第6話 警報
緊急ッ……! 緊急──! 正門から東方向に、魔王軍を発見! 繰り返す──正門から東方向に、大量の魔王軍を発見! 直ちに教師陣は避難誘導もとい、戦闘準備を!
魔王軍……っ!
この厳重な警備を突破してきたのか。
やはり、このタイミングでの強襲は裏切り者が1枚噛んでいると言っても過言では無いな。
だがこの状況は何かと都合が良く、大勢の生徒の避難誘導に多くの教師陣が使われている。
抜け出すにはもってこいの状況下。
教師が分かりやすく声と誘導している中、反対方向へ歩き出す。
バレない様に、足音と気配を完全に消し外へと出た。
そういえば、足音と気配を完全に消す修行は大変だった。
どんなに足元が悪くても、どんな状態下であろうとも、心にある全ての雑念を消して無にする。
普通は目で見て、ここは避けて通ろうだとか考える。
だが、そんな事をすれば雑念として表に出てバレてしまう。
そこには人が居ない──そう世界に認識させる事が重要だと師匠には教えられた。
列が乱れて、混乱のせいか混雑していた。だからその中を突破するのは容易。
辺りを見渡しジンは東の方向を確認する。
東には、寮とは反対方向にある訓練用ドームがある。
そこに大軍が攻め込んできているのか。
普通ならそっちに行くべきだが、それは他の奴に任せても問題は無いだろう。
問題は、《《あっち》》にもいる可能性があるということ。
その可能性を危惧し、歩を進めようとしたその時だった。
「あっれぇ~? もう先客がいるじゃぁ~ん、先越されたかんじ?」
「ふん……俺達のように、戦闘狂でもあるまい。それはないだろう」
会場前で決闘していた青髪の剣士と、金髪の優男が現れる。
マズイな間が悪い。
「ねぇ君、もしかしてぇ僕達と同じで攻め込むかんじぃ?」
「いや……そういう訳じゃない。寮に忘れ物をしたんで、取りに行くだけだ」
不思議そうに質問する優男に、怪しまれないように振り向き返答する。
「この男は確か……」
「同じ組の人じゃなぁ〜い。僕ちゃんの目の前に並んでたよ」
「俺は神楽ジン……多分きみら2人と同じA組にいる。外へ出たのもタダ忘れ物を取りに行く用があっただけだ」
自己紹介も含め、俺は事件とは関係ない事を伝える。
「まぁそうっぽいねぇ。それじゃあ行こっかぁザース君」
「貴様、ジンと言ったな。最初の犠牲者にならんよう気をつけるんだな」
「あぁ、そうする」
そう警告を鳴らすザースとは対照的に、金髪の方は楽しそうに笑っている。
「んじゃぁ~レッツらゴォー!」
2人の足元に魔法陣が出現すると、中心から柱が作られ2人はあっという間に空へ向かってしまった。
一瞬で土の柱を生成したのか、あの金髪、かなり手慣れている。
あのレベルになれば、戦闘では大いに役立つだろうな。
そしてあのザースとやらも流石だ。
風魔法を使って、自分と金髪を浮遊状態にしてる。
中々出来る芸当ではない。
あの2人なら、内部まで魔族達が侵入してこないよう食い止めてくれるハズだ。
なら俺も……やるべき仕事をやらないとな。
勿論極秘で。
魔族の大軍は東方向。
でもそこにはきっと強者はいないはずだ。
……魔族は卑怯で狡猾だから奴らは必ず裏をかいてくる。
コレは、10年間の修業を含めて、《《あの時》》で身に染みて理解している。
──では一体どこに強者はいるのか。
その問いの答えは、裏で盤上を操る黒幕は決して姿を見せたりはしない。
つまり奴らは、魔族とそして俺達の動向を察知出来る範囲。
尚且つ、裏切り者とコンタクトを取れる位置にいる。
その位置は全体を見渡せる……西の屋上!
必ず強者はそこにいる。
建物と建物の間の陰を利用し、なるべく暗く死角になる場所を移動する。
足音と気配を消して、聴覚と直感からも反応出来ない様に徹底的に陰に潜む。
魔族は異様に五感が発達している。
些細な音も見逃さないだろう。
奥へ奥へと進み、もう使われていない廃寮の場所まで入り込んだ。
ここなら人は居ない。俺なら……ここの屋上で見渡すな。
ジンは1つの屋上を観察するように見上げる。
すると、パキッ……と木の枝を踏んだような小さな音が鳴り、即座に振り向くと、大慌てで建物の角に入り込む謎の影が見えた。
──っ! 魔族かっ──!
瞬時にスタートを切り、追いかける。そして曲がり角で急停車。
謎の影の正体を確認する。
フードを被ってる、まさか人間か!?
しかし、フードで顔が見えず魔族かどうか判別出来ない。
だがそんな疑問は直ぐに解消されることになった。
フードからうっすら見えた赤色の長い鼻で魔族だとジンは確信する。
チッ……ハイゴブリンか。
初級の統率の取れないゴブリンとは違って、中級で群れを成す厄介な化け物。
──早急に片付ける。
逃さぬように、腰に隠していた刃長50cmのブレードを取り出し一直線に飛び出す。
そして刃先が、逃げ惑うハイゴブリンの首に刺しかかろうとしたその瞬間だった。
突然俺とハイゴブリンを覆う謎の影が現れ、完全に身を包まれる。
──っ……!?
この影の姿はハイオーガ……まさか上級かっ!
この位置は──マズイぞ。
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