第5話 入学式 《二》
会場に続々と人が集まって来て、殆どの席が埋まった。
そんな中、開始時刻に達したのか、1人の生徒が壇上へと上がる。
「皆さんおはようございます。生徒会長の出雲吾郎です。手短に話ますが、この王立学園は……過去300年の歴史を持ち、その過程で、多くの戦争を経験してきました。戦争は王立学園が舞台になる事が多く、その度に多くの犠牲者を出し、1段階進化してきました。しかしながら、戦争の英雄となった生徒や沢山の民を救った生徒もまた多くいます」
生徒会長の演説は続き……
「皆さん新入生には、これから待ち受けるであろう戦いの戦力なれるように、日々弛まぬ努力をして欲しいと思っています。以上、生徒会長出雲吾郎」
約一分程の演説が終わり、学園長の話に移 る。
学園長、招待状貰った時もそうだが……話長いんだよな。
貰うだけで、1時間かかったからどうなるか。
「ねぇ、ねぇ」
「……?」
「君もA組?」
突如、隣に座っていた子が小声で話しかけてきた。
「あぁ、A組の神楽ジン」
「えぇ〜そうなんだ。私もA組、故戸塚茜って言うんだっこれから宜しくねジンくん」
「よろしく」
故戸塚は、『学園長の話って決まって長いから嫌だよね~』と気さくに話しかける。
俺は共感するように返事をして、会話の主導権を相手に掴ませる。
その方が色々とやりやすい所もあるからだ。
それに話し相手がいた方が良いだろう。
退屈で長時間かかるであろう学園長の話を聞かなくて済むからな。
勿論、リアクションに緩急をつけて聞いてます感を醸し出す事も忘れてはいない。
そうして10分程経過したタイミングで、学園長の話が終わった。
1時間はかかると思っていたから少し拍子抜けしたが、その方が良かったのかもしれない。
だが、この後には……那須先輩が言っていた魔法属性と練度の判定がある。
無能力者がこの王立学園に何人いるか分からないが、目的の為に目立つ事だけは避けるべきだ。
そして、プログラムは切り替わり遂にこの時間がやって来た。
新入生は約330名と大勢からか時間がかかると思われた。
しかし、判定機械は30個と多く、魔法練度の高い教師が魔力を注ぎ込んでいる為に1人1分と短い。
それにある程度一斉に測るためか、例え無能力者でもそこまでは目立たないだろう。
少し安堵していると、再び壇上に生徒会長である出雲吾郎が立った。
出雲が立つ前には1つの判定機械が設置されていた。
どうやら今から生徒会長が手本となる様に、判定機械を使って属性と練度を測るらしい。
──今から生徒会長、出雲吾郎が判定機械を使用します。使い方をよく見て下さい。
説明を合図に、出雲は丸い水晶玉のような物に手をかざす。
そして1分の時を待った次の瞬間、水晶玉が赤く光り輝いた。
そして上にあるモニターからは、こう書かれてあった。
────────────────────
名前:出雲吾郎
学年:3学年
属性:炎魔法
練度:超級
────────────────────
一瞬静寂に包まれた、と思ったら一気に歓声に包まれる。
超級という格が違う階級に、みなが驚き興奮している。
超級は上級よりも上の階級で、並外れた努力も勿論だが、才能も必要だと言う。
盛り上がってきた所で、全員の検査が始まった。
既に半数の人間が測定が終わっている。そこで気付く事があった。
やっぱり全員が全員、初級か中級……無能力者どころか、無級すら見当たらない。
分かっていたが、能力者達が集まるこの集いで無能力者の俺は一体どんな反応をされるのだろうか。
皆の反応について考えていると、俺の前でプルプルと震えている女子を挟んで前にいる青髪の剣士が目に入る。
あいつは確か……決闘で戦ってた奴の1人。風魔法を使う剣士か。
青髪の剣士が水晶玉に手をかざすと、その1分後に判定が出る。
──風魔法……上級──
上級という結果に見ていた人は驚く。
上級もやはり凄い部類にいる為か、青髪の剣士に注目が集まった。
しかし、青髪の剣士は少し不服そうな顔持ちだった。
ふん……魔法に頼るようでは2流。
俺には剣さえあれば十分だ。
青髪の剣士はそう呟き、列の後ろに戻ってく。
次は異様な程身体を震わせている女子の番だが……どうしてこんなに、怯えているのだろうか。
クリーム色の髪色をした子は、震えながらも何かに祈るように手を合わせ、意を決して手をかざす。
──なし……無能力者──
くすくすと笑い声が聞こえ、ジンはようやく気がつく。
この子も俺と同じ無能力者──。
本来、無能力者は王立学園に入学出来ない。
俺と同じで身体能力と戦闘能力を買われたか……もしかしたら、それ以外の特別な理由があるかもしれない。
何にせよ今の周りの反応からして、無能力者は歓迎されてないのは確からしい。
だが仕方ない……無能力者の宿命のような物。それを承知でこの学園に来たんだ。
ジンは水晶玉に手をかざした……次の瞬間。
突如として、全員の耳を揺らした重音。
それは、あの日の惨劇と同じ……鈍く重い警報だった。