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第3話 あの日の惨劇 《一》

 母が外の様子を見に行ってから、数分が経った頃、何やら外が騒がしくなってきた。


 悲鳴、金切り音が入り混じり、とても不愉快な音。また化け物が襲ってきたのか。と思うと同時に母は大丈夫か。と心配になってくる。


 もしかして……と嫌な想像を膨らませ、身体が震える。その時だった──、キュイーンと扉が開いた音が耳を通り抜けた。


 扉が開いた。それは、母親が戻ってきたのか……それとも化け物が中に入ってきたのか。安堵か絶望かの2択を強制的に迫られる。


 トンッ……トンッ……。


 足音が近くなったり遠くなったり、明らかに探し回っている様子に、ジンは絶望した。 

 

 何故なら母親であれば、一発で押し入れの中だと分かるから。


 息を殺し、暗闇に潜む。バレたら終わりのこの状況下で、ジンの身体は限界を迎えていた。狭い押し入れの中、ずっと同じ体勢のままでいる。このタイミングで、身体が悲鳴を上げしまい、耐えるに耐えられなくなってしまった。


 そして、少しなら良いだろうと足を伸ばしてしまった矢先、トンッ……! という壁を蹴った音が、部屋全体に響いてしまう。


 その音を聞いたのか、足音がどんどんと近づいてくる。


 もう駄目だ、と悟り諦めていると押し入れの扉がゆっくりと開く。目を瞑り怯えるジンに、扉を開けた化け物は一向に手を出してこない。


 だが、入ってきた光に導かれるようにゆっくりと目を開けた……その先には、見知らぬ男が立っているだけだった。


 助かったのか、それとも別の何かか……言葉が全く出ない。すると、見知らぬ男は……ジンを見ておもむろに喋りだす。


『この家に、子供が1人。なるほどな……聞いていた通り、やはりこの子は……。坊や、俺に付いてこい。この島から脱出するぞ』


 何かを決心したかのように、見知らぬ男はジンに手を差し伸べた。


 『誰』という問いに、見知らぬ男はまるで決め台詞のように言葉を発する。


 『──俺の名は、神楽正広。魔族を滅ぼし、世界を救う英雄ヒーローさ』


 その言葉で確信した、この男は……自身が憧れていたお父さんなんだと。


 そこからは早かった。次々と魔族を葬り去り、道を作る。たった一本の剣で、魔族を圧倒していた。その姿に、また強く憧れを抱く。


 少し時間が経ち、海沿いの洞窟までやって来た。そこには、一艘いっそうの船が浮かび、何人かそこに乗っているようだった。


 強面の男、幼馴染の杏子きょうこ、村人数名。その中の強面の男は、ジンのお父さんに近づき話しかける。


 既に船に乗っていた為、会話の内容は分からないが、2人とも親しげに話していた。


 その様子を見て、脱出出来ると安堵したのも束の間、母が船に乗っていない事に気がつく。


 母はお父さんを探しに行くと言ってから、まだ帰ってきてなかったのだ。


 ジンは親しげに喋る2人の所へ行き、母が居ないと泣きそうな顔で訴えた。しかし、返ってきた返答は……ジンの望む答えでは無かった。


 『真実を聞きたいか?』──と問われ迷わずはいと返答する。


『魔族は狡猾で卑怯……それは周知の事実だが、四天王や魔王は頭も良い。恐怖に支配された人間の行動など、いとも容易く予知出来るだろう。だから決まって奴らは、恐怖を使う。一度、魔族が撤退したという安堵を感じさせ、逃げさせる。が、実は隠れて待ち伏せしていたという……罠』


 ジンの父は悲しそうに、事の顛末を語った。


『お前の母さんは──待ち伏せていた魔族に呆気なく殺されてしまったよ』


 最後の一言を聞いた瞬間、膝から崩れ落ち時が止まったように固まる。


 ジンの幼い心に、強烈で最悪な真実。目の前が真っ暗になり、何度も吐く。精神は……その真実に破壊され、意識は暗闇に消えた。


 だが、たった1つ、胸の内を支配した感情──それは魔族を滅ぼしてやるという根強い『復讐心』だけだった…………。



 それから、何時間、何日か経ち……目を覚ます。


 辺りを見渡していると、見たことがない壁や家具が見え明らかに自分の部屋では無いと分かった。警戒していると、扉が開きお父さんと親しげに話していた見知らぬ男が現れた。


 その男は、あの後の流れを知り教えてくれた。そして……のちに師匠となるまでに至る人物でもある。


 師匠の名は……呀狼がろう琉斗。ジンの父、神楽正広と長年のライバルで、親友でもあり、戦友でもある実力者。


 呀狼は正広に頼まれ、ジンの世話をしてやって欲しいと頼まれていたそうだ。


 修行までしろと話していたのかは不明だが、とにかくスパルタでキツかった。それでも諦めなかったのは、やっぱり『あの日の惨劇』から皮肉な事に精神が成長した事。そして、母の仇討ちも含め、魔族を滅ぼしてやるという強い気持ちがあったからだろう。


 後から聞いた話だが、父は今行方不明になっているらしい。なにせ、あの孤島には四天王が2つと魔王が来ていた。


 父さんの事だから、生きていると思うけど精神的に少し心配だ。魔族が襲来してきた理由は、英雄である神楽正広に故郷である島を破壊して、名誉を傷つけ絶望を与えようという……魔王の策略だったと聞いた。


 だから、俺はさらに『復讐心』を燃やした。島を荒らし、母を殺し、父の名誉を傷つけた魔王と四天王は、絶対に許さない。


 今度は俺が──オマエラを絶望に落とす番だ……。そう深く心に決め10年間を修行をやり遂げて、俺は今ここに立っている。

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