル。水源は、どの辺りにあるの?」
ゆっくりと森の中を歩く私とアゼルは、周囲の物音や異臭などに気を配り、慎重に二人で木々の間を通り進んでいた。
その直ぐ近くを、農園に向かって流れる水が勢い良く通っている。
「この先にある。いつも一人だから、どの辺りって言われても……森の中? 近くに大きな木がある訳でもないしさ。あの北の方にある山脈なら、使われていない小さな川の先に洞窟があったりして、目印あるんだけどさ」
「もしかしてアゼル、ベラさんたちに内緒で山脈の方にも、行ってるんだ?」
「な、なっ何言ってるんだよ。そんな訳、ねぇだろ!」
やはりアゼルは、嘘をつくのが下手である。
良い子だ。
「冗談だよ、聞かなかった事にしとくから。次からは、一人で行かないでよ。私も混ぜて」
「救世主様も行きたいのか?」
「う〜ん。のんびりしてたいけど、住んでる周りがどんな所かは知っておきたい感じかな」
「だったら、街覚えんのが先じゃないか?」
「本当は今日も、街の井戸調査だったんだからね。農園が困ってるって言うから、朝から農園に行ってるんだよ」
「分かってるよ……。それに関しちゃその……助けてくれて、ありがとう……」
照れくさそうにアゼルが礼を言ってくれる。
顔をそらし、目を合わせようとすらしてくれない。
「まだ、解決はしてないけどね。一緒に頑張ろっか」
「うん」
私とアゼルは、更に森の奥へと入って行った。
そして近くに魔物の気配はなく、そのまま目的の場所にたどり着く。
――そこは少し小さな湧き水が溜まった場所で、今も中央の方からボコボコと水が湧き上がり、水面を揺らすとても綺麗な泉だった。
その泉から農園に向かって流れる箇所に板が差し込まれ、流れる水量を調整している。
「あれを取れば、終わりだ」
そう言って飛び出そうとしたアゼルの服を掴み、木陰の中に押し留めた。
「アゼル待って」
「何で」
自分で私に聞き返したアゼルだったが、板の近くに魔物が居る事に気づく。
まるっとした青い液体状の生物。
――スライムだ。
それも三匹も居る。
「何だよ、スライムじゃんか」
「何だって、スライムだよ!? スライムなんだからね!?」
「もしかして救世主様……スライムも、倒せねぇのか?」
アゼルが失望の眼差しを向けて来る。
お願いだから、そんな目で見ないで。
「スライムっての、窒息。息が出来なくなるかもだから、危険なんだよ?」
「それくらい知ってるよ。でも、核を壊せば、終わりじゃん。てか、魔物なんだから救世主様の場合、えいっ。ってやって終わりじゃねぇのか?」
問われた私は、少し言いよどんでしまう。
「それがね、アゼル。青いスライムは浄化出来ないの」
「えっ何で!? だって魔物じゃん」
「そうなんだけど。浄化魔法が、効かないんだよね」
私だけでなく聖女は、青いスライムを浄化出来ない。
きっと水を出す青いスライムの事を敵として捉えないのだろう。
スライムもスライムで、私たちに敵意がある訳ではない。
あいつらは周囲にある草とかを溶かし、水すらも吸収して育ち、勝手に水を生み出すのが青いスライムだ。人に危害を与える場合だって、殆どが外部からの攻撃に対して反射的に動いているだけか、とりあえず近くで動いていた物体に向かっただけに過ぎない。
「だったら、殴れば良いじゃん」
「核に当たんないで、プニュってするだよ?」
「それなら、枝で突けば良いじゃん」
アゼルが簡単そうに言う。
何も私だって倒せない訳じゃない。
一匹倒すのに、周囲の地形が少し荒れるけど。
「とにかく、ここは俺の出番だな」
「何がとにかくなの!? ちょっと子供が前に出るとか、なしでしょ!」
アゼルは私の制止を聞かずに、前に出て行く。
そして近づいて行くアゼルという動く物体に、青いスライム達が気づいた。
仕方ない。
最悪の場合は、身体強化して吹き飛ばそう。
私は静かに心の中で、決意を固めるのだった。
――しかし、そんな心配をよそに、走り出したアゼルが木の枝を拾ってスライムに突き進む。その勢いは止まるどころか増し、間合いやフェイントなど一切考えていない動きだった。
スライム相手に何をと、思うと人も居るかもしれないけど、本当にスライムは厄介でしかない。スライムとその辺の魔物なら、魔物の方がマシだ。
浄化が効かないという意味では、天使に近しい存在と変わらない手強さをしている事になる。
「うぉらららら!」
そんな事を考えている間にも、アゼルが一匹のスライムに近づき手に持った枝を、勢いよく前に突き出した。スライムに向かって突き進んだ枝先がスライムの魔核に当たり、亀裂が入っても更に進む枝が魔核を砕いてしまう。
「嘘でしょ……」
私が手こずるスライムを、そんな簡単に……。
眼の前で一体のスライムが液状になって地面に溶け出し、小さくなって魔核と体の一部だけが残される。
「もういっちょ!」
そしてアゼルは元気に声を出し、残り二匹のスライムを攻撃するのだった。




