6 作戦会議
最初に言葉を発したのはビーダマだった。
「まずですね、ゲームの世界ってステータスとかウインドって普通有るじゃないですか?」
リアル過ぎて忘れていたが確かに、と思いすぐ[ステータス、ウインド]と言葉に出したが何も起こらない。
「そう、何も起こらないんですよ、寝る前に散々試したけど。」
そう言って力無く笑うビーダマ。
「それだと、自分の状態は自分自身しか分からないでござるな?」
「せやな、レベルアップとかも無さそうやな、流石に狼倒してレベルアップせーへんとか有りえへんやろ。」
ミステリークエストにはレベルやスキルがあった気はするが、そこはゲームとしてのバランスだったのか?
全然分からないが、分かってるのはここがリアルだと言うことだけだ、実際村に着くまでの喉の渇きはヤバかったし、棒の食い込んだ肩は今でも少し痛い。
「それでですね、普通ダンジョンって周囲より難易度上がりますよね?僕達には早過ぎる気がしませんか?」
「確かに、あと数日なら宿にも泊まれるでござるし、急いでこの穴に入らなくても良さそうでござる。」
「稼ぐだけならまだ林で良いかもな、長い棒から槍にパワーアップもしたし」
「そうですね、僕等は慎重に行動しましょうか?何せ全員前衛ですから怪我1つでも致命的になり得ますし。」
俺達の方針は決まった、形式上リーダーも決めた、俺達のリーダーはビーダマだ。
俺もビーダマがリーダーで賛成だ、一番社交的で慎重でもある、適任だ、二人以上の賛成が得られたらそれは決定となる事にした。
毎回全員の意見が合うなんて絶対に無いからだ、意見が真っ二つになったら保留か、改めて話し合う事にした。
戦闘時は俺がリーダーに変わる事になった、指示が良かったと言われ少し照れた、他人の評価とか意味不明と思っていたが、何だ、以外と悪くない。
女性がお荷物とかは絶対に無い、女性は女性で男と比べて気付ける事や、気を回す事も出来るだろう。
しかし悪い事も出てくるだろう、毎回決まった中で行動するのだ、トラブルに繫がる事は絶対にある、恋愛感情が生まれることだってあるはすだ、リアルに生死が迫れば吊り橋効果だってとんでもないだろう。
良い所を見せようと通常より力を発揮出来る場合があっても、逆に空回りし過ぎる可能性だってある、そしてそれは俺達にとって致命的だ。
あれ?男4人パーティーって実は理想的だったりする?いやクソだ、こんな世界がクソ過ぎるんだよおぉぉぉ!
俺達はダンジョンに入らずあのハーレムパーティーが無事帰って来るのを確認するまで挑戦するのは止める事にした、まだ朝なので周囲を探索しながら出会ったスライムを倒しつつ日が暮れるまで狩って宿に戻った。
89Bだった金は今日も風呂に入ったので残り61Bになった、おばちゃんに弁当は頼めるか聞いたらおにぎり位なら4人で2Bで作ってくれるというので明日は頼む事にした。
結局ハーレムパーティーは今日は戻って来なかったようだ、姿が見えないだけではない、一切音もしないからだ。
今日は俺達以外誰も泊まってないのかも知れない。
宿代を稼げなければ野宿しかない、そしてそれは俺達は狼を倒したから稼げたが、魔石だけで稼げたのは2日で30Bだ、今日もスライムを数匹倒したから魔石は増えたがまだ換金していない、替えた所で2〜3Bがやっとだろう小さい魔石だし。
冒険者ギルドでもあればお使いクエストなんかで稼げたのかも知れないが、それもない、マジクソゲーだわ!
