腕時計
腕時計しません。
われわれの手首が腕時計を巻かなくなっても
枷から解き放たれて
時間に縛られることがなくなったわけじゃない
その流れを緩める堰も
その針を休めておく針山も
だれひとり手に入れることはかなわずに
かつてより
ほんの少しだけ軽くなった手首をふって
自由を得た囚人の真似事をするように
あおむけになって 青空なり 天井なりを
ぼぉっと眺めてみたりしているのみだ
だけど われわれの手首に巻きつくのをやめたって
時計がなくなりなどはしないし
その緩まない流れも その休まない針も
われわれの手首とは違う場所で
変わらず時間を刻みつづけている
ぼおっと青空や天井を眺めるひとときを
幸運にも取り戻したところで
われわれはけっして それを忘れちゃあいけない
てか、持ってません。