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第10話:夕暮れ


 もしかして、カルナちゃんってスミスさんの子供?

 いや……にしては、扱いが他の子供と変わらないというか、少し違うというか。

 でも、少し違うならやっぱり、子供って線は残されてるよね……。


 私がそんな事を考えている内に屋敷の正面玄関が開き、中からスミスさんが出て来る。


「二人ともお疲れ様、調査の方は順調かい?」


「はい。明日には、終わると思います」


「それは良かった。カルナは……何があったの?」


 私の背中で休んでいたカルナちゃんに、スミスさんが目を向けた。


「私みたいに井戸の調査をしようとして、少し魔力切れになっただけですので、安心してください」


「迷惑かけたみたいだね、ごめんね」


「違いますよスミスさん、道案内してくれたので迷惑だなんて、これっぽっちも思ってませんよ。カルナちゃん、そろそろ歩ける?」


「うん。ありがとう、サリナお姉ちゃん」


 私が屈むと、カルナちゃんがゆっくりと降りて、お礼を言ってからスミスさんの近くに行く。

 やっぱり、親子なの!? 手を繋ぐのか見ていたが、そんな事は起きなかった。


「それなら良かったよ。カルナも、道案内お疲れ様」


 スミスさんが、カルナちゃんの頭に手を置いて褒めている。

 ……もう分からない。


「あの……スミスさん? 一つ聞いて良いですか?」


「何かな」


「カルナちゃんって、スミスさんのお子さんですか?」


 スミスさんが目を丸くした後に笑い出し、カルナちゃんが首を傾げた。


「違うよ。カルナは屋敷に、住み込みで働いている料理番夫婦の子供なんだ。だから、帰る場所はここって訳なんだよ。それに僕はまだ独身だよ」


 なるほど。

 料理人の子供なのか、カルナちゃんは。

 これで、謎が解けた。


「そうだったんですね、すみません。私てっきり、スミスさんの子供かと思って……本当にすみません」


 両手を揃え頭を下げる。

 やってしまった……。


「そんな気にしないで良いよ。だってこの街に住む皆は、家族みたいなものだからね」


 街の人が家族か。

 やっぱりスミスさんは凄いな。

 懐が深すぎて、頼もしいというより吸い込まれそうだ。


「本当にすみません。……でも、良いですね。……家族ですか」 


「もちろん君も、その一人だからね」


「え――」


 少し俯いていた私は、驚きながら顔を上げた。


「えって、君も僕の街に住むんでしょ?」


「そうですけど……森の中です」


「だったら、あの場所まで街を広げないとな」


 私が冗談っぽく言うと、スミスさんが苦笑し冗談で返してくれる。

 この人なら、本当にやりかねない。

 私はそう思っていた。


「余り、騒がしい感じにはしないで下さいよ。あの感じ、気に入りそうなので」


 まだ、全然滞在しては居ないけど、悪くはなさそうだった。

 そうだ、早く帰らないと。

 一応森を通るんだから――。


「そろそろ暗くなるので、私、森に戻りますね」


「だったら、護衛をつけさせるよ」


 スミスさんが合図を送ると、屋敷の中から二人の兵士が出て来る。

 きっと玄関脇で待機していたのだろう。

 出て来るまでが、余りにも早かった。


「良いですよ、まだギリギリ明るいですし。私、近づいて来る魔物ぐらいなら、分かりますから」


「いいや、駄目だ。この二人は何が何でも、同行させる。特に、今日一回行ったばかりの君が、森で迷わない保証もないじゃないか」


 それを言われてしまえば、私としては言い返せない。

 方向音痴ではないが、森だと話が変わってくる。

 迷っても辿り着ける自信はあるけど、それでスミスさんが納得してくれる筈もなさそうだ。


「分かりました。それでは、お二人とも。すみませんが、お願いします」


「お任せ下さい。しっかりと、屋敷までお連れします」

「途中、魔物が現れても我々がお守りしますので、ご安心ください」


 流石スミスさんの部下だ。

 私が知っている王都の兵士よりも、安心感がある。


「はい、お願いします」


「それと、言い忘れてたけど、屋敷に残して来た二人はとても頼りになるから、何かあったらあの二人に言うと良いよ」


「ん?」


 スミスさんに言われ、私は昼間に同行していた二人のメイドを思い出す。

 ――あの人たち、私のメイドとして屋敷についてたのか。てっきり、掃除や点検だけして、今日で帰る人たちだと思っていた。


「女性一人だと心配だからね。それに彼女たちは、僕の遠い血縁でもあるから安心して」


 何の話なのかハッキリとは分からなかったけど、きっとどこかのスパイとか、スミスさん狙いのメイドさんとか、そういう類の話なんだと勝手に解釈した。


「分かりました。色々とありがとうございます。それでは失礼させていただきます」


「気を付けて」


「サリナお姉ちゃん。また明日」


 スミスさんの隣に居るカルナちゃんが、控えめに手の平を私に向けてくる。


「カルナちゃん、またね」


 私は少しだけ手を振ってから、暗くなる前に歩き出した。


 ――兵士二人を連れて歩く、夕暮れの街。

 明日にはこれが噂になっているのだろうと、私は変な事を心配するのだった。



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