第9話 雷帝と巨神
はぁ……はぁ……ここまで逃げれば追っても来れまい。
影で光が全く通らない、隠密には適した場所に隠れる。
さっき感じたこの異様な魔力の正体。俺は──嫌と言う程よく知っている。
あの日も感じた邪悪な魔力……これは間違いなくアイツだろ。
幹部のハイオーガよりも上の存在……魔王軍四天王、アルバルガ。
俺の殺すリストに入っている憎き敵の1つ。
アルバルガは魔力をこねて魔力弾にする事が出来る。
溜めた時間によって威力が変わり、上限をもたない。
つまり、溜めれば溜める程、破壊力は増してしまう……時間との闘いだ。
けど、奴はもうすぐ撃つ気でいる!
俺達にバレたって勘付かれたか!!
くそ……どうする!?
この状況下で俺に一体何が出来る?
「悩んでいる所悪いけど……貴方はこっちを気にするべき」
建物の角端に隠れていた俺は、反対の角端から声がした事に驚く。
追って……!?
「暗い所に隠れたって無駄、貴方はもう包囲されている」
おいおいマジか……身を隠す物は──あった、マント!
ゴミ箱に投げ捨てられていた物は、漆黒のマントに付属のフード。
身を隠すのには十分で、慌てて身に着ける。
「あんたは何者なんだ……?」
「知りたい?」
一歩一歩と近づき奴の姿が見える。
白髪に長い髪、右手には一本のレイピア。
無表情のような顔に、モデル体形の女子生徒。
明らかに強そうな風貌を持っている彼女は、続いて喋る。
「生徒会の会計……鬼龍志保。会長に変わって貴方を討ちに来た」
強そうな人だ……と、率直な感想。
「時間が無いから始めるけど、何か遺言ある? あるなら喋るべき」
「死ぬ気は無いんでね。鬼龍先輩こそ、ここで油売ってて良いんですか?」
引いてくれるわけもないが、冗談半分で聞いてみる。勿論答えは──Noらしい。
「Z──雷」
技名か? 足元に魔法陣が。
何が来る……そう考える間もなく、身体が動く。
直感か、第六感か。
気づけば俺の身体は、横に飛びだしていた。
は──!?
嘘だろ!?
なんでもう……目の前にいんだよ!?
前に飛び出した鬼龍は魔法陣を展開。
自身に雷を纏わせ一瞬で眼前に、そしてZの文字を描き俺を斬ろうとした。
「私の魔法は雷。雷を纏わせて最速で敵を討つ、これが私……雷帝の姿」
「雷帝……!?」
会長は炎帝と呼ばれ、鬼龍は雷帝。
学園の風潮で強い奴には2つ名が名付けられるそうだ。
コイツもやべぇ……付き合ってられるか。
──オラァよ!
俺は近くのゴミ箱を蹴り、鬼龍の邪魔をさせる。
その隙にたまらず逃げ出す。
スピードは敵わないが、機動力と頭脳じゃ負ける気は無い。
予想外を作り出し相手の思考を奪って、判断を遅らせろ。
逃げたら即座にブレードで木を切り倒す。
進行方向を邪魔された鬼龍は、雷を解除するしか無い。
次に、落ちてる石を投擲。
奴は猛者で必ず避けてくれる。
だが狙いはそれだ……避けてくれれば逃げる時間を稼ぐ事が出来るし、逆に当たればダメージを負う。
そうすればほら、鬼龍の視界から振り切れた。
このまま、他の1年に合流して何食わぬ顔でそこに立っていれば良い。
完璧な計画見えた。
しかし、計画にイレギュラーは付き物らしい。
『巨人化ァ──!』
50m先に突っ立っていた謎の男。
そいつは、意味不明な言葉を大声で喋る。
気でも引こうとしているのかと、そう思った次の瞬間。
ドクン、と心臓のドラムが響くと共に謎の男は巨大化。
突然の変異に理解が追い付かなくなってしまう。
なんだコイツ──!?
巨大化し周りの空気が追いやられて、その空気が強風となって襲ってくる。
フードが取れそうだ……一体何が起きてる。
巨大化魔法なんて、聞いたことが無い。
巨人化した奴のアフロ頭が隣に並ぶ十階建ての建物と同じ位置になっている。
「驚いてるって顔してェるなァ、あんちゃん。仕方ねェ特別に教えてやろォう……ごく僅かの人間だけがァ会得している力。それは固有能力っつう、魔法とは別の特別な力さァ」
固有能力は6属性……炎、水、氷、土、風、雷の例から逸脱した特有の魔法の事を言い、この男の『巨人化』や『治癒』などが該当する。
「さあいくぜェ。巨人の力ァ、魅せてやる。喰らえェ──!」
やばい──。
喰らえば死ぬ。
それ程までに威圧と脅威が混じった巨人の拳は、俺目掛けて振り下ろされる事は無かった。
一瞬で辺り一帯を包み込む謎の光は、俺と鬼龍、巨人も含め全てを巻き込んだ。
死──を感じる。
謎の光の正体は、四天王アルバルガの巨大な魔力弾と出雲吾郎の必殺技──『大弾炎』の衝突で生み出された、魔力の拡散だった。
拡散した魔力は広範囲に甚大なダメージを与え、中心地に居た俺は巻き込まれ──ついに意識を手放した。