第1話 招待
──魔族が生まれた日、世界は止まった。
人々は蹂躙され、多くの人間達が逃げ惑い、不安と絶望の渦に落とされた。
そんな絶望の中……立ち上がった者達が居た。それは、特別な力を覚醒させた魔法使いと呼ばれる能力者達の事だった。
魔法使いは魔法を使い、魔族に対抗する手段を得た。それから300年続いた魔族と人間の戦いで、人間は一体何を得たのだろうか?
──強力な魔法?
──驚異的な戦闘能力?
──革新的な科学技術?
全部違う。得た物は、たった1つの心。
──『復讐心』だけだ。
俺のような、絶望と憎しみの地獄へ叩き落された人間が1人出来ただけ。
復讐──復讐しなければ、この『復讐心』は収まらない。絶対に──ゼッタイニユルサナイ、奴らを滅ぼすまでは──。
4月9日、入学式。
俺はある人の勧めで王立学園に向かっていた。
王立学園は世界有数の武闘派校で、長年戦争の前線で活躍する猛者を数多く輩出している。
ここは人類の最終防衛地点と呼ばれる重要な都市だからか、王都の周りを囲むようにして巨大な城壁がそびえ立っていて、俺も一度城壁の4つの門、通称──『4つの城門』で、出入りの時に厳重な検査をされた。
王国の外は、魔族が蔓延る地獄の世界になっていて多くの危険があり、他の街に行く時は原則4人1組のパーティを組んで行動すると聞いた。
実際、王都行きの馬車に乗って数日間。
何度か魔族に襲われる事もあった。
低級の魔族だったから、護衛に任せても何とかなったが……これが中級や上級になると俺の出番になってもおかしくは無かっただろう。
旅の最後、俺は『4つの城門』の内の1つで検査を受ける事になった。
俺の前には10人程人が並んでいて、その中には王立学園の制服と思われる人物も1人いた。多分俺と同じ新入生だろう。
そう思った理由の1つに、門番にある手紙を渡していたからだ。
この手紙はいわゆる招待状というやつで、この招待状が無ければ王立学園には入学出来ない。
つまり、この招待状を持っていれば王都に入ることは容易になる。
俺も似たような手紙を所有している為、厳重と言われる検査はすぐに終わる事が出来た。
そんなこんなで数日間の旅と厳重な検査を乗り越え、今俺は──ここ、王立学園の正門に立っている。
王立学園へ入ると長さがバラバラな長方形のビル群や整備された地面が、他との格の違いを見せつけてくる。
そんな第1印象を、俺は抱いた。
招待状には、男子寮は正門を正面に見て、右側にあると書いてある。
俺は物珍しい光景を目にしながら、少し心を躍らせ自分の部屋へと向かった。
ここ、王立学園は計1000人の生徒数を誇るマンモス校でいくつものエリアに分かれている。
商業施設や娯楽施設、複数の校舎と寮。
世界中の技術が集められ作られた、まさにユートピアと言える場所。
『何故こんな設備が整っているか』という疑問を抱いた学生も数多くいる。
そんな学生の為に、招待状に付属してあったパンフレットにはこう説明が書いてあった。
────ようこそ王立学園へ。
ここ王立学園は過去300年の歴史のある学園。
今までの歴史の中で、魔王軍との多数の激戦を繰り広げた我が校はその度に一段階進化してきました。
それは魔法や戦闘技術だけではなく、要となる王立学園の建物も同じです。
過去300年の魔王軍との戦争記録は、これから起こるであろう戦争に大いに役立ち、そして、今まで王立学園で育った生徒の多くが本来犠牲になるハズだった民を救っています。
この事実と実績に基づき、我が校『王立学園』は世界中の技術が集まり、最終防衛地点の名に相応しい、鉄壁の学園となるに至ったのです……。
──end.
戦争の舞台となる度に、進化した王立学園……一見聞こえは良いが、それはつまり、何度も魔王軍の侵攻を許しているという事だ。
そして、入学前に調べていた調査書には年間死者数はおよそ100名……1割方は戦争やその他の要因で死んでいる。
──コレは明らかにおかしい。
何故魔王軍の侵攻を何度も許し、年間で多くの死者数を出しているのか。
俺が原因を見つけ出す必要がある。
王立学園には間違いなく、裏切り者……いや、魔王軍のスパイというべきか。
ソイツが必ず存在する。
俺の目的を完遂させる為には、このスパイは邪魔だ。
魔王軍がアッチからやってくるという点では、俺にとって都合は良いが……最初から不利な展開を望んでいる訳じゃない。
──魔王軍を滅ぼす。
この目的はゼッタイにやり遂げる。
その為に人生の大半を修行に注ぎ込んできた。
スパイだろうが魔王だろうが、全員俺が滅ぼしてやる……そう、どんな手を使ってでもな。
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