第1話:婚約破棄
※本日第4話まで投稿予定です。
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「君との婚約は今、この場で破棄させてもらう!」
広く綺麗な湖を前にして、私はリオン王子にハッキリと婚約破棄を宣言された。
混乱しかけそうな自分をどうにか落ち着かせ、静かに息を整えてから聞き返した。
「正気ですか?」
けれど、聞き返した事が気に入らなかったのか、誰にでも笑顔を見せる王子が、私に見下す様な冷たい視線を向けていた。
「分からないのか? 自分が今、何をしてるか考えてみろ! このお飾りの聖女が!」
「今ですか?」
言われた私は直ぐに自分の状態を確認する。
湖の水辺に座って、手を水に触れさせて水の浄化を行っている。
うん、ちゃんと聖女の仕事だ。
この国の飲水を確保しているのだから、最優先事項だと思う。聖女が水源の水を浄化しなければ、国民全員に影響してしまう。
「仕事してますけど?」
元々この湖は、とても人が飲む水質などではなかった為、私がこの仕事を行うまでは体調不良や倒れる人が街に溢れ返り、聖女達はその手当に追われていた。その原因を解決したのだから感謝される事はあっても、文句を言われる理由が分からない。
「どこがだ! 毎日毎日湖に座っては時間を潰し、夜になると帰って休むだけだ。これの何処が聖女と言うんだ!」
この人だけは違った。
目の前のこの人だけは、私の仕事を認めようとしない。
「ただ涼しい所に居たい、だけだろ!」
その言葉でようやく理解する。
王子は私が浄化にかかる時間や、毎日行う事の重要性を分かっていないのだ。
そもそもこの世界の人に、菌類など目に見えない物を理解してもらう事が無理だったのかもしれない。
私、サリナは、元々は日本人だ。
大学を出て社畜をしていたただの社会人だったけれど、それでもこの世界の人よりは知識がある。だから転生した私は、人の手当だけでなく水の浄化を行える事に気づいてからは率先して行っていた。その結果として、聖女になった私は王様に直接お願いして今の作業を日々行っている。
そもそも他の聖女が、この膨大な水を浄化出来る訳もなく、私以外は今も怪我人の手当などをしているが、体調不良を訴える人が減った今、聖女の手は余っている
「貴方はまだそんな事を……」
「なに? 貴様、王子に向かってなんて口答えだ! ただの平民上がりのお飾り聖女が! 貴様との婚約は破棄させてもらう!」
私の中で何かが、静かに崩れ落ちた。
「分かりました……。それで、陛下にはなんてお伝えに?」
「それなら問題ない。身分の低い貴様とは違い、帝国の第四王女であるイルミナが聖女となった事で、俺はイルミナとの結婚が既に決まった。父上も、帝国との関係を考え、既に了承している」
「そうですか……」
私が宮廷を離れ、毎日湖に居る間にそんなに事になっているとは思いもしなかった。
「本当によろしいんですか? 湖の浄化作業は誰が?」
「貴様に出来る事が、帝国の聖女や他の者に出来ない訳がないだろう。分かったら、直ぐに失せたらどうだ? お飾りの聖女様」
もう何を言っても、駄目だ。
私の言う事なんて聞く気がないのだろう。
「それでは、現時点をもって湖の浄化作業を終了します」
「ふん、水遊びご苦労」
「失礼します。リオン王子、今までありがとうございました」
そう言って私は逃げる様にその場を立ち去る。
途中振り返ると、リオン王子は一人で湖を眺めていた。
きっと私の姿なんて、見たくもないのだろう。
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――海月花夜より――