第7話 上級魔族
緊急続報──! 緊急続報──!
東の方向、訓練用ドーム周辺には初級と中級魔族で構成された軍を2つ確認!
数はおよそ500ずつ!
更に、西側に謎の巨大な魔力を感知!
繰り返す──西側に謎の巨大な魔力を感知!
魔力量から測定──判定は──四天王クラス!!
あっぶぅ──っ!
ギリギリ身体の前にブレードを入れ、奴の獲物である斧を防ぎきった。
そして、その反動で後ろに飛んで離れる。
「避けたか、何者だ貴様は」
「──!? 言葉を喋るのか……珍しい」
言葉を喋るコイツは3m超えの巨体であるハイオーガ。
ハイオーガは上級の中でもトップクラスに位置する実力者で、圧倒的な肉体で肉は切れず、重い斧を軽々と振り回す力を持っている。
そして、魔王軍の中では幹部クラスだ。
数秒間、腕が痺れたが直ぐに治り臨戦体勢を取る。
奴の特徴を、じっくりと見て洗い出そうとするが……さっきのハイゴブリンが消えている。
なんと、奴の真下に既に事切れたハイゴブリンが倒れて灰になり始めていた。
「いきなり現れて、味方であるはずのハイゴブリンを真っ二つにするなんてな……酷いとは思わないのか?」
「仲間意識など下らん、雑魚はタダの捨て駒にしかならんのだ」
聞いてみたがやっぱりクズだな、お前達魔族ってのは。
まぁその方が躊躇無く殺せるが。
「あぁそうだ知ってる。そういう奴等だったよなぁ……お前らは──!」
一瞬で距離を詰め、脇腹をブレードで削る。
「だからこそ、お前ら化け物には……恐怖が似合う」
「──グゥ!?」
奴は反応できずに、数秒遅れて理解する。
10年間の修業を経て、俺は四天王とタイマン張れる程に強くなった。
──お前じゃ相手にならねぇよ。
憎くて仕方ないんだよ……お前達魔族には、最高級の恐怖って奴を与えてやる。
まずは、アキレス腱──次に身体を削りながら耳と目を奪う。
奴の分厚い肉はまともにやっても切れないだろうが、耳や目だったり肉が薄い所は必ずある。
俺はそこを集中的に狙わせてもらう。
片耳を削ぎ落とし、流れを止めず目を狙う。
だが、奴も簡単には殺られてくれない。
その一刀は分厚い腕で防御される。
「おのれ……魔法を使っていないな。タダの身体能力でこの速さ。どんな修行を積んだのだ」
「知りたいか……? なら俺の目をじっくり見るんだな。そうすれば──」
腕に乗っかった状態のまま、俺はハイオーガに目をみるよう促す。
しかし、当然用心深い上級魔族は見ないだろう。
だが、それで良い。
日は登り、影の面積は少なくなる。
丁度この位置、このタイミングで奴の目に日光が当たる。
「──むっ!?」
「あ──今気づいた? でももう遅ぇよ」
今更、理解した所で無駄だよ。
日の光を目に直接浴びた奴は、目を庇い一瞬硬直する。
その隙を俺は突く!
腕に刺さったブレードを軸に身体を回転させ、奴の懐へ潜り込む。
そして、腹を蹴り飛び両目を横一文字に切り裂いた。
鈍い咆哮と共に、ハイオーガは暴れ出す。
「あれぇ? もしかしてもうギブ? そんなんじゃ恨みは晴らせないな」
「調子に乗るなよ愚図が。見えなくとも、我ら魔族ならば大体の位置は把握出来る」
そういった奴は、重い拳を地面にぶつける。
すると、ジンの立っていた場所が盛り上がり、突然鋭利な柱へ変化する。
トゲのような地面の盛り上がり方に少し驚くも、余裕を持って躱し切る。
「残念……ハズレ」
「……すばしっこい人間だ」
なる程、魔族の第六感というべき反応は、警戒するべきだな。
「さあこい人間、叩き潰してやる」
奴はそういうが素直に従うと思うか?
少なくとも奴の視界は消えてる。
他の感に頼るしか無い今、わざわざ音を出してやる必要は無い。
足音と気配を完全に消す。
そして、壁を走って奴の背後へと回り込む。
「っ何処へ行った! 逃げたのか……!」
逃げる?
おかしな事を言うんだな。
お前達魔族を前にして逃げるなんて選択肢、ある訳無いだろう。
首を切り落とすその瞬間まで──絶対に。
「何処だぁ──! 何処にぃっ──た」
ジンには、魔族に対しては容赦の欠片も無い。
視界を奪われ、片耳を欠損した哀れなハイオーガの首を切り落とし絶命させた。
殺す事に躊躇や躊躇いなど一切無い、それが……魔族に対する復讐心の表れだ。
最期、切り落とされたハイオーガの恐怖で歪んだ顔を見て──俺は醜く笑った。
血濡れたブレード、そして灰となり塵となって消えゆくハイオーガ。
壮絶だったその戦場に突如、一声響いた。
「お前は、ここで何をしている」
その声の正体は──さっき聞いたアイツの声だ。
この声は、何でここに──生徒会長が。