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1 帰省

 あ〜暇だ、ゴールデンウイークとか本当に何だよ、なげーよ、こんなに休み貰っても安月給じゃ何も出来ねーんだよ!


 最初は嬉しかったゴールデンウイークとか言う名の長い連休も、3日もやる事も無く寝てばかりいると、流石に飽きる。


 今年は11連休とかではしゃぐのは陽キャと呼ばれる一握りの人種と、彼女持ちの人生最高!と喜んでいる脳内お花畑の連中程度だろう。


 とんでもない内容の言い掛かりを勝手に想像してるのは。



[阿部輝義]22歳、独身、男、彼女いない歴22年、工場勤務、犬好き、趣味ゲーム


 この程度で自分の紹介を終わる事の出来る、その辺に居る有象無象の一人だ。


「はぁ、ゲームも暫く新しいの買ってないしなぁ〜。何だよゲーム本体7万って本当にふざけんなよな。」


 NO!と言えるタイプの輝義は、割とホワイト寄りの会社に勤めているが、残業は断っているのでそこ迄金が無かった。


 先程思い浮かべたのは、金の為にしっかり残業もやって、評価も高い連中だった、輝義がクズとか言う訳ではないが、特に上の連中に気に入られる様な事も、目立つ様な事もしていない。


 会社の飲み会も断り顔は出さない、出した事もないそんな男だ、当然付き合いの悪さから特別な友達も彼女も出来なかった。


 犬好きって言えるのも、実家にいた時に飼っていたチワワのベロリアンと輝義が勝手に名付けた本名ベロが懐いていただけで、今飼っている訳じゃない。


 そもそもこのアパートはペット不可だし、自分がしなければならない世話は面倒だ。


 一つ前の型のゲーム機しか持ってない輝義はとっくにクリア済のゲームをやっている、がクリアしたゲームだ、すぐ飽きた。


 なげー休みだし、たまには実家にでも帰るとするかー。


 会社から近いと言うだけで選んだアパートは、通勤が長いと面倒だという理由から借りているだけだ、実家はそう遠くない。


 離婚した姉が子供を連れて帰って来て、うるさいから出てっただけの、何処にでも有るような理由で一人暮らしを始めた。


 最初の頃こそ俺は自由だ!なんて喜んでいたが、一人暮らしは面倒くさい事ばかりだった。


「実家の様な安心感とはよく言ったものだぜ。」


 誰に伝えるわけでもなくそう呟いた輝義は母親に連絡を取る


 LINEを開き母親に、今日帰るけどいい?とだけ、送った。


 暫くして、ピロンと音が鳴った。


 母親 良いけど泊まるの?


