第8話 炎帝 《一》
「学園長──西側の巨大な魔力、どう対応なさいますか?」
「う~んとそうだねぇ。まぁ彼らを向かわせたし大丈夫でしょ……」
「彼らって……生徒会ですか?」
「うん。強い教師陣は、生徒の護衛と東側の魔族討伐で使っちゃってるからね〜まぁ大丈夫大丈夫。生徒会は我が校でも武闘派揃いの集団だし、人数は少ないけどきっと何とかなるよ~」
「少し適当じゃないですか? まぁ確かに、彼らに任せれば安心ですが……」
「うんうん、そうそう。あっ聞いてよ~早瀬ちゃん〜この前さ──」
「ちゃん付けは辞めてくださいと、何度も言ってるでしょう学園長」
「ふぁ〜ぃ」
──コイツが、アナウンスで言っていた謎の巨大魔力の正体か?
だが、コイツからは何も感じられない。
魔力……いや、気配そのものが特に。
背中と影で、顔は判別出来ないがこの学園の制服を着ているようだな。
右手には血のついた刃物が1つのみ。
いや、奴の目の前に何か服のような物が落ちている?
──人でも殺したか?
ならば生徒会として、学園の治安を脅かす者には消えてもらうしかあるまい。
「ここで何をしているか? それは愚問らしいな。お前には殺人の容疑で──生徒会が処分する」
突然現れたコイツはいきなり意味不明な事を言いだした。
勿論、殺人なんてやっちゃいない。
「……お前といい、魔族といい、突然だよな。弁明の予知は無いのかよ」
「人間の情に訴えかけて、隙見せた人間を殺す卑怯な魔族もいる。お前がそうでないと、証明出来るか?」
なる程……帰す気は無いってことね。
この状況で、自分が人間である証明をするのは難しい。
もしそれを出来たとしても、証拠が揃っている殺人の容疑で結局アウトだ。
そして、今俺が巨大な魔力の持ち主を倒した事はバレてはいけない。
バレたら今後の魔族討伐に支障が出る。
俺が取れる選択肢は、1つしか無い。
──逃げるんだよッ!
地面を蹴り、生徒会長とは反対方向へ走って逃げる。
だが……甘くはなかった。
「逃がすと思うか?」
「──ッ!」
急に全体の温度が上昇したと思ったら、後ろから荒々しい炎が押し寄せてきていた。
当たっただけで焼け溶けそうな熱さに、思わず空へ飛び回避する。
「っつぅ──これが、超級の火力か!?」
「疑わしきは罰する。この世では情けは無用なのだ。お前は今日焼け溶ける」
炎が通った所は、地面が溶け焦げている。
こんな火力に、まともに付き合ってやるつもりは無い。
しかし、コイツを前に逃げるのは容易くないぞ。
ピピッ……。
どうやって逃げるか考えていると、出雲が持っている無線機から無機質な声が流れ始める。
『西部寮内で3名が死体になった姿で発見。どれも頭部が喰われているから、人間じゃなく魔族の仕業かも』
「なに……この近くか。その周辺に魔力の反応は?」
『無い。でも少し不自然な点もある──早急に調べるべき』
「分かった、そっちは2人に任せる。危険があれば直ぐに知らせろ」
『了解──炎帝』
話を聞く限り、明らかに魔族の仕業だ。
プラスに魔力の反応が無いという事は、かなりの上の可能性が高い。
さっきのハイオーガと同じレベルか……それ以上の可能性も。
「という事らしい……早急に貴様を葬り去る必要があるようだな」
物陰に隠れているから、顔はまだバレてはいないが、全て焼き尽くされてしまったら身を隠す物が無くなってしまう。
こっちも早急にカタをつけないと。
くそっ……ここで無能力者の弊害が出たか。防御魔法さえあれば……盾にしていけるか。
いや、中途半端な防御じゃ破られるのは目に見えてる。
「そっちを心配しなくて良いのかよ? お仲間が死んじまうかもだぜ」
「優秀な仲間に対し心配はむしろ失礼だろう。……どうした、こないのならばコチラから行かせてもらおうか」
しゃーない、もういい。こいつを此処で殺さなきゃ後が無い。
「しゃーねぇな、前に出てきてやぁ──」
俺が意を決して前に出ようとしたその時、身体が重くなるような感覚が全身を駆け巡る。
「──っ! この魔力反応はまさか!」
「──なんだと。魔力反応は既に途絶えたハズだ。ならアイツは一体……?」
ビビッ……。
『マズイよ、壊される。会長いける?』
『やべぇぞ吾郎ォ! 巨大な魔力の正体は、途絶えたんじゃない……潜んでたんだァ。もうすぐデケェの来るぞォ!』
通信機越しで2人は焦っている。
どうやら会長を求めているようだ。
なら、そっちに行かせてやっても良いだろう。
「……わりぃな会長、今日は逃げさせてもらう」
「……くっ。この状態じゃ追えないか。ならば」
諦めが早くて助かった。
俺はさっさと走って奴から離れ、既に声は聞こえなくなる。
『俺はあの空に居る奴の対処にあたる。お前達は──逃げた殺人犯を追え』
『1人で良いのかァ? まぁ分かった』
『了解』
『頼んだぞ2人共』