第15話:身体強化
「試して、みましょうか?」
「本当に大丈夫? 怪我とかされても……」
「そうだぜ、救世主様! 救世主様がすげぇのは分かるから、そんな無理しなくて良いって!」
何故だか凄く二人に心配されてしまう。
「大丈夫だと、思いますよ?」
私自身もここ最近は、魔力を纏って身体強化した覚えがない。
それだけのんびり過ごしていたという事でもあるのだが、良くも悪くも劣っている筈だ。
「ベラさん、倒しても良い木ってありますか?」
管理されている農園の周りには、沢山の木々がある。
それで試してみれば良いだろう。
「農園の方に倒れなきゃ、木の一本ぐらい問題ないけど、本当にやるのかい?」
ベラさんにまで心配されてしまった。
それだけ私が、弱そうに見えているのなら仕方ない。
この機会に、改めてもらおう。
別にムキムキのマッチョ認定されたい訳でも、ゴリラと言われたい訳でもない。ただ、今回みたいにこの街が困っている時に、私が役に立てるのかも分からないまま守られたくはなかった。
「一度見てもらって、駄目そうだったら遠慮なく言って下さい。大人しく引きこもるので」
適材適所。
弱いから浄化だけしとけと言われるのなら、それはそれで全うするだけだ。
前衛は戦士の役目で、私みたいな奴はきっと後衛に居るのが基本なのだろう。
「分かった。無理だけはしないでくれよ」
スミスさんからの承諾を得て、私たちは農園の直ぐ近くにある木に近づいた。
――その木は、例え倒れたとしても農園には届かない距離にあり、幹の厚みが成人男性の胴体周りと殆ど変わらない大きさをしている。
「本当にこの木で良いの? というか何をするつもりなんだい……」
周りの木々も殆ど同じ様なサイズをしており、他を選んでも意味がある様には思えなかった。
「ちょっと、倒そうかと」
流石にあと二回り以上、幹が大きかったら自信ないけど、この木なら大丈夫そう。
「少し離れて、皆で集まっていて下さい」
「こっちの事は、気にしないで良いよ」
振り向くと、二人の兵士の後ろに皆が立ち、心配そうに私を見ていた。
前に立つ二人は、とても頼もしそうに身構えている。
「分かりました」
子供たちを心配しなくて良くなった私は、気兼ねなく前を向いた。
いつもは手から放出している魔力を身体全体に、ゆっくりと纏わせていく。
久しぶりだから、丁寧にやらなきゃ。
――背骨を含む下半身により多くの魔力を集め、左右の足に魔力を流しつま先に集める。
「よし」
魔力が整った私は、身体を斜めにさせた。
ボールを蹴る様に身体を片側に倒し重心を寄せ、曲げた右足を木に向かって振るう――。
まるで木刀を銃弾が貫く様に大きな音と共に、木の一部が吹き飛ばされ――、
一瞬、木が宙に浮いたのだった。
へし折れて勢いよく倒れるでもない。
だるま落としされたみたいに、木の上の部分だけが宙に浮いてしまう。
「うえぇえ!?」
「ぃ――」
「すごい」
「「「「ッ――!?」」」」
そして支えを失い落下した上部の木が根本と合わさる事もなくバランスを崩し、音を立てながら倒れ土煙を巻き上げる。
「ごほっ、ごほっ……すみません。埃っぽくなっちゃって」
手で舞い上がった土煙を払いながら、私は皆の方に近づいて行く。
そして段々視界が戻ると共に皆の顔を見えてくるが、全員が驚いたまま茫然とし、前に立っていた二人も身構えていた事を忘れて立ち尽くしていた。
「すげぇ……これが、救世主様の力って奴なのか――」
「ここまでとは……」
アゼルとスミスさんの反応を見ていたら聞かなくても、何となく分かってしまう。
どうやら私は――少し、やり過ぎてしまったみたいです。