明日も飯を食ってから出るので起きるのは今日より少し遅くても良いだろう。大して疲れがなかったのもあり、今日は眠れなかった。
無駄にアレコレ考えて頭の中で無い物ねだりもした、ウーンこのミステリークエストの目的って何だっけな?魔王とか倒す目的だったか?ミステリー[神秘とか不思議]クエスト[探求や冒険]そんな意味だったよな…。
「不思議な冒険ね。そのままだな、ハハッ」
全員揃って朝ご飯を食べている、今日の行き先はまた林だ、今回は前回と違って水筒が4つと、2つのおにぎりを4人とも持って外に出る。
道中遭遇したスライムは其々が適当に片付けた、スライムは魔石を落として消えていく、それを拾いつつドンドン進む、レベルアップとか無いけど体力が多少付いた気はしている、最初に比べたら足取りは軽い、荷物を持っているのにだ。
見えない所でレベルアップとかしてるのか?単純に慣れなのか、きっと慣れなんだろう。
継続は力なのだから、人間は同じ事をしていれば身体が慣れてくる、腕立て伏せをしていてもそうだ、ある程度の歳になれば、それはまた違う話になるんだろうが、若い内はドンドン回数も増えてくる。
「拙者達動けるようになってござるな」
「ジャッキーも思ってたか、俺もそう感じていた。」
「僕も何だか足がスムーズに動きますね」
「ワイもやで!」
この辺は気を抜いても良いだろう、ずっと気を張ると疲れるからな。
俺達は雑談と、今回も狼狩れるといいな等の話をして進む、狼を狩れれば生活が楽になる。
予定より早くに丘の頂上に着く、既に林は見えていた、入口で少し休憩を挟む、水を飲み喉の渇きを潤すと、今回の目的と撤退条件を決める。
「今回も狼を狩るのがベストでしょうね、なので目標は狼です、一匹狩れれば撤退しましょう。」
「せやな!」
「ござる」
「あぁ、それでいいと思うぜ。」
「あとはまだ僕達は運良く怪我をしてませんが、全員前衛ですし、誰かが怪我をした場合も撤退条件に入れようかと思います。」
確かに怪我はマズイ、回復手段はないし、怪我した状態で狼が狩れたとしても、その内の一人が持てないとなると持って帰るのは体力が増えたとしても厳しい。
「それも賛成だ、折角狼を飼っても持って帰れないとか論外だからな。」
「せやな、ワイも同意するで」
「ござる」
「それじゃ今日も幸運がある事を信じて行きましょうか!」
ガイジンを前にして俺達は進む、左右に遠距離攻撃が出来るジャッキーが左、中距離が出来る槍を持つ俺が右、後方はビーダマが担う。
フォーメーションは全員で風呂に入ってる時に決めた、左右は仕方ないとしても進んで行く方向が、一番敵との遭遇が多いんじゃないか?と考えた結果だ。
縦に4人並ぶよりはコッチの方がマシかと思った、何故ならすぐフォローが入れる形になるからだが、敵が1体でも1対1はリスクがある、怪我や最悪死ねばどうなるか分からないのにリスクは背負えない。
出来るだけ足音を立てずに、話をすることも無く進む、ガイジンが立ち止まるとゴブリンが道の先に居た、3体だ。
ほぼ同時に気付いたゴブリンと俺達は接近戦しか持たないゴブリン達を迎え撃つ形を取る、3体がほぼ同時に突っ込んできた、ジャッキーがナイフを投げ、当たらなかったがゴブリンが怯む、俺は槍を突き出し一匹のゴブリンを刺した、ガイジンは真ん中のゴブリンの頭を棒で打ち据えた、ビーダマも前に出て真ん中のゴブリンにトドメを刺す。
怯えたゴブリンが急に大声をあげた
「ぎゃわぁぁぁぁぁ」
「マズイ逃げるぞ!仲間を呼ばれたかも知れない!」
俺はそう全員に逃げろと言い、森の入口方面へ走る。
ハァハァ ハァハァ ハァハァ
荒い息をする、全力疾走で入口まで逃げた、ゴブリンは追って来ないようだが、ここもまだ安全とは言えない。
「ナイス判断です、ウニオさん」
「倒して魔石獲ってからでも良かったんちゃうか?」
「ナイフが一本減ったでござる」
三者三様の言い分だが、知らない行動を取られたのは実際怖い。
「確かにナイフが減ったのは痛いし、魔石も惜しいが俺達はまだ無傷だ、一度別方向からさっきの道に向かってみないか?」
「俺は仲間を呼ばれたと思ったから逃げた訳だが、呼ばれたなら集まって居るはずだ、それを確認するだけでも今後の動きが変わってくると思うがどうだ?」
ルートを変えて、俺達は先程よりゆっくりと目的地に進む、距離的に言えばもう少しと思った時に声が聞こえる
「ぎゃうう」「ぎゃぎゃ」「きゃっ」「ぎょぎゃ」「ギーィ」「ぎゃうう」
黙ってガイジンが退く、俺達も習って退く、そのままゆっくり50メートル位来た道を戻った。
「あかんって、あんなの巣やないか、ヤバかったわ、何やねんあの数」
ビーダマは見えてなかったのだろう
「そんなに集まってたんですか?」
「俺の位置からでも10以上は居たように見えた。」
「拙者もそう見えたでござる。」
「もっとやで!15〜20はおったでぇ」
「ウニオ、マジ助かったわ、すまんかった。」
先程の俺に対する不服そうな態度の事だろう、「気にするな」とだけ言ってまた入口まで戻った。