 輝義 そのつもり


 既読が付いてすぐ返事が来る。


 母親 ふーん分かった。


 輝義 オッケーすぐ行く。


 えーっと財布と、アパートの鍵と、スマホと、うーんあとは特別いらないか。


 その程度の荷物しか持たないまま家を出ようと、し、


「おっと靴下履いてないや」


 靴下を履いて、アパートを出た。


 向かった先は最寄り駅の小田原駅だ、実家は江の島駅から歩いてそんなに遠くない。


 片道切符を買い760円払って電車に揺られたら1時間もかからずに江の島駅に着いた、そんなに遠くない家に向かって歩く。


 ゴールデンウィークはまだ肌寒い、トレーナーを着ている輝義は足早に歩くと実家が見えてきた。


「ただいま〜」


 すぐ家に入った輝義をベロリアンが尻尾をブンブン振りながら迎えてくれた。


「おーベロリアン元気だったか?」


 よしよしと撫でる輝義に


「ベロだっつーの、おかえり輝義」


 母親の香織が口を挟んだ。


 舌を口の横から飛び出したままのベロリアンは嬉しそうに腹を出して服従のポーズをする。


「なんで輝義に懐いてるんだろうね?」

「さあ?」


 それだけ言って家の中に入った。


 元々の自分の部屋に入ると、見たことも無い子供用の玩具に侵食されていたが、輝義の部屋だ、問題はない。


 置いてきたソファーに座るとフーッとため息を付く。


「帰ってきたは良いけど何もやることねーな。」


 そう言って、押し入れの中をごそごそ漁って、手にした物は古いゲーム機だった。



 見覚えのある埃の被ったゲーム機本体を取り出すと、カセットと言われる、ゲームの内容が入った物も何本か一緒に出てきた。


「おー懐かしいなこれ、動くのか?」


 もう一度ガサゴソ探すと、配線やアダプターも全て出てくる、テレビに取付けて一本のカセットを挿す、内容はアクションだ。


「おっ付いた、なつかしー」


 暫くピコピコ遊んでいたが、荒い画像にすぐ飽きてしまった。


 カセットに大きく[?]と書かれたシールが貼ってあるそれを手に取った輝義は。


[ミステリークエストか、懐かしいなこれ難し過ぎて途中で投げ出したっけなー]


 そう言ってカセットを挿し込み懐かしいゲームを再開しようとする。


 テレビは真っ黒に何本もの線が入ってしまう、一度カセットを取り出すとフーフーと息を掛けてもう一度挿し込む。


 まだテレビ画面は黒いままだ、何度か繰り返したら画面は黒いままだが、何か文字が流れてきた。



 お気の毒ですが、冒険の書は書は書ははははハハッハハハッ。


「は?前のセーブデーターが飛ん、だ…」


 不気味な笑い声と共に輝義は意識を失った。



 目を開けるとそこは見知らぬ天井、どころか青空?どこだよここは!


 ガバっと飛び起きて、辺りを見渡した、すぐ近くに家が沢山ある、村?何だかそう言って良いような近代的な作りではない集合体があった。


 着心地の悪さに違和感を覚えた輝義は自分の着ている物を見て思わず叫ぶ。


「は?なんだよコレ!」


 くたびれたような薄汚れたクリーム色のシャツに履いた覚えのないグレーではなく、ネズミ色としか言えないようなパンツ、おかしな靴を履いている。


「意味分かんねえ。」


 ドサッとその場に座り込んだ輝義の傍に後ろから何か近付いてくる。


 ネトッとした背中の感触に跳ね上がる様にして立つと、自分が座っていた場所にぬらりとしたクラゲの様な物体が居る、触られた背中がピリッとする。


「エ、ナニコイツ、イミワカンナイ」


 思わずカタコトに成る程驚いた輝義は、少し離れて観察をする。


「何これ、まさかスライムとかいう奴?」


 ここは海ではない、海じゃないならクラゲじゃない、一番シックリ当てはまりそうなのがスライムと言う名前の、ゲームの世界によくいる雑魚モンスターだった。


「ホワイ、全く意味分かんねえ、何がどうなってんだ?リアリー?」


 普段使った事のない、知ってる英単語を引き出してまで意味不明だと、本人も軽くパニック状態だ。


 そうしてる間にも、スライムはズズッズズッと、近付いて来る。


 動きは遅いから余裕で逃げられるが、ここが何処で、何をするべきかを知るには倒す方が良さそうだと判断をした、輝義は周囲を見渡すと、手頃サイズの石しか無かった。


 石を手に取りスライムに向けて投げ付ける。


 バシュ。


 一部だけ弾けたが全然動きは止まらない。


「ダメやんけー!」


 そう言って逃げ出した、逃げる方向は集合体の村?がある方だ。


「スライムにビビって逃げるとか何のクソゲーだよ!マジで舐めてる」


 悪態をついてもどうしようもない、取り敢えず見えてきた村?へ足を運ぶ。


 意味のわからない世界だが、村の中は人が居て話す言葉は分かった、普通に日本語だったからだが。


 人付き合いの悪い輝義でも流石に気の良さそうなおばちゃんに声を掛けた。


「なんだい?ナンパ?お断りさね?あっはっはっ」


 手を振って冗談、冗談と笑っているおばちゃんを関西に居そうな人だと、失礼な事を勝手に想像した。


「すいません、ナンパのツモリじゃなくて、あの、ここ何処ですか?」


「あらやだ、こんな事を言うのも毎度の事だけど、ここは修練の村さね。」


 あっはっはと笑いながら応えてくれるおばちゃん、修練の村?意味分かんねえ。


「何だよそのゲーム設定みたいな村!」












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